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『夕刻』と『暁暗』  作者: 夢野 いのり
第一節 地獄の始まり
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第1話「戻ってきた故郷、学校生活開始に向けて。」(ひかり視点)

20〇〇年4月6日日曜日


私、小暮ひかりは○○県高ノ宮市にある公立高ノ宮高校に父の仕事の都合で転入することになった。転入と言ってもいわゆる出戻りで、2年前に中学卒業とともに一度他県に引っ越し、またここに戻ってきた。


ひかり「うーーーーん!ひっさしぶりの地元の空気!!自然豊かで気持ちいいなー!!!」


市の公園の中にある展望台から見える景色を眺めながらそう言った。


ここは都会から外れた土地だけ広すぎるTHE 田舎 で、あるものと言ったらコンビニがそこら中にあったり、無駄にでかいデパートが2店舗、あとは近くの川沿いに立ち並ぶ工場や広さが東京ドーム3個分ほどある広すぎる公園ぐらいだ。


ひかり「本当土地だけ広いな~ここは。おしゃれなカフェや美容店ぐらいできたらいいのにな~。」


ここに戻る前は、正反対と言えるほどの都会に住んでいて、コンビニとは正反対にそこら中にカフェや美容店があった。まあ、田舎暮らしだった私は結局都会はまぶしすぎて、住んでいる間一度も行く機会がなかったのだけど。


ひかり「やばっ!!そういえば今日高校で転入手続きの最終確認をしないといけないんだった!!」


急いで高校に向かうため、走って公園を出てバス停乗り場にタイミングよく停まったバスに駆け込んだ。


ひかり「ぎ、ギリギリセーフ・・・何とか乗れた・・・」


ちなみに今のバスに乗り遅れたら完全に時間に間に合わなかったことに気付いたのはバスに乗って時計を確認した時だった。危なかった~、とハラハラしながら転入手続きをしにバスに揺られながら学校に向かった。


数十分が経ち、高校に到着した。バスを降りて校門に向かうと、私の父 小暮 直哉と、新しい校長と思われるの姿があった。うちの高校は公立では珍しい中高一貫校で、高ノ宮高校と一貫校である高ノ宮中学校は私の母校だ。なので校長先生もころころと変わる。


高田校長「はじめまして小暮さん。私は去年校長に赴任した高田といいます。前校長から話は聞いているよ。明日からよろしくね。」

直哉「ほらひかり、校長先生にあいさつ。」

笑顔で自己紹介をしてきた新しい校長先生に私も笑顔で返事を返した。


ひかり「はじめまして校長先生。明日からよろしくお願いします。」

高田校長「はっはっはっ。元気で礼儀正しい子だ。いい子に育ったもんだなぁ小暮君。」

直哉「ありがとうございます、高田先生。」

ひかり「え?お父さんと校長先生お知り合いなの?」


校長と父の会話に思わず言葉を発した。


直哉「知り合いも何も、俺の元担任だよ。中高合わせて六年間ずーっと。」

ひかり「そうなんですか?!」

高田校長「いやー懐かしいね。私もあの時は30ぐらいで君みたいな子の生徒指導をしていたころだった。あの頃の君は、やn」

直哉「やめてください!!!!!!!」


青ざめながら校長の話を止める父とは裏腹に、校長先生から父の過去を聞こうと興味津々の私。私と父の仁義なき戦いは15分も続いた。なんとか持っていこうとした私だったが、父の必死の抵抗には敵わず、結局私が折れた形でこの話は打ち切りとなった。


ひかり(入ってからこっそり校長先生から聞けばいっか!わたしは負けてない!これは戦略的撤退だ!!)


と、心の中でそう自分自身に言い聞かせるのだった。


校長室に移動した私たちは、校長先生といっしょに入学の手続きを進めた。


高田校長「さて、ひかりさん。後は制服とクラス、今後の学校生活についてなんだけど、制服はあと一週間かかるらしい。原因は連絡を1週間遅れた君のお父さんにあるから後で煮るなり焼くなり好きにしてもらっていいんだけど、」

直哉「ここここ校長先生?!?!ちょっと待ってください!?」

高田校長「クラスに関してはここで発表するか、明日みんなといっしょで昇降口に張り出す時がいいか、どっちがいいかな?」

直哉「無視!?」


焦る父を見て見ぬふりをして、私は迷わずに言った。


ひかり「後者でお願いします。」

高田校長「ほう、どうしてだい?」

ひかり「中学で一緒だった子もたくさんいるし、学校生活最後のクラスになる。最後まで誰と一緒になるかわからないドキドキを楽しみたいんです。」

高田校長「・・・わかりました。なら、明日までクラスは伏せておきますね。」

ひかり「ありがとうございます。」


校長先生はそう言うと、少し困った顔をしたように見えた。


ひかり「校長先生、どうしました?何か困ったことでも・・・?」


そう言葉をかけると、校長先生の顔はすぐに笑顔に変わった。


高田校長「いいえ、大丈夫ですよ。心配していただきありがとうございます。お父さんにも相手の顔色をうかがうところを見習ってもらいたいですね~。」

直哉「え!?そこ俺に飛んでくるの!?」

ひかり「ですね~」

直哉「ひかりまで!?反抗期なの?!ねえひかり!?」


うざいな~と思いながらも淡々と校長先生と話を続け、さっさと手続きを完了させた。父は会話が終わるころにはすっかり拗ねていた。


高田校長「はい。これで残っていた最終確認、すべての手続き完了です。お疲れさまでした。」

ひかり「ありがとうございました。本当、父が申し訳ありません。」

高田校長「ふふ、なんてことないよ。むしろ面白いもん見せてもらったよ。高校時代あんなにヤンチャやってた彼が今じゃこんな親バカになってるなんてねえ。」

直哉「ひかりがかまってくれないどうしていや俺は悪くないだって・・・・・・・・・・」


いつまで拗ねてるんだこの父親は。


ひかり「本当に親バカです。娘離れできない、家事もうまくできない、自分のことをほかってまで家族や私を優先する。・・・・・・でも、こんなにも自分を大切にしてくれる父には感謝してます。」


今回の転勤も、父が都会の高校に馴染めていなかった私のために、会社の昇進を断ってまでこっちに引っ越してくれたのだ。そんな父には本当に感謝しかない。


ひかり「私も親離れしないといけないんだけどな。」


そうボソッとつぶやいた瞬間ふっと我に返り、恥ずかしさが込み上げてきた。そんな私に、校長先生は真剣な顔で言った。


高田校長「ひかりさん。今あるものを大切にしなさい。今ある幸せは有限。たった一つのきっかけで、崩れることもある。だから、当たり前の日常でも、それがあることに感謝しなさい。」


その言葉がグサリと胸に刺さった。私は校長先生の真剣な様子に答えるように、真剣なまなざしを向け、答えた。


ひかり「わかりました。」


私の目を見た校長先生はにっこりと笑った。


高田校長「うん、いい返事だ。よし、門まで見送ろう。ほら小暮君、いいかげんにしなさい。娘さんに迷惑でしょう。」

直哉「だって、だってぇ~。娘が冷たいんですもん・・・」

ひかり「校長先生、本当すみません・・・ほらお父さん行くよ!!!」


父の服の首元をつかみ、引きずる。


直哉「待って待って!!苦しい!!!!死ぬ、死ぬから!!!」

ひかり「じゃあさっさと歩いてくれませんかね。」

直哉「歩きます!歩きますから~!!!」


やっとの思いでバスまで父を運び、校長先生に見送られながら学校を後にした。バスに揺られながら校長先生に言われた言葉を思い出していた。


ひかり「幸せは有限・・・。今あるものを大切に・・・か。」


ずっと考えているうちに段々と眠くなってしまい、父に寄りかかる形で寝てしまった。


直哉「おっとっと。なんだ、寝っちゃったのか。」


寄りかかるひかりが起きないように肩を動かした。


直哉「にしても、いい寝顔だなあ。いい夢でも見てるのかな。」

ひかり「むにゃむにゃ・・・お父さん・・大好き・・・・・・」

直哉「ッ///フゥ。ゆっくりお休み、ひかり。」


数十分ほど経ち、自宅周辺のバス停に着く頃に起きた私は、なぜか横でニコニコしながら眠っている父をたたき起こしてバスを降りた。


直哉「ひどい!!親の顔をぶっ叩くなんて!!!」

ひかり「だって車掌さんが困ってるんだもん。起きないお父さんが悪い。」

直哉「せっかくひかりの寝言を聞いていい夢見てたのに!!!」

ひかり「ん、ちょっと待って。私、なんて言ってたの?」

直哉「え?お父さん大好きって言ってたよ~!いやはや、寝言でもうれしいもんだね~」

ひかり「////ッ!?お父さん、なし!!!寝言はカウントしない!!」

直哉「ハハハハハ~、なに言われてもいいもんね~!娘が俺のこと大好きだって事実に変わりはないも~ン!」


必死に抵抗しながら家まで歩いて帰った。


キィーーン

ようやく家につき音を鳴らしながら父が玄関のドアを開けたら、私たちの帰りを待っていた母の遥と姉のそらが、キッチンで晩御飯の準備をしていた。


遥「あら、おかえりあなた。」

そら「お父さんお帰り。」

直哉「ただいま~母さん~そら~」

そら「うわ、なんかお父さんキモイ」

遥「あら、どうしたの?」

直哉「いや~さっきバスに乗ってるときにひかりがね~」

ひかり「お父さん!!!だからやめてって!!!!恥ずかしいから~!!!!!!」


そんな悲痛な叫びもむなしく、バスでの出来事を家族全員に知られてしまった。その後のご飯は味がせず、夜は恥ずかしさのせいで全く寝付けなかったのは言うまでもない。

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