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4.顔合わせ

その日は朝からどんよりとした曇り空だった。

朝早くからたたき起こされ、メイドたちに念入りに磨き上げられた後、ドレスを身につけた。

バラの装飾がふんだんに取り入れられた豪華なものを選んだ。王族に面会するのに質素な装いでは失礼に当たる。

メイドに仕上がりを確認してもらい、ホールへと降りた。

お父様、お母様とともに馬車に乗り込み、王宮へ向けて出発する。

お母様はこの縁談に強く反対しており、メイドの話ではお父様と冷戦状態だとか。二人は一言も会話をしない。

重苦しい空気のなか、王宮に到着すると同時に雨が降り出した。


案内された応接室は国賓を招く際に使われる最上級の部屋だった。この縁談に対する本気度が垣間見える。

王家の対応にお母様の留飲はやや下がったようで、作り物の笑顔の中に少しばかりの華やかさが加わった。

わたしたちが入室してまもなく、陛下の来室が知らされた。起立し、視線を落として出迎える。

「ヴァンナム伯、夫人、それにご令嬢。よく来てくれた」

陛下にお声かけを頂き、顔を上げた。


「お初にお目にかかります、ヴァンナム伯爵が娘、ソフィアにございます」

「初めまして。ウィルオーレンです」

何度か夜会で殿下をお見かけしたことはあるが、こうして挨拶をするのは初めてだった。

王家特有の銀髪に夜を思わせる漆黒の瞳。女性の間では密かに夜の君と呼ばれている。

さすがは王族と言うべきか、美しい微笑で表情をうまく隠している。

本音はどこにあるのか。

探ってみたかったがすぐに止めた。王家の教育を受けた者にかなうわけがない。

談笑する両親を横目に出された紅茶を静かに飲んだ。視線を感じて顔を上げると殿下がこちらをじっとみていた。なにか話があるのかと思い微笑んでみせると彼はさっと目をそらした。

なにか気に障ることでもしたかしら?

腑に落ちなかったが問い詰めるなんて礼儀がなってないし、なにより不敬にあたる。

「温室なら雨の心配もない。是非行ってみては?」

陛下のお言葉で殿下とわたしは連れ立ってその場所へ向かった。


「まぁ・・・」

温室というものに初めて足を踏み入れたが、見渡す限りのバラに圧倒され、思わず言葉を失ってしまった。

殿下に促され、さらに奥へと足を踏み入れる。

「バラはお好きですか?」

「はい。香りが気に入っているのです」

「今日のお召し物もバラですね。とてもよくお似合いです」

「ありがとうございます」

社交辞令である意味のない会話をしながら、バラを眺め、楽しむ。

が。

屋根に叩きつける雨音はますます激しさを増し、とうとう雷まで鳴り始めた。

あまりの悪天候に思わず黙り込む。気まずげに殿下を見ると彼もまた困った顔をしていた。

「戻りましょうか」

「はい」

こうしてわたしたちの顔合わせは終わった。


「この縁談は止めるべきだと、天が言っております」

屋敷に帰ってすぐお父様の執務室を訪れたわたしは絶対の自信をもって告げた。

「王家からのご縁談だ。お断りすることはできない」

ごもっともな意見を吐いた。

その『ごもっとも』を捻じ曲げてのし上がったのがお父様でしょうに!

王家の申し出ぐらいつっぱねろと、実の父親にむかって侮蔑の視線を浴びせてやる。

お父様の視線がスーッと逸れていった。

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