戦いの顛末
思いっきり拳を振るって、凍り付いたユリウスを殺そうとしたモローであったが、フロラに拳をつままれ、そのままもぎ取られた。
モローの右手の拳はフロラの手の中に残されていた。
鮮血が飛び散り、モローの右腕から骨が露出する。
「ぎゃああああああー!」
モローは転がり回った。
ユリウスはただそれを呆然と眺めていることしかできなかった。
遠くのほうに土埃が立つ。
ドドドドドッと大きな音をあげてカルビンがこちらに駆けてくる。
カルビンは転べ回るモローの所まで行くと、無慈悲に拳を振り上げた。
「やめろ!もういいんだ」
ユリウスが命令するとカルビンは知的で切れ長な目を横に流してそちらを見た。
無言のまま銀縁のメガネをたくしあげる。通った鼻筋、細面の顔、スレンダーな出で立ち。
どれをとっても申し分のない戦闘メイドだ。
「分かったか」
ユリウスが厳しく言うと無言のままカルビンは一礼した。
「返事は?」
「フンガア!」
カルビンは大声で怒鳴った。
カルビンはこれしか言えない。基本的に頭が馬鹿なのだ。
モローの叫び声を聞いてかガーゴイルが二匹空から舞い降りてくる。
フロラは乱れた綠の髪をかき上げる。カエサルはその眼を見てぎょっとした。
かつては真っ青だった瞳が真っ赤になっていた。花の精霊は大地の生気を吸って成長する。かつては、綺麗な清水の里の生気を吸って成長していたフロラが数多くの戦士の血を吸ってその目が真っ赤に変わっていた。
「魔界警察だ。暴行の現行犯で逮捕する」
一匹のガーゴイルが叫んだ。
「暴行罪?こいつが襲ってきたのよ、正当防衛だわ」
「お前、精霊だな。ここはお前ら精霊が悪事を働いて、正義の魔王様の制裁を受けて占領された占領地だ。地位協定によって魔族の地位は保証されている。よって魔族は何をしても無罪だ。しかし、お前らは犯罪者だ」
「長年魔界四天王として人間たちから魔界を守ってきたこのフロラが犯罪者ですって?」
「そうだ!そんな地位なんて何の意味もない。お前は魔界を襲ってきた極悪非道の勇者たちと同じだ!」
「あらそう、なら力ずくで逮捕するなり殺すなりしなさいな」
フロラはうすら笑いをうかべた。
「なにを!精霊の分際で!」
ガーゴイルがフロラに突進する。
フッとフロラは手を横に振る。その風圧でガーゴイルの首が吹き飛ぶ。
「ひ、ひい!」
もう一匹のガーゴイルが腰を抜かす。
「お、おぼえていろよ!」
叫んでガーゴイルは逃げていった。
「大丈夫だった?」
フロラはユリウスに向かってほほえみかけた。その笑顔はずいぶん大人のお姉さんに見えた。
人間の多くの生気と魂を吸ってフロラは成長してしまったようだ。かつての少女ではない。
体もずいぶんと発達しているようであった。
「胸……見てる?分かるわよ、視線」
「ご、ごめん」
ユリウスは顔を真っ赤にして下を向いた。
「いいのよ」
「それより……」
「モローこのままだと死んじゃうよ、お医者さんにつれていかないと」
ユリウスは横目でモローを見た。
「あら、やさしいのね、おりこうさん」
フロラはモローの拳を投げ捨てて、ユリウスの頭をなでた。ちょっと血なまぐさい匂いがした。
それからフロラはモローを担ぎ上げて、ユリウスと一緒に魔界病院まで行った。
結局、モローの手は繋がらなかった。
戦い終わって、衰弱したモローを病院に連れて行く二人。