第10話「悪意の矛先はどこに向かう」(ひかり視点)
20○○年4月16日水曜日
零花と未来が家にきてから早くも1週間が経った。二人が来てから家の中は賑やかになり、楽しい環境ではあるのだけれど、私はどうしても二人の不安が移ってきて100%楽しむことはできず、一人教室の机で頭を抱えていた。
ひかり「はぁ・・・・・・。」
零花「悩まなくていいって言ったのに~。やっぱりひかりは優しいね。」
未来「だね~。優しすぎてちょっと心配になるぐらい。」
ひかり「二人とも!?いつの間に・・・ってか!なんで私の考えてること・・・」
零花「うーん?1分ぐらい?ずっと真剣な顔をしながら考え事してたから、多分私たちのこと考えてるんだろうなー、ってね。」
気が付かなかった。それ以上に私の考えていることがわかる零花はエスパーかな?
零花「あ、今エスパーか何かかと思ったでしょ。」
ひかり「やっぱエスパーじゃん!?」
零花「で?最近元気がないのはそれが原因と。」
ひかり「・・・うん。零花と未来ちゃんが親に見放されて苦しいわけないと思ったから。」
未来「?私が家賃止められたのってはるちゃんに誘われたからだよ?」
ひかり「?どういうこと?」
よくわからない。すると未来ちゃんはゆっくりと経緯を話してくれた。
未来「私に関与したくないって言うのは本当だけど、家賃とかは入れてくれてるんだよね。でも、はるちゃんがこっちに戻ってくるときに一緒に住まない?って提案してくれてさ~。お母さんに話したら家賃払うのをやめて、今ははるちゃん家に私の食事代等払うようになったの。荷物自体はそらさんにお願いしてほとんど運んであるけど、そらさんの部屋の一室にまだ一部放置されてるよ。」
荷物なんてあったっけ?と思ったが、それ以上に未来のお母さんは育児放棄をしていないことを知って安堵した。
零花「やっぱりひかりって優しすぎるね。」
ひかり「な、なんで?ま、まさかまた私の心を!?」
零花「いや・・・顔に出てるだけなんだけど・・・」
未来「うんうん。」
顔に出ていたと知って恥ずかしくなった。
ひかり「さ、先に言ってよ~。」
未来「それより、伊藤亜美ちゃんだったかな?」
ひかり/零花「!?」
身体がビクッっと反応する。
零花「・・・亜美がどうかしたの?」
未来「隣のクラスからかな?なんか暴言をつぶやいていたから気になったのだけど、何かあった?」
零花「・・・その名前は禁句だよ。未来。」
未来「・・・ごめん。」
ひかり「だ、大丈夫。」
零花「・・・で、彼女が話していた内容は?」
未来「うーん、聞いていた限りだと、誰かを罵倒している内容だったかな。」
零花「・・・どんな?」
未来「・・・これ、二人の前で言える内容じゃないんだけど。」
ビクッ
ひかり/零花「・・・言っていいよ。」
未来「・・・本当にいいの?」
ひかり「・・・うん。」
未来「・・・分かった。」
未来は深呼吸をするとゆっくりと詳細を話してくれた。
未来「っと、こんな感じ。ちゃんとした内容までは分からなかったけどね。」
ひかり「そんなこと・・・言ってたんだ・・・。」
零花「・・・悪意の塊だね」
未来「それにしても、“潰したい”って一昔前のチンピラかな?」
零花「・・・未来は未来で彼女のことをチンピラ呼ばわりしていることがすごいよ。」
未来「そう?零花もとは思うけど、特にこの話は、ひかりちゃんきつかったんじゃないかな。」
ひかり「・・・うん。」
未来「二人とも、無理はだめだよ。」
察するに、未来は恐らくこれでも言い方をマイルドにしてくれたのだろう。マイルドにしてもこの言葉でしか言い表せないとしたら、相当やばい言葉を吐いていたのだろう。
零花「・・・でもこの時期に彼女が動くって珍しい・・・。彼女、決して自分では手を出さないタイプだから。」
ひかり「・・・ねえ。隣のクラスって、知り合いか誰か・・・いる?」
未来「え?ひかりちゃんも零花もいないn・・・」
零花「いる・・・1人。」
零花が未来ちゃんの質問を遮って言った。
ひかり「えっ・・・だ、誰?」
零花「夜霧、鈴・・・。私の、妹・・・」
私たち全員の背中に冷たい汗が流れたのだった・・・