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8.side 王弟殿下

応接室に入るまで、俺は確かにこの婚約を王命として受け入れていた。だが彼女を見たとき、そんな無味乾燥な考えは一瞬で吹き飛んだ。

「お初にお目にかかります、ヴァンナム伯爵が娘、ソフィアにございます」

鼓動が激しくなって、軽くめまいすらする。彼女から目が離せない。俺はきちんと挨拶ができたのだろうか。

「ウィル、ご令嬢に温室を案内してあげてはどうかな」

兄上の言葉で我に返って、あわててソフィア嬢をエスコートをした。隣に立つとソフィア嬢の香りに包まれる。それにくらくらしながら温室へと歩みをすすめた。

「まぁ」

温室のバラにソフィア嬢が目を輝かせた。その眩しすぎる笑顔に俺はすべてを持っていかれた。

これが恋というものなのだろう。王族として、意に染まぬ婚姻を受け入れる覚悟はしていた。誰にも心を動かさぬよう気を配ってはいたが、そんなちっぽけな気構えなどなんの役にも立たない。

温室の中はバラで溢れかえっている。上限なく増えるそれに呆れていたが、ソフィア嬢が喜ぶなら何万本でも用意したい。

必ず彼女の心を得てみせる。

ソフィア嬢と温室をそぞろ歩きながら、俺は決意した。


シーズン開始の夜会、ソフィア嬢をエスコートして会場を進む。男どもが彼女に見惚れているのがわかった。見せびらかしたい、だが誰にも見せたくない。変な感情に振り回されながら壇上へとあがる。

兄上からの婚約発表を受けて、俺たちはダンスを披露した。

ソフィア嬢は俺を見ているが見ていない。

「考え事ですか?」

「殿下は人気がおありなのね」

他の令嬢が嫉妬の視線を向けるのだという。

そんなことはどうでもいい。貴女は?貴女は俺をどう思ってる?

「わたしは貴女に恋する哀れな男です」

「ご冗談を」

俺にとっては最大限の告白だったのにソフィア嬢には全く伝わらなかった。どうやら彼女にとって俺はその他大勢のひとりのようだ。

その蒼玉(ブルーアイ)に俺を映してくれ。狂おしいほどの渇望がわき上がる。これほどの激情が俺の中にあるとは。

常に感情をコントロールしてきた、感情に任せた浅はかな言動に足をすくわれてはならないから。

でもこの想いを隠すなどできそうもないし、隠さなくてもいいと思う。俺たちはいずれ結婚する。夫婦なら愛し合うのは自然だ。

ダンスのペアを組んだ男女が分かれる際、慣例として男性は女性の手にキスをする。俺はわざとソフィア嬢の手のひらにキスをした。手のひらへのキスは懇願、あなたが欲しいという意味だ。

キスと共に熱を込めた視線を向けても、ソフィア嬢は涼しい顔をしてそれを受け取った。

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