第2話 〜焼死〜
僕が案内されたクラスは、高等部1年A組。
こういった学園でのA組ってのはエリートの集まりと相場が決まっているが、ここもそうなのだろうか。
さすが僕、不死者は伊達じゃないね。
教室の扉を開けた瞬間、やはりざわつくクラスメイト達。
「来たぞ、転校生だ。」
「年は取るみたいだね。」
「不死身ってマジかよ。」
「ムカつくやれやれ系が……」
「ためしに挑戦してみようかな。」
なんでここにもやれやれ系にムカついてるやついるんだよ。
まさか同じ奴じゃあるまいな。
とりあえず自己紹介だ。
「えーと、学園長からご紹介いただきました。榊 健護です。不死身です。皆さん頑張って殺してください。」
なんだこれ、何も知らない人が聞いたらすげー非常識だし、すげー物騒だし、すげー挑戦的。
「言ってくれるじゃないか転校生。」
ほーら、早速釣れたぞモブっぽいメガネが。
「俺の『麻雀で天和しか上がれない能力』とやりあってみるか?」
得意げに、メガネをクイッとさせるモブメガネ君。ちょっとかまをかけてみるか。
「あのさぁ、その能力って親番以外無能ってことだよな? 重ねて聞くけど、『確実に天和を上がる』んじゃなくて、『天和しか上がれない』んだよな? 解釈の違いかもしれないけど、カス能力にしか思えないぞ。」
クイッのポーズでフリーズするメガネ。そして……
「どぼじでぞんなひどいごどい゛う゛のお゛ぉぉぉぉぉ!」
泣き崩れた。なんでコイツこの学校にいるんだよ。
異能はむしろこのメンタルの弱さじゃねぇのか。
まさかとは思うけど僕のデビュー戦コレじゃないよね。
「あの転校生、早々クラス委員長を倒しやがった!」
あー、これ完全にバトルとして見られてましたね。僕のデビュー戦コレですよ。
「『オンリー・トーク』の委員長をトークオンリーで下したぞ!」
カッコよさげに言ってるけど、それ意訳すると単に口だけ野郎を論破しただけだからね。全然かっこよくないからね。
そもそも『オンリー・トーク』ってなんだよ『ゴッドブレス』どこ行った。神なんていねぇってか。
「いい加減にしねぇかてめぇら!」
真っ赤なモヒカンをなびかせて、怒声とともに机が蹴られる。クラスに一人はいるよねこんなやつ。そうです、不良です。
「初めて見たときからずっとムカついてたぜ、このやれやれ野郎が……。」
「第1話のときからやれやれ系にムカついてたのお前か!」
しまった、つい声に出てしまった。
「第1話とか言うんじゃねぇよ!俺はな、この世に2つどうしても許せねぇものがあんだよ。溶けて包み紙に張り付いた飴と、やれやれ系主人公と、ハーレム系主人公だコラァ!!」
3つじゃねぇかとかツッコミたかったが、離れた位置から拳を振った奴から放たれたもの、なにアレ、火の玉?
とっさに僕はとっさにかわしてしまった。不死身なのに、なにより、ドMなのに。
ドッジボールだって率先して顔面セーフを狙いに行く僕に避けさせるとは。コイツは強い。
「転入早々委員長と不良に絡まれるとか、王道過ぎるだろアイツ。」
「烈火の奴キレてるな。炎のキレも半端ないぜ。」
あ、この不良は烈火君てのね。そんでこの異能とは、さしずめ烈火の炎ってとこか。ダメだろそのネーミング。
それと僕の背後の黒板、火の玉直撃してたけど無事なのね。さすが異能の学校。備品も特別性だわ。
「今のは挨拶代わりだ。しかし、不死身のくせに躱すなんてな、火が怖いと見たぜ。」
なんだその推察。僕はジャングルの野生動物か。
「だがもう逃がさねぇ!炎の竜に呑まれちまいな!」
「待て!お前の名前で炎の竜はヤバい!別の意味でヤバい!8匹とかもやめてくれ!せめて技名は違うので――」
「わけわからんことごちゃごちゃうるせぇ!喰らいやがれ!『やれやれ系主人公炎殺黒龍派』!!」
「違うやつだけどそれもダメっぴゃぁぁぁぁぁん゛ぎもぢい゛ぃぃぃぃぃぃ!」
黒い炎の竜が容赦なく僕を呑みこんだ。竜もそうだけど、烈火君だっけ?君も容赦なさすぎ。
僕の不死身説だって伝聞だろうが。あと、いくら公認とはいえ殺人だからな?もっと躊躇えよ。
こんな時こそ不良にあるまじき善悪の葛藤とか見せろよ。その方がポイント高い気がするぞ。
そんな心の中でのツッコミや、僕の断末魔に疑問符を掲げてるモブ達はほっといて、快感実況タイム入りまーす。
転落や交通事故はさんざんやったけど、焼死ってのはやったことなかったなぁ。
まずはコレ、色的に普通の炎じゃなさそうだからきっと快感も数倍になってるんじゃないかな?
そんなこと考えてるうちに僕の体毛と皮膚は焼け飛んでますよ。やけどってレベルじゃない。火葬。
一皮むけた男になったぜ~とか余裕こいてる間にもう一肉むけ始めてるわけですよ。
肉の焼ける臭いが立ち込めております。この後クラスで『焼肉行く派』と『もう肉食べられない派』で内乱起きればいいのに。
さてさて、ホルモンまでいい感じに焼けたところで……あれ?ちょっと火が強すぎない?焦げちゃうよ!?
骨まで焦げ……溶けてる!?骨溶かされるとか初体験!僕の初めてあげちゃう!
でもこんな火力じゃあ焼き肉屋も火葬場もやとってくれないぞ。あ、火力発電所とかどう?
さて、お楽しみもそろそろおしまいだ。徐々に僕の体を包む炎が小さくなる。
正確には僕の身体がほとんど残ってないので炎も弱まってるだけなのだが。
カランと乾いた音を立てて何かが落ちる。はい、こちらが僕の喉仏の骨になります。
「俺にケンカ売ってきた勇気に免じて、喉仏は残しておいてやる。」
なんだそのささやかな優しさ。結構器用に火力操れるんだな。前言撤回、就職先結構あるぞ。
だが、今回みたいな中途半端はよくないな。そんなことだから、ほら……
「戻ってきちゃったろ?」
炭に、灰に、蒸気になった僕の身体が、喉仏を中心に再生する。
頭部や心臓からの再生は数あれど、喉仏からの再生をやってのけたのは僕くらいだろう。僕の本体喉仏?
ご丁寧に服まで再生してくれたおかげで、興奮冷めやらぬ僕の息子のよる自己紹介タイムとはいかなかった。残念。
「テメェ……マジで不死身ってか……?ならこれはどうだよ!?」
足元で爆発、一気に距離を詰めてくる。マジで器用だなこの不良。
不死というだけで勉強も運動も平均以下の僕は速攻で首根っこを捕まれた。
「フヒヒィ!そのたくましい腕でどうやって僕をいたぶってくれるのかな!?」
ヤベッ、素が出た。
前の断末魔との合わせ技一本だよ、クラスの大半は僕の性癖に気付いたよ。
明日から挑んできてくれる奴減っちゃったらどうしよう。
「不死身でドMとかチート能力じゃねぇか!それでもなぁ、ここで引いたら不良以前に男じゃねぇんだよ!零距離最大火力の爆発で死にやがれ!」
この頭悪そうな不良にまで性癖バレたよ。それはおいといて、最大火力かぁ。ちょっと楽しみ。
僕をつかむ腕が熱を帯びる。
そして……
「んぼお゛ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ⁉︎」
烈火の全身、穴という穴から炎が噴き出す。最初こそ、「あ、そういう技?」などと思ったがどうやら様子がおかしい。
そのまま烈火は僕の首から手を離し、崩れ落ちた。コレ死んでね?
「自分の異能を爆発どころか暴発させちまうなんて……俺もヤキが回ったぜ……」
生きてた。そんでうまいこと言った。
しかし、あれほど器用に炎を操る奴がいきなり暴発というのも釈然としないが……
「すげぇぞ転校生!」
「ただのドMじゃねぇってことか!」
「超ドMだぜ!」
「終始ボコられ側なのに勝っちまうとか、クッソドMだな!」
ドMに食いつき過ぎだモブ共。もう少し僕の勝利に言及してくれ。
「俺も、認める。お前がクラスナンバーワンだ。」
「ん?クラスナンバーワンってことは学年制覇したも同然じゃないのか?」
「いやいや、何言ってんだお前。ここはAクラスだぞ。」
ああ、そっちだったか。Aから上に刻むタイプか。そうだよなー、そんな都合よくいかないよなー。
「クケケケケケ……おめでたい奴だぜ転校生ちゃんよぉぉぉ〜……」
不気味な声の方向に目を向けると、見覚えのあるモブメガネ。委員長、お前そんなキャラだったっけ?
「その程度の不良に苦戦するようじゃ、S組はおろか、B組にすら勝てないぜぇぇぇ〜」
おい、なんか無理やりバトルものの王道を行かせようとしてないか。でももっとヤバい奴がいるならそれはそれで楽しみだ。フヒヒッ。
「貴様の性癖や戦闘パターンは生徒会にチクらせてもらうからなぁ!アヒャヒャヒャヒャ!」
ザコ敵のような高笑いをしながら、委員長は教室から駆け出した。今の戦いだけでパターンもクソもないだろうが。
とりあえず今は……
「烈火、だったっけ?ここのこと詳しく教えてもらっていいかな?」
「ああ、その前に治療させてくれよ。療、頼むわ。」
「オッケー!」
療と呼ばれた小柄な少年。高等部の制服を着てなければ中等部と間違えられそうだ。
「僕、ヒーラーなんだ。不完全なんだけどね。」
彼が烈火に手をかざすと、ゲームでよく見る回復魔法といったエフェクトが烈火を包む。
「どういうことかっていうと、小さい傷はともかく、大きな傷は治せないんだ。場合によっては死ぬよりマシ程度にしかならない。重ねがけで快方に導くこともできない。そんなだからAクラスなのさ。」
彼は自嘲気味に笑った。ショタフェイスでそんな表情するなよ。こっちまでやるせない気持ちになるじゃないか。
「転校生、いや、健護。この学園の説明してやるよ。」
名前も覚えててくれてるし、実はこいつ結構いい奴なんじゃないか?
「クラス分けだが、Aクラスははっきり言って落ちこぼれだ。委員長みたいなのがいるくらいだからな。」
「確かに……彼は異能すらあやふやだった上、キャラもブレブレだったな。」
「次がBクラス。俺レベルがゴロゴロいるぞ。そしてエリート集まるSクラス。小等部から高等部まで、クラス分けはこれで統一されている。」
「委員長が言ってた生徒会ってのは?」
「各学年で1人ずつ、合計12人からなる組織だ。何をやってるかはよくわからねぇが、ただ一つ言えることは、各学年の最強が奴ら生徒会ってことだ。」
なんだその燃える展開。そんな奴らの異能をブチ込んでもらえるなんて、アヘアヘすっぞ。
「おい、健護、ヤベェ顔になってるぞ。」
「健護君、まさかボコられるの想像して興奮してないよね?」
療とやらは読心能力もあるのだろうか。
「うーん、不死とドMが併発するとこうなるのか……僕じゃ到底治せそうにない……」
今回の一件ではかなりの収穫があった。とは言っても僕には賞金かけられてるから、待ってるだけで色々来てくれそうな気がするんだけどな。
ゆっくり次を待つとしよう。ゆっくりなんてさせないで、今すぐ来てくれてもいいけどね。ウヘヘヘヘ……