第5話「光に忍び寄る影」(両視点)
ひかり「皆さんこんにちわ。小暮ひかりといいます。向こうに引っ越す前はこっちに住んでいたので知っている人もいると思います。よろしくお願いします。」
あの後、教室に戻る前になんとか気持ちを落ち着かせることができ、リラックスをしながら職員室へと向かった。そこで中谷先生と合流し、そのまま廊下を抜けて教室に入った。クラスの中には知っている顔も多々あった。その中で、こちらに一切視線を向けない子がいた。零花だ。さっきから一人だけずっとそっぽを向いている。
ひかり(あれ・・・。さっき会ったときと、様子がおかしい・・・?)
私は疑問に思いながらも、自己紹介を済ませた。
放課後(13時頃)・・・
零花「・・・ひかりちゃん。」
ひかり「・・・零花ちゃん。」
零花「また会えたね。」
少しの間沈黙が起きた。そのあと、私は意を決して零花に質問をした。
ひかり「・・・ねえ・・・何で中学の時、私をいじめたの?」
零花「・・・」
やっぱり様子がおかしい。前は何を言っても明らかに私を批難する言葉を浴びせてきたのに。
ひかり「親友だったあなたが・・・急に私をいじめるとは思えないの・・・。ねえ、本当のこと・・・教えてくれない、零花・・・。私はあなたが怖い。さっきだって、必死に恐怖を抑えて教室に向かったの・・・。お願い・・・零花・・・」
私はその場で泣きだしてしまった。今の言葉で零花から何をされるかわからない恐怖、絶望。だけど、それとは違うものが、私の中で渦巻いている。
零花「・・・わかった。本当のこと、話すよ。今日の夜7時にひかりの家に行く。そこであなたの家族・・・直哉さんと遥さんも入れて、本当のことを話すね。」
ひかり「え・・・なんで、お父さんとお母さん・・・」
零花「話せば、わかるよ」
そういって零花は先に行ってしまった。訳が分からず、私は茫然とその場に立ち尽くしていた。
ひかり「なんでお父さんとお母さん・・・話せばわかるって、どういうこと・・・」
私は零花の言葉の意味を考えながら、ゆっくりと家への帰路を辿る。
???「あ、ひかりちゃん?久しぶりだね~。」
急に横から声をかけられた。声の主の方を振り返る。
ひかり「え?・・・」
呼び止められて思わず声を発してしまった。そこにいたのは・・・・・・
???「ふふっ・・・」
零花(・・・気のせいかな、聞き覚えがある声。いや、今はひかりの家に行く準備が先。早く帰ろう・・・)
ひかり宅前にて(18時30分頃)・・・
零花(二年ぶりだな・・・)
私はひかりの家の前に立っていた。あの時と同じように。緊張しながら玄関のチャイムを押す。・・・正直に言って怖い。
遥「・・・いらっしゃい、零花ちゃん。今日はゆっくりしてってね。」
零花「・・・お久しぶりです、遥さん。お邪魔します。」
遥さんにそのままリビングへと通され、直哉さんの座る机の前に案内された。
零花「・・・お久しぶりです、直哉さん。」
直哉「・・・私たちが約束を守ったこと、確認できたか?零花ちゃん。」
零花「はい、ありがとうございました。」
あの時・・・直哉さんと話をしたとき、私たちは約束をしていた。
“戻ってきたとき、最初はいじめていた時の態度で接する。”と。
理由は単純。怖かったからだ。ひかりの両親がもし本当のことを伝えたら、と。引き離したのに戻ってきたらまたいじめっ子のターゲットになってしまう。だからこの約束をした。そして今日、約束が守られていることが証明された。
直哉「ここに来たってことは、真実を話すんだね。」
零花「はい。夜遅くにすみません。」
直哉「いや、ここに呼んだのは私だ。文句は言わないよ。こちらも、朝電話して悪かったね。」
実は今日の朝、直哉さんから電話をもらった。“本当のことを話す覚悟ができたら、今日の夜7時に家に来い”と。
零花「いえ・・・。そういえばひかりは。」
直哉「まだ家に帰ってきてないよ。」
零花「えっ・・・・・・」
嫌な予感がした。急いでひかりに連絡を取ってもらうように直哉さんにお願いした。
直哉「でない・・・」
私はその間、ひかりと別れた後のことを思い出していた。
零花「・・・もしかして!遥さん、もしひかりが帰ってきたら連絡してください!お願いします!直哉さんはついてきてもらえませんか!」
直哉「あ、ああ。分かった。」
私は自分でもびっくりするぐらい大きい声でひかりの両親に言葉を発した。
遥「わかったわ。どこにいくつもりなの?」
零花「・・・学校です。おそらく、ひかりは今学校にいます。」
学校にて(19時頃)・・・
零花「着いた・・・直哉さん、ありがとうございます。」
直哉「大丈夫だ。でも、本当にひかりがここにいるのか?」
零花「おそらく・・・あっ!」
校門にゆっくりと歩いてくるひかりの姿があった。あと数十メートルというところで、直哉さんとほぼ同時にひかりの名前を呼んだ。
直哉「ひかり!」
零花「ひかり!」
ひかりはこっちに気付いた瞬間、急にその場で倒れてしまった。
零花「えっ・・・」
直哉「ひかり!?どうしたんだ!」
すぐにひかりのもとへ駆け寄った。ひかりは意識を失っていた。制服は少し湿っており、
直哉「零花ちゃん!ひかりを運ぶのを手伝って!早く!」
零花「は、はい!分かりました。」
急いで直哉さんの車へとひかりを運ぶ。ひかりはひどくうなされている。ふと頭を触ってみると、ひどく熱を発していた。直哉さんは急いで車をひかりの家に発進させた。
直哉「零花ちゃん。なんでひかりが学校にいると分かったんだ?」
直哉さんは至って冷静に私に質問をしてきた。
零花「・・・いたんです。あいつらが。」
直哉「いたって?」
零花「・・・名前は・・・思い出せないけど。でも・・・中学の時に私たちをいじめていた張本人が。」
あの時聞こえた声に聞き覚えがあった。ひかりに話しかけていたのは・・・。転校初日で久しぶりにひかりにあった子もいるから、違和感を感じながらも特に気にしなかった。でも、あの時感じた違和感は間違ってなかった。
零花「すみません・・・私がちゃんとひかりを見ていたら・・・」
直哉「今回のことはきみに非はない。自分を責めるな。とりあえず、すぐにひかりを休ませないと。」
そういって直哉さんと私は、ひかりの家へと急ぐのだった。