1.意中の令嬢がいる方との婚約が決まりました
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「おまえの婚約が決まった」
珍しくお父様から呼び出されて執務室に行けば挨拶すらなく告げられた。
「お久しぶりです、お父様。相変わらずご健勝のようで安心しましたわ」
嫌味を込めて挨拶をすれば、お父様は片眉をあげ、なにが言いたい、と不満気だ。
我がヴァンナム家は伯爵位を賜っている。この世を謳歌するほど栄えてはいないが、そこそこの力を持った貴族だ。
しかしより大きな力をつけようとするのは貴族として当然のこと、お父様も政治活動に余念がない。
そんなお父様が娘の婚約を整えてきたのならば当然、我が家の繁栄の為に他ならない。
一体どこの高位貴族をカモって来たのか。相変わらず、というのはつまり嫌味だ。
「お相手は王弟殿下だ」
「・・・」
さすがに絶句した。まさか王族とは!
しかし、王弟殿下に意中の娘がいるというのは年頃の娘を持つ家なら誰もが知っている事実。
ひょっとして他国の王弟?
諸外国の王族にはそれほど詳しくないけども、わたしと同じ年ごろで婚約をしていない男性なんていたかしら?
「それは我が国の王弟殿下のことでしょうか?」
「なんだ、おまえは外国に嫁ぎたかったのか?」
どうやら、意中のご令嬢がいる我が国の王弟殿下、で間違いないようだ。
国王陛下と王弟殿下は10以上、歳が離れている。先代陛下は側室を持たれなかったので、二人とも間違いなく先代王妃様のお子だ。
王弟殿下の王位継承権は、今は第一位だけども、陛下に男児が産まれれば順位は下がり最終的には臣下に降下される。
軍人としては優秀らしいが、好いた娘を伴侶にする知恵もないような男がどれほどの功績をあげられるのか。少なくとも政治的な立ち回りは不得手のようだ。
いくら権力が欲しいからって不良債権を娘にあてがうだなんて、よほど王家に恩を売りたいのか。
もっとも、他国の王族から縁談を打診され、受け入れるしかない状況になるかもしれない。その憂いを取り除くとあらば、さして高値にはならずとも、そこそこの見返りは期待できるのだろう。
「顔合わせは3日後、王宮にて行う」
「承知しました」
了承を伝え、執務室を出た。言いたいことは山ほどあったが、家長の命令には従うしかない。
結局のところ、わたしは貴族令嬢であり、その責務からは逃れられないのだ。