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カミングアウト

みぃちゃんは熱く語ってくれる。それにしても話の内容が女性的に過ぎるのだ。女性だから女性的なのは当たり前ではある。しかし女性が女性に話すような専門性の高い内容なのだ。


みぃちゃんは若手の頃色々あったけど……。ベテランになっても色々あった。それでもいわば女子校育ち、女性の世界で生活してきた。だから大人の男との込み入った会話が得意ではないのだろう。知っていることを手当り次第に語ってしまっているのだろう。そんなふうに思っていた。「万能」「フルスペック」と呼ばれるみぃちゃんでも素顔はただの清純女子なのだ。


みぃちゃんはグイグイ来てくれる。

「ラインやメールももっとしようよ」

そんな提案もしてくれるのだ。

「もっといっぱい電話してほしい」

「山々だけど……」

みぃちゃんの迷惑になってはいけないと思って控えていたのだ。大事な撮影の直前や偉いプロデューサーとの打ち合わせ中にかちあってはいけない。「オレは一般人のペースで動いているから、みぃちゃんの都合のいい時間にかけてきてくれよ」


そんな趣旨のことを言った。それから実際に直電が来るようになった。


覚悟が込められた本気が伝わってくる。


この思いをしっかりと受け止めたい。そして大きくして返したい。


だがやはり違和感を感じる。


みぃちゃんと密会していた。肩を寄せ合って語らっていた。テーブルの上に誰かが忘れていったラメのかわりになる黄金色のアルファベットのシールがあった。目の下に貼るものらしかった。

「こういうのつけることってある?」

でしょ?という確信に満ちていた。ジョークだと思って乗った。

「おう、あるよ。でもそんなにいつもはつけないよ。」

イベント用のメイク用品らしかった。

みぃちゃんは微笑んだ。身体をよじらせて上目遣いに俺を見た。

「こういうのってさ……」

そしてラメ論を熱く語り始めた。


その夜、俺は初めて自分からみぃちゃんに電話をかけた。

「あ、……も、もしもーし!!」

俺からの電話にみぃちゃんの声が普段より上ずっている。背後からざわめきが聞こえる。スタジオにいるようだ。

「今、大丈夫?」

「う……ん、大丈夫だよ!」

時間はあまりなさそうだ。手短に、そう思うとまとまらないものだ。

「みぃちゃん……、話したいことがあるんだ」

案件が案件だけに、すぐには要点には入れない。まず最近の出来事、そして幾つかの例え話を交えながらの雑談、友人の噂話、それらを循環させながら頃合いを見計らう必要がある。俺とみぃちゃんの将来を左右するであろう重大な事実なのだ。

「ん?なになにどうしたの?」

みぃちゃんはつとめて明るい声を出す。

「大事な話なんだ。」

「うん」

俺は息を飲んだ。

「……やっぱり電話では話せない。会って直接話したい」

「わかった」

みぃちゃんが息を飲み込むのがわかった。


ここまで積み上げてきた関係性がどう変わるのか?新しい関係性が始まるのか、それとも……。押し寄せる不安とともに清々しさも感じる。お互いを理解するためには乗り越えなければならない城壁があるのだ。


みぃちゃんに打ち明けなければならない。


女性として女性を愛することを決意した時、みぃちゃんは強い高揚感を感じたことであろう。許されざる愛ほど燃え上がる。そのロマンティシズムを今から俺は壊そうとしている。もちろん黙ってこのままみぃちゃんの錯誤に乗じてより親密になることはできるだろう。しかしそれはみぃちゃんの清純を踏みにじることだ。あれから7年。スキャンダルを乗り超えて再び正統派清純アイドルとして歩んできたみぃちゃんを汚すことはできない。


確かに身を捩らせる仕草、潤んだ瞳と唇は恋する女性のそれである。


みぃちゃんは明らかに俺を男として認識している。


だが俺を男装の女性と考えているがゆえに女性としての話題が専門的になるのだ。


・女性の身体を持ちながら男性の心を持っている女性でありながら男性として過ごせずにいる。


・日々女性として女性の姿で過ごしながら、みぃちゃんの前では本来の自分、男性の姿で男性として振る舞う姿を見せている


・女性である自分に心を許す男性の心を持った女性の、まさにありのままの姿であると理解しているのだ。


だからこそ日頃女性として振る舞う苦労をしている俺に生まれながらの女性としての専門的なアドバイスを提示してくれていたのだ。


深い愛情と思いやりを持って。


俺が女性として確実に生きられるように。


「全てをさらけ出して自分らしく生きろ」と言うのは容易い。


しかし抗うばかりではなく順応するのもまた生き方なのだ。


待ち合わせの場所にみぃちゃんがやってきた。


それから2年後、女優として順調に活動しているかにみえた元アイドルグループ坂井坂47の「みぃちゃん」こと岸本みどりは突然芸能界からの引退を発表した。


「今までありがとうございました。体力気力の限界によって引退を決意しました。これからは普通の女の子として静かに暮らします」


半年後ファンの掲示板にこんな目撃談が書き込まれた。


「みぃちゃんが背の高い女の人と歩いているのを見た!」

「それってマネージャーだよ。現役時代から時々目撃されてたじゃん」

「プライベートでもマブダチって言ってたもんな。元気そうでなにより」

「なんかホッとした。てっきり男できたから引退したんだと思った」

「ってことはみぃちゃんは今もカレシ作らずに清純のままだね!!」

「引退してるから別にいいんだけど、できれば2年は恋愛禁止頑張ってほしいもんなぁ!」


その背の高い女性とは女装したオレであることは言うまでもない。

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