まさかのまさかのまさかの!?
「ギャオん・・・・」
なんだ?今の。犬が首絞められて屠殺でもされたような鳴き声は。
目の前のベヒーモスはくたばっていた。
「は?・・・・・はああああああああ!?」
いや、なんだこれわけわからなさすぎるだろ。と、とりあえずレベルを確認・・・・。
「レベル五百だと?おいおい一体何が起こったんだ!?」
手持ちのカードは何もない。あるのはさっき持ってたハズレのスキル。
とりあえず有効化はしておいたがアレの効果って確か『絶対絶命のピンチに際した時、敵のモンスターに十だけダメージを与える』だったよな。
ヒットポイント十以下のモンスターなんてこの世界には存在しない。レベル一の最弱モンスターでさえヒットポイントは三十あるんだぞ。
討伐したベヒーモスの詳細メニューを開いてみるとコイツのレベルはカンストの八百レベルで年齢が最長老クラスの七百歳。
どうやら死に場所を求めてこの始まりの村周辺にやってきた流れ者らしく、ここに来る前は遠い彼方にあるケテルラルガルク山の山頂にあるベヒーモスの集落にいたようだ。
それがほんとにほんとに死の間際だったらしく、残りヒットポイントが十以下となって運良くこのクソザコい俺の下に現れ、これまたたまたま運良く俺の持ってたスキルに条件が当てはまって発動。
半年間身を粉にしてこの世界で生きてきた俺へのご褒美なのか、ようやく報われたのか、喜んでいいんだよな!?
突然のことに受け入れきれず、しばらく獲得した能力を確かめていた。
スキルは全てガチャや金銭による取引でした購入出来ないのでもちろん何も無い。いや、正確にはさっき引いたシルバーガチャのハズレ賞があるにはあるが、無いのも同じものだ。
レベル五百って実際どれくらい強いのか、始まりの村から出たことの無い俺には検討もつかないが、王都周辺のプレイヤーが百から百五十だとすると今の俺ってめちゃくちゃ強いんじゃねぇの?
だがそれでも王都までは行けない。
五年もかけてそこまで行くくらいならこの周辺の五十レベルモンスターを狩りまくってスキルガチャ引きまくった方がお得だろうよ。
そう考えたが吉日。村に戻ってベヒーモスを討伐した証をアイテムストレージから出して受付のお姉さんに渡した。
ああ、そうか。説明していなかったが、この世界はゲームと同じように出来ていて、俺のような転生者だけかは知らんが、アイテムストレージという機能があって、アイテムを持ち運ぶのに鞄の類は必要ない。
「え、えええええええ!?サイトさんがレベル五百!?しかもベヒーモスを討伐って・・・・何があったんですか!?」
そりゃ驚くよね。うん、当の俺もまだ現実として受け入れきれてないから当然だよね。
ちなみにサイトというのはこの世界の俺の名前で、斎藤という本名からもじってあるだけのその安易なネーミングセンスを笑いたければ笑うがいい。
「たまたま死ぬ直前のベヒーモスにダメージを与えるスキルを持ってまして。あ、これ報酬いくらになります?」
「ま、魔王クラスのモンスターですから一億ガルド以上は支払われるかと思います。」
「い、一億!?」
「ただ、この村にはそんな大金は置かれていないので、王都に申請して更にここに戻ってくるまでの往復分の十年はかかるんです。」
「じゅ・・・十年は長いですね。少しずつ受け取ることは可能ですか?」
「それは可能ですが、他の冒険者さんのことを考えると月十万が限界かと思います。」
「そ、そうですか。では月十万と追加でガチャを回させて貰うことは出来ますか?」
「あ、はい。それなら可能ですよ。こちらも限界数があるのですが一ヶ月ごとに神級レジェンドガチャが一回、超級プラチナガチャが三回、上級ゴールドガチャが十回、中級シルバーガチャが三十回、下級ブロンズガチャが引き放題というのはいかがでしょうか?」
「下位ブロンズガチャを抜いて月に六百万ガルド分か。一年間で七千二百万ガルド分ということはやり過ぎると無くなっちまうな。レジェンドガチャをするなら一億で百回しか引けないからな。とりあえず分かりました。レジェンドガチャとプラチナガチャだけ制限引いて、あとは考えます。」
「分かりました。すぐに手続き致しますのでしばらくお待ちください。」
この冒険者がほとんどいない暇な村で珍しくお姉さんは忙しそうにしていた。
「とりあえず豪勢にいくか!」
たまたま死にそびれたのが運良く大金持ちになってしまったのでスキルはしっかり獲得しつつ小銭は節約しなければならない。
だが今日くらいご馳走を食べてもバチは当たらないだろう。
なんせほぼ毎日黒パンばかり食べて半年だぞ。
そうこうしている間に俺のテーブルに熱々の鉄板に乗ったステーキが届いた。
バターが鉄板で溶けてジュウジュウと音を立てるのが余計に空腹をくすぐる。
「いただきます!」
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「ごちそうさまでした!」
「サイトさん、手続き終わりましたよー!」
食器の乗ったトレーを返却口に下げたところで受付のお姉さんから声がかかった。
「さ、どのガチャから引きますか?やっぱり神クラス?」
「んー、それは最後にとっておきたいのでまずはブロンズ百回お願いします。」
「はい、では百万円ツケておきますね。」
「はーい。」
今ツケって言ったよな。つまりは金が入るまで借金って形になるのか?まぁいい。ベヒーモス倒して一億入るんだからなー!
張り切って一回一万ガルドのブロンズガチャ百回回してそれが全てアイテムストレージに消化されていく。
どうやらほぼコンプしたようだ。
「次はシルバー二十回で!」
シルバーにも百万ガルドを突っ込んで勢いよくガチャ機を回す。
「最低の五千ガルド級が十二個、一万ガルド級が四個、三万ガルド級が一個、四万ガルド級が一個、五万ガルド級が一個・・・・・お、おおー!十万ガルド級・・・・キタあああああああああああ!!」
シルバーガチャから出る最高レア、十万ガルド級のスキルが一つ出ていた。
「おめでとうございます!凄いですね。確率千分の一ですよ!」
「ありがとうございます!内容はあとで確認するので次にゴールドガチャをお願いします!」