3.side 長兄(エディオリス)
その日の夕食の席で、父上から正式にソフィの婚約が知らされた。
父上が言い終わらないうちに母上は反対を述べた。
自室にいると弟がやってきて、妹の婚約について話をしだした。
「母上も含めて女性はアンナ嬢が気になるんだろうか」
「言い方は悪いけど彼女はただの野草だ、王族に連ねるなどできるわけがない」
本気で彼女を王弟殿下の妃にするなら高位貴族の養子にすればよい。陛下になら容易いことである。
それを是としなかったのは、彼女が王族にふさわしくない娘だと判断されたからだ。山ほどの淑女教育を施したところで、上辺すらとりつくろえるか微妙なライン。
確かに俺たち騎士には評判がいい。気安く、気立てがよく、明るくて、働き者。とてもいい娘だ。
だが貴族としてみたとき、彼女の気安さはともすれば下品に映るし、気立ての良さは付け入られる隙になりかねない。
それならば屋敷にとどめておくしかないのだが、それでは彼女の明るさが台無しだ。それに働き者の彼女のことだ、おとなしく屋敷にこもったりはしないだろう。
つまり彼女は高位貴族にとってよい結婚相手ではない。下位貴族、いや裕福な商家、そのあたりがお互いにとって幸せな場所であろう。
「なにより殿下はアンナ嬢のことをなんとも思ってない」
しかし殿下が特定の女性と親しくすることは今までなかったし、それを考えると周囲が騒ぐのも自然なことかもしれない。
「アンナ嬢はべた惚れなんだろう?」
「殿下を前にして冷静でいられる令嬢なんていないさ」
「そうかな?俺たちはひとり知っている」
にやりとしたアリィにエディは渋い顔をした。
そうだ、我が妹だ。【国一番の淑女】などと言われているが、わたしに言わせたら妹は国一番の女事業主だ。
領地に関わる教育を受けたがるところからしてもはや淑女ではない。そのうえきちんと成果を出している優秀な経営者。
ソフィはこの縁談を父上の画策による結果だと思っているが、わたしは王家からの打診だと推測している。
この国の周辺は長く平和が続き、経済は飽和状態にある。手っ取り早く新たな資金源を産み出すなら戦争だがそれは下策。
となると既存の産業にテコ入れするしかない。白羽の矢が立ったのは女性を中心とする社交界なのだろう。
今まで放置されていたのは経営に明るい女性がいなかったから。
そこにソフィという【国一番の女事業主】が現れた。おあつらえ向きに王弟殿下と歳の頃も合う。
これはもはや国政レベルの縁談で、惚れた腫れたなどと言ってる場合ではない。なぜ女性にはそれがわからないのか。
思わずため息の出たエディをアリィは見咎める。
「また難しいことを考えてるんだろう?」
「普通だろ」
今度はアリィがため息をついた。
「エディにとってソフィは可愛い妹だよな?」
「もちろんだ」
「可愛い妹には幸せになってもらいたいだろう?」
「当然だ」
「なら妹は夫と愛し合って夫婦になる。それでいいじゃないか」
アリィの短絡的な考えにはあきれたが、なるほど、と思った。