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奴は魔界四天王の中でも最弱  作者: 公心健詞
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挫折のあとで

敵の魔物に完膚なきまでにうちのめされ、抵抗のすべもなかったユリウス。自分の才能に疑問をもった

ユリウスは勇者ベスに教えを請いにいくのだった。

巨大なブナの木の太い枝にぶらんと死体がぶらさがっている。

ユリウスはそれを見上げる。

「可愛そうに。才能がある前途有望な若者じゃった」

 後ろから聞こえる声にユリウスは振り返る。

 そこには、いつか城の武道大会で暴れていたガントがいた。

「なんだ、あんたか」

「おまえ、どこにいく」

「このまえの戦いで自分は何もできなかった。だからどうしたら勝てるか、勇者ベスさんに聞きにいくんです」

「やめとけ。人には人の戦い方がある。この若者もアドバイスを聞きに言って、自分の個性を全否定されて、絶望して死んだ。人は、自分の個性は自分でしか発見できない。成功した奴の真似をしてうまくいこうだなんて卑しい考えで勝てるものか」

「あんたみたいな使用人に何が分かる!ボクは死線を越えてきたんだ!本当に優れた人から学ぶことのなにが悪いっていうんだ!」」

「なら好きにするがいい」

ユリウスはそのままベスの住む豪邸に向かった。

豪邸の前には長蛇の人の列ができていた。みな、勇者ベスに大金を払ってアドバイスをうけにきているのだ。自分が敗戦した戦いの状況をレポートにして金の延べ板10枚をそえてベスに送る。

すると、ベスから招待状がとどき、アドバイスが聞ける。

早朝から列に並び、夕方頃、やっとユリウスの番がまわってきた。

 ベスは豪華な椅子にもたれかかり、うんざりした表情でユリウスを見下ろしていた。

「レポート見ていただけたでしょうか」

「見た。お前才能ない。勇者やめとけ」

「はい、次」

 ベスの言葉にユリウスは唖然とした。

「ちょ、ちょっと待ってください。私は金10枚も支払ったんですよ、それが、これだけですか?」

「は?オレみたいな超有名人に直接会えるだけでみんな大喜びなのに、お前何言ってんの?」

「しかし!」

「あーはい、分かった、分かった、いるんだよね、お前みたいなあつかましい奴。でははっきり言ってやろう。お前は絶対に勇者にはなれない!お前は必ず失敗する!ダメな奴は何をやってもだめなの!!!」

 ユリウスは愕然とした。キチ子を守ってやれなかった。こんな自分を守るためにあの娘は犠牲になったのか。

目から涙がポロポロと流れだしてきた。

「はいはい、こいつ、とっとと追い出して」

 ベスがそういうと衛兵がユリウスの腕をもって引きずり、屋敷の外に放り出した。

「うう、うううう、ううあああああああああー!」

大声をあげてユリウスは号泣した。

「だから言っただろう。行ってはダメだと」

屋敷の外にはガントがいた。

「ああああ、死にたい、もうボクは死にたい!僕がいなくったって、世の中誰も困らないんだ、僕なんていなくったって、いなくったってっ!!!!」

「死にたいか?」は

「死にたいさ、もういっそのこと殺してくれ!」

「じゃあ、殺されて来い」

「は?」

「勇者ベスに戦いを挑んで殺されてこい」

「そんなものボクが瞬殺されて終わりさ」

「なら、死ねていいじゃないか。しかしな、もし、ベスの言ってることがウソだったらどうする?口からでまかせで、お前には実は才能があったら?人は本来自分の事にしか興味がない。人なんてどうでもいいんだよ。そんな奴がお前の才能の何が分かるというのか?お前はどうせこのままだと破滅する。狂い死ぬ。ならば、勇者に殺されて死ぬか、それとも、相手が偽勇者であったことを見破って、自分が本当は才能があったことを勝ち取るか?その二つに一つしかないじゃろう。なら死ぬ気で突撃してこい。」

「でも、そんな、回りの人に迷惑が」

「今から死ぬ奴が迷惑もくそもないじゃろ。たった1%のチャンスにかけるか、それとも死ぬかどっちじゃ」

ユリウスは唇をかみ締めた。

「うおおおおおおおおお!」

ユリウスはベスの屋敷に突撃する。

「暴漢だ!取り押さえろ!」

「ハリケーン!」

ユリウスが大声で叫ぶと、暴風雨が起こって数百人の衛兵が一気に吹き飛ばされた。

 ユリウスはそのまま屋敷に突入する。

「ひ、ひい!なんだお前は!」

「勇者ベスよ、ボクと決闘しろ!そしてボクを殺せ」

「や、やめておけ、お前は一瞬で死ぬぞ!」

「死んでもかまわない。本望だ!いくぞ、トルネード!」

 ユリウスはそう言うと、手の中にタツマキを作ってベスに投げつけた。

「ひ、ひいっ!お助けええええええ!」

 ベスが叫ぶ。

「フリーズ!」

 その場に老人の声がひびきわたった。

 ユリウスのトルネードは凍り付いて床の落ち、砕け散った。

「あ、あなたは!」

 それはガントだった。

「わが名は勇者ガント。悪魔との戦いの最中、戦場に置き去りにされたが、通りかかったミノタウルスに、氷結の術を教える条件で助けてもらい、人里まで運んでもらったのじゃ」

「じゃ、じゃあ、この勇者ベスって……」

「ワシらが魔王四天王の一人を倒した手柄を横取りして一人帰ってきたただの荷物持ちよ」

「では、ボクに才能がないって言うのは」

「もちろんウソじゃ」

「じゃあ、教えてください、僕には才能があるんでしょうか」

「ばか者!それは自分で探すのだ。人の才能というものは、自分でしか発見できぬ。人の技術がほしくば、自分で研究して自分で盗め!お前を見抜くことができるのはお前だけなのだ!」

 ガントのその言葉を聞いてユリウスはワナワナと体を震わせた。

「あああ、あああああ……、あああああああー」

 ユリウスはその場で大声をあげて泣いた。


人は、結局、自分でしか自分を救うことはできないのだ。

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