13.視察にて
いちゃいちゃするのは後半です
披露宴の翌日からはグレーム国とかかわりの深い各所への視察だ。
その日は装飾品の工房へ視察にきていた。
タリザリスでは鉱石が豊富に産出されるが、残念ながらそれを細工できる職人がいない。南方の国だけあっておおらかな気質なのだ。細かい手作業におおらかさは向いていない。
逆にグレームは加工技術に優れていた。タリザリスから鉱石を輸入し、グレームで装飾品へと昇華することは自然な流れだった。
しかし遠い未来、鉱石は尽きる。職にあぶれた人たちがやがて難民となり、グレームに押し寄せてこないとも限らない。
そこでグレームは細工技術をタリザリスに教えることにした。格安で鉱石を取引する代わりの技術提供だ。
南方人らしく明るい色にあふれたタリザリスオリジナルの装飾品は注目されつつある。
今回、視察の話を頂いてすぐ、グレームでの売れ行きを資料におこした。社交シーズン前はなんでも飛ぶように売れるが、シーズンが始まると行事に合わせたものが売れるようになる。
直近のグレームでの行事は建国祭。自分でいうのもなんだが、王弟殿下の婚約が整った今年はより華やかになると予想される。タリザリスの装飾品にぴったりだ。
「これはグレーム国だけの数値ですが、他国にも通じるものはあると思います」
わたしは従者の手も借りて、資料を各人に配りながら説明をした。
「タリザリスはもちろん、各国の行事に照準を合わせて品物を用意すれば、売れ行きの手助けとなるでしょう」
「しかし貴国の建国祭に間に合うでしょうか」
居合わせた御仁から質問があがる。
「装飾品はドレスが決まった後ですから、まだ充分間に合いますわ」
営業用の美しい笑顔を向ければ、あちこちから前向きな声があがった。
「となると、商品が集中する時期ができるわけか」
殿下が話に加わった。
「豊富な在庫を抱えている時に盗賊に狙われたらひとたまりもない」
警備費用までは算出していなかった。そこまで手をかけたら採算が合わなくなるかもしれない。
そんなわたしの不安を殿下は一蹴してくださった。
「これは国策だ。警備についてはわたしが直接タリザリスに申し出をしよう」
それからは商人が中心となって終始和やかに商談が行われた。
やはり王弟殿下の発言力は大きい。国が警備を保証するというのは商人にとってこれ以上ない安心材料だ。
帰りの馬車の中、殿下と向かい合って座る。
「どうせなら国境近くまで警備を厚くしたいな」
「そうですわね、せっかくの品物が盗賊の手に渡るなど許せません」
すると殿下はおもむろにわたしの耳に髪をかけた。
「美しいものは美しいひとに身に着けてもらいたいしね」
そう言っていつの間に手に入れたのかタリザリスのイヤリングを持っていた。
はめ込まれた石は黒く、台座はプラチナ。他にもいくつかの色を使って華やかに仕上げてあるが、どうみても殿下の色だ。
「じっとしてて」
殿下の吐息が耳にかかり、勝手に鼓動が早くなってしまう。目線を下げてうつむいた。
イヤリングをつけおえた彼の手はわたしの頬に触れ、懇願するようにささやいた。
「これからもつけてもらえるかな?」
殿下の色を身にまとうということは彼と恋人であることを周囲に知らせる行為でもある。
あの令嬢のことを思い出したが、先日殿下は気にしなくていいとおっしゃった。
本当に、あの人とはなんでもないのかしら。
殿下の瞳に込められた熱に気づかないわけがない。それがわたしに向けられたものだということもわかってる。
みっともないほど顔が赤らんでいるのが自分でもわかる。でも彼の瞳をみて言いたかったから顔を上げた。
「明日からもランス様につけてほしいわ」
「あぁ、もちろんだよ、リザ」
そうしてランス様は優しい口づけをくださった。




