プロローグ
失踪しないようにお声がけお願いします。
普通に忘れかねないので。
吹き抜ける風に乗って、遥か遠くの喧騒が微かに響く。さわさわという青草のさざめきに掻き消されそうなその喧騒は、様々な形で僕の心をつつく。
好奇心、安心感、そして僅かな忌避感。
揺り椅子にゆらゆらと揺られながら、僕は穏やかな気持ちに浸る。
ふと思い出す、決別した筈の家族の顔。
過去に囚われては居ないはずなんだけどな、と思わず苦笑が零れる。
「──……やぁ。おはよう、アルフェン」
かつかつと木の床を叩く靴音に振り返ると、風にわずかにそよぐ銀髪が目に映る。
「おはようございます、アクラ様」
あどけない顔立ちとそよ風のように穏やかな声。聞く度に心が落ち着く、良い声だ。
微かにスプリングを軋ませながらお辞儀をする彼女に、僕は再び苦笑した。
『HP-000 Arfen』。それが彼女の名前だ。
僕の代まで続いていたとある一家、その一人が創り上げた作品だ。
馴染みの深い僕にすら機械とは思えない穏やかな笑顔を浮かべながら、Arfenは美しい銀髪を揺らす。
「アクラ様、今日もいい天気でございますね」
幸せそうなその笑顔に、僕もまた笑顔になる。
「そうだね。今日は少し、散歩にでも行こうか」
「そうしましょう。では、ついでにピクニックでも如何でしょう?」
「ああ、それは良いね。僕も準備を手伝うよ」
「助かります、アクラ様」
揺り椅子から腰を上げ、手に持っていた本を置く。
歩く度に跳ねる白銀を眺めながら、僕は永遠ではないこの幸せを心の奥で静かに噛み締めた。
続きは折を見て投稿させて頂きます。
多少先まで完成しているので、同時並行でもう一つ作品を更新していきたいと思っています。
重ね重ね、今後健忘による失踪を予防するため定期的なお声がけをお願いします。