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11.隣国での公務

ここから先はひたすら溺愛です、あと5話程度です

強い日差しが目に眩しい。

その日、わたしは殿下とともに王太子の婚儀に出席するため隣国タリザリスを訪れていた。殿下の婚約者として初めての公務である。

「リザ、手を」

「はい」

殿下に支えられて馬車を降りる。目の前には婚儀が行われる大聖堂が荘厳と建っていた。


殿下とはここまでの道中で簡単な打ち合わせをした。

「タリザリス国の王太子とは知り合いでしたね」

殿下の言葉にうなずいて経緯を説明する。

「アリィ兄様がタリザリスに留学したとき、彼の方とずいぶん親しくさせて頂いたそうです。そのご縁で何度か領地にお招きしたことがございます」

「ヴァンナム領に滞在していたのは知らなかったな」

「タリザリスの夏は厳しいので避暑を兼ねてと聞いております」

アリィ兄様とタリザリスの王太子は護衛騎士たちと一緒になって、連日、川に飛び込んで泳ぎまくっていたなど言えるわけがない。それでも殿下にはなんとなく伝わったようだ。

「ところでソフィア嬢」

殿下の改まった様子に居ずまいをただした。

「わたしたちは婚約したのだからお互いを愛称で呼ぶのはどうだろうか」

なにを言われるかと身構えていたがそこそこどうでもいい話だった。肩の力を抜きながら、そういたしましょう、と同意を告げる。

「では、わたしのことはランスと呼んでほしい」

え?ランス?

殿下の提案にはさすがに固まった。

相手のミドルネームを呼ぶことは伴侶にしか許されていない。さらに愛称は愛情の深さを示す尺度となる。

わたしは家族にソフィと呼ばれているが、愛称呼びすることで、家族として愛しているという意味になる。

殿下の名前はウィルオーレン・ランスロット・グレーム。

ミドルネームのさらに愛称で呼ぶなど、殿下への愛を叫んでいると同義だ。さすがに恥ずかしい、恥ずかしいがこれは命令、一家臣としては従うのが正解。

「かしこまりました、そのように致します」

了承を伝えると殿下はほっとしたのかあからさまに緩んだ顔になって、さらにとんでもない爆弾を投下した。

「あなたのことはリザと呼んでも?」

リザ?!いやいや、エリザベスで充分でしょ?!

表情を取り繕うことも忘れて困惑した視線を殿下に向けてしまったが、彼はゆるがない。家臣ならば是の一択か?

「・・・かまいませんわ」

「ありがとう、リザ」

殿下は緩んだ表情のままわたしの手をとって手のひらにキスを落とした。これでわたしたちはお互いに愛を叫び合う立派なバカップルだ。

「そうだ、リザ。念のため言っておくけど」

殿下はなんでもないことのようにその先を続けた。

「どこぞの令嬢がわたしの恋人などと噂されているようだけれど、それは全くのでたらめなので気にしないように」

そう言われてあの日のことを思い出した、殿下と彼女が談笑する様子を。

殿下の意図がよくわからない、よくわからないがこれ以上ない美しい笑みで応じた。

「かしこまりました、殿下」



新郎新婦の入場が告げられると、騒がしかった会場はヴェールの衣擦れ音が聞き取れるほど静かになった。

新郎が新婦へ誓いの口づけをもたらした。新婦の瞳は喜びに輝いており、そんな彼女を新郎の王太子殿下はうっとりと見つめている。

わたしもいずれ結婚するのか。

未来の夫をちらりと見ると、彼もこちらを見ていた。目が合うとふんわりとした笑みを浮かべ、また手のひらへのキスをした。

まただ、殿下はまた手のひらにキスをした。

婚約者には手のひらにキスをするなんてマナーがあったかしら?

少なくともわたしには覚えがない。あとでメイドに聞いてみようと思った。


婚儀が終わると披露宴が始まる。もちろんお祝いの為ではあるけども、わたしたちにとっては国政の場だ。

王太子の婚儀だけあって諸外国の要人が集まっている。

わたしたちの任務はグレーム国、王弟殿下の婚約が整ったとアピールし、他国からの縁談を持ち込ませないこと。

万一、力のある国の王族からねじ込まれればこの婚約は白紙にさせられかねない。その為の【国一番の淑女】だ。

完璧な立ち振る舞いを見せつけ、これ以上の淑女だというのならば話を持ってきなさい、という宣戦布告。殿下は他の令嬢に目移りすることはないと公言することが仕事。


なのだが。


「わたしの婚約者は愛らしいでしょう?」

「えぇ、本当に」

「ランス様、ご酒はほどほどになさいませ」

「リザの可愛らしい声はいつまでも聞いていたいな」

そしてお決まりの手のひらへのキス。さすがに恥ずかしくてうつむいた。

ちょっと待って、ここまでのろける必要はあるかしら?!

周囲はグレーム国の王族だからと殿下に付き合ってくれてるけど、絶対引いてる。

そこへ主役のタリザリス王太子殿下、ラウアード様がお見えになられた。

「ずいぶん派手にやってるなぁ」

「リザを口説いている最中です、邪魔をしないでほしいな」

殿下の遠慮のない物言いにふたりの距離が近いことが垣間見える。ラウアード王太子殿下はやれやれと首を左右にふり、苦笑した。

「あなたも災難ですね」

はいともいいえとも答えづらい問いかけをされ、淑女最大の武器、どうとでも受け取れる微笑を浮かべて応じた。

それにラウアード王太子殿下は気づいたようで、少し目をみはり、それから、

「わたしにとってウィルは弟のようなものです、どうかよろしくお願いします」

と言い、別の人に挨拶するために立ち去っていった。

「さすがリザだね」

「さすがって?」

殿下はそれには答えず、また手のひらへキスをし、ふんわりとした微笑を向けられた。

赤面したことは言うまでもない。

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