7.side 国王陛下
ここからは各人の目線で振り返りしていきます、
4話お付き合いください
弟が王族の重責にあえいでいたことは知っていた。だがそれを外してやることはできない。せめてもの息抜きの場として、リタ子爵家を用意したのは他でもないこのわたしだ。
ウィルオーレンとリタ子爵(そのころは子爵令息であったが)は、同じ騎士として親しくしていたが、結局、彼は騎士団を辞して爵位を継いだ。
将来有望だった元騎士のリタ子爵は王族の護衛として申し分がない。
リタ子爵には妹がいたがウィルオーレンとおかしなことにならぬよう密かに婚約者を用意し、子爵家には支援という名の援助をし続けた。もちろん迷惑料だ。
予定が狂ったのは令嬢の婚約がなくなってからか。
なにがあったのか急に婚約を破棄され、傷心だった令嬢が見目麗しい弟にすがってしまった。
それでも身分を考えればなにも起こらなかったろうに、子爵は令嬢に一切をふせていた。
確かに見え透いた嘘がなかったおかげでウィルオーレンの心は落ち着きを取り戻したのだろう。それには感謝している。
しかし悪いことにリタ子爵領は遠征への道順の都合、騎士がよく立ち寄る。ウィルオーレンにまとわりつく令嬢を多くの者に目撃されてしまった。
その結果、王弟殿下には意中の令嬢がいる、という事実とは真逆の情報が社交界を駆け巡ることになった。
この火消しのため、かねてから婚約を打診していたヴァンナム家に了承を急かした。案の定、夫人は激怒したという。他の女に夢中になっている男に娘を嫁がせるなど、まっとうな親なら誰もが反対する。
ヴァンナム伯のリチャードは狡猾だと言われているが、実際には群を抜いた愛妻家で、夫人に笑顔を与えられたいだけの男だ。
いつのことだったか、我が妃が茶会を開いた際に、隣国の珍しい茶葉が話題にのぼった。
ヴァンナム伯爵夫人がそれを夫に話し、飲んでみたいわね、と言った、たったその一言のために、あの男は恐るべき短期間で販路を確立させたのだ。
その手腕をほめたところ伯爵は真顔で、妻の望みをかなえるのが夫のつとめでございます、とのたまった。お前の主は誰だ、と問いたかったのは言うまでもない。
夫人がこの縁談に反対である以上、伯爵は絶対に是と言わない。
そこを曲げての顔合わせだ。国賓と同じ、最高級の接待を用意した。
こちらが誠意を見せたことで夫人の留飲は少し下がったようだ。あとは伯爵が説得してくれるだろう。
それに、と、ちらりと隣席の弟を見た。如才ないウィルオーレンにしては珍しくぼんやりとした顔をしている。
やつはどうやら一瞬で恋に落ちたようだ。表情を作って悟られないようにしているところがまた滑稽だが、兄であるわたしには呆けているようにしか見えない。
相手は【国一番の淑女】。いろいろな思惑があって決定した婚姻だが、そこには愛があるほうがいい。
弟の恋を応援するために、王族のみに許された温室への出入りを許可した。令嬢をともなっていそいそと出ていくウィルオーレンに思わず苦笑した。