10.side リタ子爵
妹のアンナがウィルを一目見て気に入ったことはすぐにわかった。ウィルは美男子だ。10人の女性がいたら10人とも心を奪われるだろう。
「ねぇ、ウィルってかなり高位の貴族なの?」
「そうだ。本来なら子爵家なんかに出入りしていい方ではない」
ウィルは王弟殿下だ、でもそれを妹に言うつもりはなかった。
結ばれるはずのない相手だということにアンナは残念がるようなそぶりを見せなかった。その判断が誤っていたと分かったのは、アンナの婚約者からこの縁はなかったことにしてほしいと言われたときだった。
「妹がなにか失礼を?」
「彼女の視線はいつだってウィルを追っているよ」
「だが、彼は見目がよいし・・・」
しどろもどろな言い訳をすると婚約者の男は怒って、
「リタ子爵は他の男に目を奪われている女を妻にできるのか?」
と言われた。
こうしてアンナの婚約はなくなってしまった。
妹がそこまでウィルに入れ込んでるとは思わなかった。見た目を眺めて楽しんでいるだけだと思っていたのに。
今すぐアンナをウィルから引き離さないと面倒なことになると思ったが、王家からの援助にはかなり助けられている。これがなくなったら領民はまた貧しい暮らしに戻るだろう。
どうしたものかと悩んでいるうちに社交界に、王弟殿下に想い人がいるという噂が広まってしまった。
王弟殿下が婚約したらしい、という新たな噂がささやかれ始めたころ、しばらくぶりにウィルが俺の家にやってきた。
「婚約が決まったんだ」
ウィルはわざとアンナに聞かせるように言った。
さらに、婚約者にふさわしい男になりたいと付け加え、前向きであることをアピールした。そっとアンナを見たが彼女はピンと来てないようだった。
妹にはあとで説明するとして、最後の縁で王宮の夜会の招待状をねだった。
「なぜだ?」
必要以上にウィルが警戒した。アンナをけしかけると思っているのだろうか。
「妹を王宮のパーティに連れて行ってやりたい」
王宮ならたくさんの貴族が集まる。うちと釣り合う下位貴族でもアンナの気に入る男性は見つかるだろう。
そこでウィルは初めて妹を見て言った。
「君も新しい婚約者を見つけないといけないね」
そこまでハッキリ言うとは思わなかった。妹の傷ついた顔に思わずウィルを睨んだ。しかしウィルは堅い声で言った。
「招待状は送ろう。だが、それだけだ」
その言葉にヒヤリとした。有能な彼のことだ、俺が国王陛下から見返りをもらっていたことはもう調べ上げたのかもしれない。
違う、お前が心配だったんだ。そう言いたかったが言葉にならない。
ほどなくしてウィルは帰っていった。アンナは泣いている。
俺の打算が妹を傷つけ、大切な親友を失ってしまった。
別の人目線はこれで終わりです




