新しい仲間
モローをやっつけたことで、モローの親から猛抗議を受け、ユリウスは莫大な賠償金を支払わされることとなった。しかし、モローをやっつけた実績に目をつけた学校でもトップクラスのエリート戦闘集団に仲間に勧誘されることとなった。
モローと諍いがあったことは学校にモローの両親から通達があった。
父親はユリウスを叱らなかったし、母親も何も言わなかった。
ただ、学校に両親とともに呼び出されモローとその両親にユリウスと両親が謝罪させられた。
モローの母親は激高しており、口を極めてユリウスのみならず両親も罵倒し、告訴すると息巻いていた。
告訴するなら実際にモローの拳を砕いたフロラを告訴するのが筋だが、絶対的強者であるフロラに対しては
モローの両親は何も言わなかった。フロラは謝罪すらしていない。
モローはひたすら、立場の弱いユリウスとその家族を加害者に仕立て上げ、謝罪と賠償を要求した。
この世の中で自らが被害者であると主張し、相手を謝罪させることができるのは、絶対的な
強者だけだ。弱い者はたとえ被害者であっても加害者にしたてあげられ、ひたすら踏みつけられて
謝罪する以外に選択肢はない。
結局、ユリウスの父がモローに多額の賠償金を支払うことで示談が成立し、ユリウスも学校を退学せずに済んだ。
謝罪した帰り道、ユリウスがつぶやく。
「ほんとうは、ボクは悪くないんだ。モローが一方的に襲ってきたんだ」
「わかってる」
父は短く答えた。
「くやしいよ」
「我慢しろ」
「フロラは何のおとがめ無しなのに……お父さんが四天王だったらこんなこと……」
ユリウスがそこまで言った時に、それまで無言だった母がユリウスの頬を平手で打った。
「いてっ!何を……」
ユリウスは母親を睨み付けたが、途中で言葉に詰まった。母親は唇をかみしめ、目に涙をうかべていた。
「やめろ、この子の言うことが正しい。私がふがいないばかりに、この子に肩身の狭い思いをさせている」
「そんなことありません!ありません!」
「私は大丈夫、明日からまた一生懸命家族のために働くよ、踏みつけられ、踏みつけられ、一生賠償金を払い続け、罵倒され、踏みにじられ、悪者にされ、それでも働いて働いて、お前達を守っていく。それが私の責務だからだ。弱いということ、戦いに負けるということはそれだけで罪なのだ。私はその父の罪を一生背負っていく」
「おじいちゃんは悪くないよ!おじいちゃんはすごい人なんだ!」
「やめなさい!そんな事、誰かに聞かれたらどうするの。教科書でも勉強したでしょ、お祖父さんは勇者との戦いに負けた最低のクズだって書いてあったでしょ、あんなクズゴミにならないよう、みなさんは努力しましょうって学校で習ったでしょ!」
「おじいちゃんは……おじいちゃんはっ!」
ユリウスは拳を握りしめ、目からポロポロと涙を流した。
次の日、ユリウスが学校に行くと、優等生のサイコが近づいてきた。
「これは、これはユリウス君。うちの戦闘パーティーのメンバーを散々やっつけてくれたそうだね」
「いや、ボクは……」
フロラがやっつけたとは言えなかった。フロラには迷惑をかけられない。
「いいんだよ、奴は我々パーティーの中では最弱。まったくパーティーの面汚しだよ、精霊に負るなんてね」
そう言いながらサイコは銀縁のメガネをたくしあげた。精霊に対する侮蔑の意識がにじみ出している。
魔人は精霊を低いものと見ている。しかし、学校ではそうした上下の意識は悪い事と教えられているので、あからさまには言わない。特にサイコのように学校の成績トップの優等生は。
「あ、大丈夫、大丈夫、ボクは君たち精霊みたいな奴らでも差別したりしないから」
サイコはうすら笑いを浮かべた。
「ちょっと学校の裏庭に来てもらえないかなあ」
「はい」
ユリウスはおとなしくサイコについていった。
学校の裏には他のパーティーメンバー三人が居た。通常戦闘パーティーを構成するのは五人。
「アラー、この子が弱虫モローちゃんをやっつけたのね。まあ精霊に負けるような弱虫ちゃんだからしかたないわねー」
ピンクの髪の魔女風の装束を着た女の子がニタニタ笑いながらユリウスを見ていた。
「おいおい、勘弁してくれよ、うちのパーティーは学校でも有数のエリート部隊なんだぜ、精霊なんて入れたらクラスの笑いものになっちまうよ」
金髪青目の美男子がそう言いながら腕組みしている。
「まあいいさ、肉壁は俺一人で十分だ。あの腰抜けのせいで、前衛の俺はいつも迷惑していたんだ」
真っ黒な鋼鉄の体の筋肉隆々の男がその横に居た。
「ユリウス君、紹介するよ、ボクのパーティーの仲間だ。女の子は灼熱のフレイム。金髪の優男はカオスホール。真っ黒で頭が丸坊主なのがタロース。じゃあ、僕たちの能力を見せておこうか」
サイコはそう言うと遠くの山に視線を送り手をかざした。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴオ
地響きとともに山が空中に持ち上がった。ユリウスは唖然とした。
その山は猛スピードでこちらに迫ってくる。
「ちょ、まずいよ!あんな巨大な山が学校にあたったら、学校が消し飛んじゃうよ!」
ユリウスは叫び声をあげる。
「チッ、腰抜けが」
タロースが舌打ちをする。そして前に走り出す。
「おい、あぶない、山につぶされるよ!」
タロースは猛スピードであっという間に山の処まで行くと、大きくジャンプして山にパンチを食らわせる。ドドーンと大きな音とともに衝撃派が伝わってくる。山は粉々に砕けて、その破片がこちらにも飛んでくる。
「うわっ!危ない!」
「フッ、何言ってんだか、この子は」
フレイムが嘲笑しながら手にもったツエをかざすと、目の前に巨大な炎の壁ができ、山の破片をことごとく燃やしつくした。周囲には黒焦げになった山の残骸が散らばっている。
「これ、どうするんですか」
「やれやれ、いつもボクが後始末か」
カオスホールが肩をすくめて手をかざすと、その手には唇がついている。唇が大きく開くと、ものすごい勢いでそこらに散らばった残骸を吸い込んでいく。
「うわわわわわ、なんなのこれ、すごいよ!みんなすごいよ!」
ユリウスが驚いて叫ぶ。
「さて、このユリウス君を今日から我々のメンバーにしようと思うんだけど、モローが抜けたポジション、前衛を担当してもらうことにするよ」
「馬鹿な!こんな腰抜けに前衛がつとまるわけねえだろうが!前衛ナメてんじゃねえぞ、まあ、こいつがいなくなりゃ、その話も無かったことになるがな。」
そう言うとタロースは素早くユリウスに走り寄ると、ユリウスの体を拳で打ち砕いた。ユリウスは一瞬で細かな肉片となって飛び散った。しかし、すぐに体は元通りに戻った。
「ヒューッ!クールな能力だね」
カオスホールが口笛を吹く。
「ほう、なかなかやるじゃねえか、俺は相手は精霊みたいな卑賤な存在でも能力がある奴は認める。よろしくな」
タロースがユリウスに握手を求める。
「あ、どうも」
ユリウスはタロースと握手した。力強い大きな手だった。
「私もよろしく~」
フレイムが手をさしのべる。
「あ、よろしくお願いします」
ユリウスが手を出すとフレイムが手をひっこめる。
「ちょっと、そこは遠慮して辞退するべきでしょ、精霊のあなたが。もしかして魔人と仲良くしてもらえることが当たり前と思ってる?私達、インテリだし、寛容な心であなたを対等にあつかってあげてるのよ、本当なら私達のような学校で成績トップのしかも魔人とは会話することも許されない程度の低い存在なのよ、あなたたち精霊は」
「あ、ごめんなさい」
ユリウスは手をひっこめた。
「おいおい、やめてさしあげろよフレイム君。ボクは相手がたとえ精霊程度でも差別したりしないよ、よろしく」
サイコが手をさしのべる。
「あ、いや、ごめんなさい」
ユリウスは手を引っ込める。
「いいんだよ、ほら」
サイコはユリウスの手をとって、握手する。
「あ、はい、ありがとう、感謝します」
「ちっ、厚かましい、そこはひざまずいて辞退すべきでしょ、厚かましい子」
フレイムが眉間に深いシワをよせてつぶやいた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
ユリウスは何度も頭を下げた。
魔人は精霊より高級な存在とされていた。本当は見下されて悔しいはずなのに、
徐々にそれが当たり前に感じていくユリウスであった。