2.お兄様がおっしゃるには
グレーム王国、ヴァンナム伯には子どもが3人いる。その末娘がわたし、ソフィア・エリザベス・ヴァンナムだ。
ヴァンナム領はそれなりに産業があり、また歴代の当主がなかなかの商才持ちで豊かな財政を保ち続けていた。
世の中、金がすべてだとまでは言わないが、やはり財力のあるところに権力は集まる。
我がヴァンナム家は伯爵位でありながら有力貴族の一員として、国内外から一目置かれる存在であった。
「ソフィ、おめでとう。婚約が決まったんだってね」
自室に戻る途中、兄二人と会った。
グレーム王国では珍しい黒髪のほうが長兄のエディオリス、輝くような金髪のほうが次兄のアリオスで、色の濃さは違えどわたしたちは三人ともお父様譲りの蒼玉を持っている。
二人とも今は騎士として王宮勤めをしているが、いずれエディオリスは領地経営に専念し、ヴァンナム伯になることが決まっている。アリオスはまだ将来を決めかねているようだ。そのまま騎士となるか、どこかの令嬢と結婚して婿養子になるか。
彼は外国語が堪能だから、それを活かした職業を考えているのかもしれない。
「そうね、お父様にとってはめでたいのでしょうね」
わたしの言葉に二人は顔を見合わせ、テラスにお茶を用意するようメイドに指示をした。
「我が妹は早くもマリッジブルーかい?」
「お兄様が話を聞いてやるから安心しなさい」
二人にエスコートされてお茶の席についた。
「婚約者は王弟殿下だろ?なにが不満なんだ?」
騎士の二人にとって王弟殿下は馴染みが深い。なぜなら王弟殿下は第二騎士団の隊長として国内を飛び回っているからだ。
殿下はわたしよりふたつ年上の18歳。長兄よりは5つ年下にもかかわらず、すでに隊長を拝命している。
王族という身分がなかったとしてもいずれ頭角を現していただろうとささやかれるほど優秀らしい。
「殿下にはお心を決めた方がいらっしゃるとか」
それを聞いて二人は同時にふきだし、思い切り笑っている。
思わず眉をひそめると、アリィ兄様は目にたまった涙を拭きながら、ソフィが可愛い、と頭をなでた。
「あれはそういうのではないから、おまえは気にしなくていい」
それはまるで見たことがあるような言い方だった。
「アリィ兄様は想い人をご存じなの?」
「まぁね。騎士団に所属している者ならほとんどが知ってるんじゃないかな」
つまり騎士団公認の恋人ということ?
色を無くしたわたしの手をエディ兄様が握ってくれた。
「大丈夫。殿下はきっとソフィをお選びになるよ」
「そうだ。我らが妹は【国一番の淑女】だからな」
【国一番の淑女】。ひそかにそう呼ばれていることをわたしは知っていた。
別にそれを目指したわけではないけれど、なんとなく所作が美しくなりたくて気を付けていた。
伯爵位を継ぐエディオリスの授業を一緒に受けていたら経営に詳しくなった。
流暢な外国語で話すアリオスと会話をしていたら言葉は自然と身についた。
騎士である体力自慢の兄二人にダンスレッスンをしてもらっていたら上達していた。
ただそれだけのことである。
わたし自身はいたって普通の貴族令嬢だと自負しているが、うちより高位な貴族にも年ごろの娘がいるのに選ばれなかったのはそういうことかもしれない。
いや、それは違うか。高位貴族は火中の栗を拾う必要がない。
考えれば考えるほど落ち込んでくる。
そんなわたしをからかっているのか兄二人は終始、大丈夫、と笑っていた。




