地下幽閉されていた頃
2話目が完成いたしました~。どうやら私には文才が一欠片もないようで、さらなる駄文となってしまいましたが、ない頭をフル回転させ、乏しい語彙力を総動員して書きましたので、読んで頂ければ幸いです。
声が聞こえる。楽しげな笑い声が。きっかり2人分、低めの男の声と高い女の声。会話の内容までは分からないが、きっと夫婦であろう。時折優しい手つきで俺が入っている腹を撫でる。
俺が生まれて(まぁまだ生まれてはないのだが)初めて抱いた感情は、安堵だった。
(良かった。俺は望まれてここにいるんだ……)
良かった、本当に。ここでなら愛してもらえる。心が暖かな感情で満たされていく。その暖かさに包まれながら、俺は眠りに就いた。
そして、俺は生まれた。辺りが騒がしい。多くの人が忙しなく走り回り、時々「コトッ」や「カシャン」と何か硬質な音が聞こえる。沢山の人の声も聞こえるが、何故か皆一様に不安げな様相である。
「これは………」
と驚愕を露にする声。
「旦那様に何とお伝えすれば……」
困惑し、狼狽した声。
え、何?状況的に俺か?俺のせいか?
「メイド長どうしましょう?」
「いいでしょう。私が旦那様にお話します」
メイド長(と思われる)は、これから死地へ赴かんとするような、ある種の悲壮感すら滲ませた声で言った。
旦那様とは相当ヤバい人物らしい、という事だけは分かった。
「こいつはなんだ?」
底冷えするような声で"旦那様”は問う。
「何故、我がイルーワ家から銀髪の子どもが生まれる?」
へぇこの家はイルーワ家って言うんだ~と暢気な俺と、俺を抱き抱え震えるメイド長。え、俺銀髪なの!?
「あの女が今の暮らしを捨ててまで、不貞を働くとも思えん。そもそも銀の髪を持つ貴族など私が知る限りいないはずだ」
旦那様の自問は続く。
「まぁ駒としての利用価値はあるか。何処かに嫁がせてみるのも一興か」
話がだんだん不穏なものになっていく。
「最悪、好事家に売るなり奴隷商に卸すなり使い道はいくらでもあるだろう。ふむ、しかし人目につくと妙な噂が広まりかねん」
そこで一度言葉を切ると、ようやく自問自答は終わったらしく、メイド長に対し、物を扱うような無機質な声で命令した。
「地下室にでも入れておけ。死なんよう世話はしろ。だが私の指示がない限り、決して地下から出すな。分かったな」
「かしこまりました」
震える声で答えるメイド長。
そして、ここから長い軟禁生活がスタートした。
「住めば都」という諺がある。どんな所でも住み慣れれば、そこが居心地よく感じられるという意味だが、俺はこの言葉が偽りであると前世から知っている。状況・環境に慣れこそするが、決して居心地が良いとは思えない。
何が言いたいかというと、地下室は割りとろくでもない場所だった。地下室と言ってもきちんとした部屋ではなく、石造りの粗雑なものだ。狭い・暗い・じめじめしている。それに結構寒い。夏でも肌寒いし、冬はそれこそ極寒であった。何度メイド長に暖炉を設置してくれとお願いしたことか。そんな訳で地下とは、人が何年も暮らすような場所ではないし、そこに子どもを放り込むなど、常人の所業ではない。
それが8年間、地下室暮らしをした俺の感想である。
さて、改めて自己紹介をしよう。俺の名前はアイリス・イルーワ。イルーワ侯爵家の三女として生を受けた。容姿は、少し癖のある銀髪にちょっと吊り気味の赤眼。好きなものはメイドが差し入れてくれるアップルパイ、苦手なものは礼儀作法。目下の課題は、如何にして地下生活から脱却するか。
どうやら俺は転生したらしい。しかも前世の記憶というオマケをもらって。そして、まさかの女子である。神様がいるとしたら、何故女にしたのか小一時間問い詰めてやりたい。どうせなら男か、前世の記憶は無しで女にしてもらいたかった。そうすれば変に気を揉む必要もなかったのに。と言いつつ、8年もすれば流石に慣れるものである。恥ずかしさも外聞もプライドも、命懸けの生活の中では取るに足らないモノであった。
俺の生活はほぼ地下で行われているが、一部だけ例外的に外(と言っても屋敷内だが)に出られる機会がある。ダンスレッスンと風呂だ。
ダンスは週2回、風呂は2日に1回あり、その際のみ地下室から出る事を許された。ただ脱走防止の為か、移動時はご丁寧に目隠しをされ、移動後の部屋はカーテンを締め切り、扉に鍵を掛ける徹底ぶりであった。更にだめ押しとばかりに常にメイドが1人に私兵と思われる体格のよい男が2人監視に就いている。イルーワ侯爵はそれほどまでに俺の存在を知られたくないらしい。
そんな感じで自由を剥奪され、娯楽の「ご」の字もないの生活だが、実は楽しみにしている事が3つだけある。
1つは食事。流石は貴族といったところか。シェフの腕が相当に良いようで、出てくる料理が本当に美味しい。前世の粗食っぷりに比べたら、天と地程の差である。そのお陰か、アホみたいに寒い地下生活でもほとんど風邪など引かず、身体はすこぶる健康だ。
2つ目は湯浴み。熱い湯に肩まで浸かった時の、あの何とも言えぬ気持ち良さ……!疲れを解きほぐし、寒さに凍える身体を優しく包んでくれる。風呂文化が無ければ、俺はとっくに死んでいたかもしれない。嗚呼、お風呂万歳。欲を言えば、元日本人としては毎日でも入りたいものだ。
3つ目は魔法の授業だ。もう一度言う、魔法である。何もないところから炎を生み出したり、風を自在に操ったりできる、あの魔法である。魔法の存在を知ったのは5歳の時だったが、それはもう心踊ったものである。
なんでも魔法は誰しもが使える訳ではなく、才ある者にしか発動できないらしい。その才能という不確かなモノを血統として確立させ、研鑽・発展・進化させてきたのが貴族なのだそうだ。その為、魔法を扱える者はほとんど貴族しかいないとのこと。
この世界は魔法なしではもはや成り立たないまでに密接に生活と結びついており、それ故、貴族は特権階級として強大な権力を持つ事を許されている。
そんな貴族の中でも魔法が使えない者は少なくない。我がイルーワ家では現当主である父、その伴侶の母、長女のカサンドラお姉様、末妹の俺は使えるが、父方の祖母と母方の祖父母、次女のマリーお姉様は使えないといった具合だ。
生活には欠かせない上に使い手が限られる魔法は、国にとって最も重要な資源のひとつだ。数万の兵士を動員する国家間の戦争に於いても、たった100人の魔法師団の存在が勝敗を決定付ける事さえある。裏を返せば、魔法で後塵を拝すことは、他国の侵略すら招き兼ねない危険性を孕んでいる訳なのである。それ故、国家は魔法の研究に心血を注がざるを得ない。
我が国では、魔法の素養がある子どもは例外なく魔導学園への就学が義務づけられている。12~15歳の間、魔法について学び、制御法や、更なる出力向上に努めるのだ。
魔法が使える俺も学園への入学義務があるのだが、最悪の場合、その前に奴隷商等に売り飛ばされることも考えられるので気が気ではない。それも考慮に入れているからこそ、俺の存在を秘匿しているのだろう。例え地下から出られたとしても、そんな人生まっぴらである。
イルーワ侯爵は利益の為なら手段を選ばない人間だ。貴族令嬢として、また魔法師としての価値が低いと見なされれば、すぐにでも売られるだろう。だからこそ、従順で優秀な娘を演じなくてはならない。いつか地下をでるその時まで。臥薪嘗胆。臥薪嘗胆。それでも、溢れ落ちる溜め息を誰が責められようか。
「はぁ……。いつまでこの生活が続くのかねぇ」
今日も誰もいない薄暗い地下室で独りごちるのであった。
そして転機は訪れる。
今回も稚拙極まりない文章だったかとおもいますが、最後までお付き合いいただいたこと感謝申し上げます。次回より物語が動き始めますので、また読んで頂ければ幸いです。