5.side ヴァンナム伯爵
ソフィアのお父さん目線です、微エロです
娘を王弟殿下にお任せして、わたしと妻は先に屋敷に戻ることにした。
わたしには王宮での執務がある。本来なら残るべきなのだが、妻の機嫌がすこぶる悪い今、仕事より彼女を優先するのは当然のこと。
ホールにはすでに馬車が用意されていた。ひどい雨で地面は濡れている。
「カリナ、待ちなさい」
馬車に乗り込もうとしていた妻を呼び止めると彼女はいぶかしげにこちらを見た。
王家からの国賓級の扱いに少しは留飲が下がったのだろうがそれでも機嫌が悪い。
触れたら怒られるとわかってはいたが最愛の妻の足が濡れるなど、あってはならない。
「ちょっと、リチャード!」
彼女を横抱きにすると案の定、彼女は怒ってわたしを叩いた。
だが女性の力でどうこうなるような鍛え方はしていない。今でこそ殊勝な伯爵だが息子たちと同様に、わたしも昔は騎士として勤めていたのだ。
そのまま馬車に乗り込んで彼女を膝に乗せたまま出発した。
妻は恥ずかしげに顔を赤らめている。子どもを3人も儲けたのに彼女の愛らしさはなにひとつ失われていない。
「すまなかった。君の足を濡らしたくなかったんだ」
そう謝ると妻は少し驚いて、でも、ありがとうございます、と礼を言い、軽くキスをしてくれた。
これでもう喧嘩は終わりだ。
それからわたしは殿下のことを妻に説明した。殿下はご令嬢のことはなんとも思ってない、誰の目にも明らかだ、と。
「そうかしら。その割には入れ込んでると聞いてるわ」
「ははは。本当にそうならとっくの昔に手折っているさ」
そういうと妻は黙った。この手の話はご婦人方には刺激が強いのか、噂にはなっていないようだ。
「男が本気になったら見つめ合ったり手を握ったり。それだけですまないのは君もよくわかっているだろう?」
妻の顔を覗き込むと彼女はさらに顔を赤らめた。そう、かつてわたしは『本気』で彼女を口説いて妻にしたのだ。それは彼女も忘れてはいない。
「わたしは今でも本気だよ。本気で君を愛しているんだ」
そうささやいて彼女の唇に己のそれを重ねた。
最愛の妻が産んだ娘を不幸にするわけにはいかない。わたしは娘を愛しているがなによりも妻を愛している。妻の幸せを願うなら同時に娘を幸せにしなければならない。
愛しい妻を存分に味わう。そう、愛するとはこういうことなのだ。