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12.side 王弟殿下

タリザリスで間もなく王太子が成婚する。その婚儀に出席したいと俺は兄上に、下心見え見えの提案をした。

国際行事は基本夫婦セットで出席だ。俺はまだ結婚していないけど婚約者がいるのだから彼女と出席することは自然な流れだ。

「せっかく隣国へ行くのですから、ついでにタリザリスとの交易も見直してまいりたいと思います」

婚儀に加えて視察となれば普通に考えても10日は超える日程になる。さらにどうでもいい案件を詰め込めば倍はいける。

つまり俺は、ソフィア嬢と婚前旅行がしたい、と提案している。

もちろん兄上もそれをわかっていて、それでもしれっとした顔をして伯爵に伝えることを確約してくれた。

兄上が伯爵に伝えるということは王命に等しく、家臣であるヴァンナム伯に否はない。礼を言って小躍りで兄上の執務室を出た。

ソフィア嬢と婚約して3か月になるが、いまだにお茶会止まりで、彼女からは社交用の美しい微笑しか得られていない。

ここいらで一発逆転をかましたい。



隣国へと向かう馬車の中、さっそくソフィア嬢を口説きにかかった。

「愛称で呼び合いませんか?」

紳士の仮面を二重三重にかぶってソフィア嬢に告げると彼女は二つ返事で承諾してくれた。

「わたしのことはランスと」

「ランス様・・・」

彼女は確認するためにつぶやいたのだろうがそれだけで俺の心は満たされる。

愛しい人が紡ぐ自分の名前は甘い響きを持った睦言のようだ。

「リザ」

夢心地で彼女の名前を呼ぶ。少しはにかみながら、はい、と返事をする彼女はなんと愛らしいことか。

無遠慮にリザを眺める。紳士的じゃないって?いいんだよ、俺たちは婚約中だ、婚約者である俺がリザを愛でてなにが悪い。

あー、そうだ、リザにはきちんと話をしておかないと。

「あの噂は気にしなくていい」

「かしこまりました、殿下」

あ、そこはランスじゃないんだね?

手のひらへの口づけも俺の熱を込めた視線も、蒼玉(ブルーアイ)を溶かすことはできなかった。


ラウの披露宴で俺は周囲をはばからずリザを口説いている。

いや、違う、これは公務だ。俺は我が国にとって損失をもたらす縁談を持ち込ませないようにしなければならない。

「ランス様、ご酒がすぎますわ」

「リザの声は可愛らしいね」

そこでリザの耳に口を寄せ、

「君の特別な声をわたしにだけ聞かせてほしいな」

そう言ってリザを覗き込むようにし、蒼玉(ブルーアイ)に熱を注いだ。途端にリザは真っ赤になって目をそらす。

これはいい傾向だ。どうやら俺は男として認識され始めたようだ。

ダメ押しにと幾度となく繰り返した手のひらへの口づけを再度してみた。今回はリザが恥じらっている。

手ごたえを感じ、このまま部屋へ連れ去ってしまおうかと考えていたら邪魔が入った。

「少しは遠慮しろよ」

こそっとラウから苦言を呈された。無理、全力で口説きにかかってますから。

「ウィルを支えてやってください」

「努力いたしますわ」

リザの如才ない対応でラウは彼女の価値に気づいたようだ。だが遅い、リザはもう俺の・・・!俺の、婚約者、だ。

婚約期間は最低でも1年はもうけなければならない。早く俺の嫁と大声で言いたい。

「リザ」

愛しい人の名前を呼び、また手のひらにキスをした。リザは顔を赤らめながらも、ランス様、と応じてくれた。

視点が主人公以外のとき、セリフが微妙に違うのはわざとです。

受け取る側が違えば印象に残ることも違うという感じで…


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