7話 キャロルside
今回はキャロルの視点から始まりますm(_ _)m
~~ キャロルside ~~
ある日、小鳥さんを巣に戻そうとしたわたしは足を滑らせ、そこで素敵な男の人と出会った。
適度に引き締まった逞しい胸に受け止められ胸が高鳴ったけれど、彼は名前を名乗ることもなくすぐに立ち去ってしまったの。
その日の放課後、なんとその人がエリーザお姉様の婚約者であるダレル殿下だと知って驚いた。とても整った精悍な顔立ちの王子様に、わたしはドキドキが止まらなかった。
その夜、不思議な夢を見た。ダレル殿下とわたしが恋に落ちる夢。あのお姉様がわたしを嫉妬に歪んだ目で睨み付けてくるのだけれど、殿下がわたしを守ってくれるシチュエーションに強い優越感を覚えゾクゾクした。
その夢の中ではわたしが王太子妃になって全てを手に入れた。
目が覚めたわたしは、素敵な夢を見れた高揚感に包まれていた。
夢を見てから、わたしは自分の気持ちを押さえきれなくなって、夢みたいに素敵な事が現実でも起きないかなって期待しながら毎日ダレル様に話しかけた。
そうしているうちにわたしは二人の間で起きる出来事が、夢で見た物語と同じ展開であることに気がつく。あれは正夢で、わたしたちは運命の相手に違いない。
夢の中の彼は王太子という生まれのせいでとても孤独な人だった。そんな中、わたしの存在だけが癒しになるんだって言っていた。
だからわたしはこの現実でも彼を癒すためさらに彼の元へ通うようになった。
わたしたちは運命の相手なんだから、なにも悪いことなんてしてない。
それなのにまた一部の女子が嫌がらせをしてくるようになってきた。
夢の通りならその犯人はお姉様でダレル様が助けてくれるはず。
なのにこの現実のお姉様は、ちゃんと悪者として動いてくれない。お姉様が引き立ててくれないと、夢みたいな展開に進まないんじゃないかって、わたしは不安になっていた。
そんなある日、いつものようにダレル様を探していた所を女子生徒に絡まれる。
「あなた、いい加減になさったら?」
この台詞、夢と同じ!
「わたしはなにも悪いことなんてしてないです」
わたしも夢で見た通りの台詞を言えば、彼女たちはわたしを罵倒する意地悪な言葉を浴びせていた。
「男爵令嬢ごときが、殿下に馴れ馴れしすぎますわ!」
「ダレル様は、わたしが話し掛けるのダメなんて言ってこないもの」
わたしが言い返すと怖い顔した女子が突き飛ばそうとしてくる!
(ダレル様、早く助けに来て!)
ぐっと目をつむる。しかし、次の衝撃はやってこなかった。
「あっ……」
わたしを突き飛ばそうとした女子生徒の腕を掴んだ人物の登場にあたりがしんと静まり返る。
「なにをしている、お前たち」
「あ、その……」
先程まで怖い顔してた彼女たちが頬をひきつらせて怯えてる。
「今後、この者に手を挙げることは許さない」
「っ!」
ダレル様の発言に野次馬たちもざわめき出す。
「お前たちもよく聞け。今後、この者に対して悪意のある噂を流す者は容赦しない」
ダレル様がわたしを皆の前で庇ってくれた。
夢で見たのと同じ! やっぱり、もうすぐダレル様はお姉様を捨ててわたしを選んでくれる!
でもわたしはまだ不安だったから、ちゃんと物語が夢と同じく進むよう仕向けることにした。
「ダレル様、実は……わたし、ずっと今みたいな嫌がらせを受けてきて……彼女たちを焚き付けている犯人はエリーザお姉様なんです……」
「なんだと?」
「ずっと黙っていてごめんなさい。うぅ……でも、もうわたし辛くて堪えられないです」
「それは笑えない冗談だ」
「嘘じゃないことは、ちゃんと調べてくれれば分かります」
ダレル様はそんな事実があるはずないと言いながらも、何度も訴えるわたしに事実確認することだけは約束してくれた。
その日から、わたしに対する嫌がらせは今度こそパッタリとなくなった。
それどころか未来の王太子妃であるわたしに失礼がないように、皆とても気を使ってくれるし特別扱いしてくれる。
わたしが話し掛けてあげると皆嬉しそうに媚びてくる。すごくいい気分。
そうだ。皆の前でダレル様と愛を誓えば、きっともっと、わたしは特別な女の子になれるはず。
エリーザお姉様みたいに。ううん、もっと特別な本物のお姫様に。
そのためには下準備が必要だった。だからダレル様に嫌がらせの主犯を調べるようお願いした後、わたしは意地悪なご令嬢たちに言ってやったの。
「ダレル様へあなたたちにひどいことをされたって報告させてもらいました」
「そんなっ」
皆、ダレル様が怖いのか面白いくらい青ざめてゆく。
「ダレル様は未来の王太子妃であるわたしにした、あなたたちの仕打ちをとても不快に思ってます。もうすぐ、本人が直接話を聞きにくるでしょう」
「ご、ごめんなさい。許して、キャロルさん」
そんな可哀想な彼女たちにわたしは優しい手を差し伸べてあげる。
「このままだとあなたたち、とってもひどい罰を受けることになります。けど……エリーザ様に命令されてやったって言えば軽い罰で済むかも」
「そ、そんなことっ」
「だって、エリーザお姉様は一応まだダレル様の婚約者ですし、公爵家のお嬢様ですから。あなた方が彼女の命令には逆らえなくてもしかたないでしょ? わたしからダレル様にそう口添えしてあげてもいいですよ」
「……本当に?」
少しでも罪が軽くなるならと、彼女たちは浮かない顔をしながらも我が身かわいさに思ったようだった。
「も、申し訳ございませんでした! キャロルさんにひどいことをしてしまったのは事実です。けれど……全てエリーザ様の指示でした」
「本当に反省しております。キャロルさんはなにも悪くないのに、でも、エリーザ様の指示で、どうしても逆らえなくてっ」
彼女たちはわたしの言った通りダレル様に証言してくれた。
「エリーザはそんな女性じゃ……」
「ダレル様はお姉様に騙されていたんです。お姉様はいつもダレル様がいない時だけ本性を出してわたしに辛く当たってくるんですよ」
ダレル様は戸惑っていたようだけど。
「お姉様に騙されて可哀想なダレル様。でも大丈夫。あなたにはわたしが付いてますから」
そう言ってダレル様の気持ちを救ってあげた。
その日、わたしは久しぶりにあの素敵な夢を見た。まさにわたしが望んでいた通りダレル様が皆の前でわたしを選んでくれる夢。そして目が覚めた瞬間、全てを思い出したの。
「ああ、これはあの少女マンガの世界だったんだ!」
ヒロインはわたし。そしてマンガ通りの舞台が整ってる。もうすぐクライマックスのシーンが始まる。
「うふふ、楽しみ」
皆の注目を浴びながら王子様に選ばれる自分を思い浮かべうっとりする。
わたしは婚約破棄のあのシーンを起こすためマンガと同じようにお姉様へ手紙をしたためたのだった。
◆◆◆◆◆
~~ エリーザside ~~
中庭での一件があったあの日から、私は二人が一緒にいるところを見たくないので、ダレル様ともキャロルさんとも会わないように避けてしまっていた。
けれど、それから数日後のこと。
「あら、これは?」
『エリーザお姉様へ とても大切なお話があるんです。今日のお昼休み、校舎本館の中庭へ来てください。 キャロルより』
朝学園へ着くと、私の机には彼女から呼び出しの手紙が入っていたのだった。
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