パンツで弓道
敵の魔物、モローは簡単に朝比奈に撃破され、てしまっていた。
体勢を立て直したユリウスたちは逃げた朝比奈たちを追った。
朝比奈たちを追っているのは魔人のモローだ。
特殊な力をもったユリウスでも苦戦した相手である。
人間にかなうわけがない。
と思うのも当然である。
朝比奈たちが逃げたほうに走って行くと、そこでは地面に干物のように這いつくばっている
モローの姿があった。その頭を朝比奈がふんずけている。
「おう、遅かったな」
「ボクたちを捨てて逃げましたね」
「こっちは魔人一人引きつけてやったんだ。別に悪くはないだろ。それに、ああいう時はすぐに逃げるもんだよ。逃げなかったお前らが悪い」
悪びれることもなく朝比奈が言った。
モローはふん縛られて王城まで連れて行かれたがアルブが自分を見捨てて逃げていったことを知ると、
床につっぷして号泣した。
モローは戦意を喪失し、この街で暮らすことになったが、街を襲った魔物を雇う店などどこにもない。
結局、残月たちの部隊が雇うことになった。
残月たちは仲間を殺されたのだからさぞ恨むことだろうとユリウスは思っていたが、残月は
「戦の上の事故やむなし」と言ってモローを許した。
モローは後衛に回された。天弓とともに後方支援をする。前衛は朝比奈、藤林、残月である。
「ふざげるな!」
モローは激怒した。自分は魔界でも屈指の武闘派だと自負していたからだ。
「戦闘力の弱い奴は前衛には置けん。すぐ削られるから」
冷静な顔で残月は言った。
「俺のどこが弱いんだ!」
「朝比奈に負けたとこ」
即答する残月。
「だーかーらー、それはお前んとこの拳法家がバカみたいに強えからだろうが!普通は魔物だってあそこまで強くはねえよ」
「じゃあ、あそこの幼児とでも戦ってみるか?」
残月は見物に来ていたクマ公の方に目をやった。
「駄目だよ!クマちゃんが死んじゃう!」
サエがクマ公をぎゅっと抱きしめて首を横に振った。
「だいじょうぶだよ」
クマが言った。
「大丈夫。だってアイツ、無茶苦茶弱いもん」
「コラ、てめえ!」
モローが激怒して怒鳴る。
「やるのか、やらないのか?」
冷静な顔で残月がたずねる。
「あ?真剣勝負ならやってやるよ。だが、あのガギがミンチになってつぶれて死んでも責任はとれねえからな」
残月はクマ公の方を見る。
「だそうだ。どうする」
「いいよー」
クマ公は答える。
「悪いが、手加減してやってくれ。こいつ、無茶苦茶弱いから」
残月がクマ公に言う。
「はじめていいのか?」
モローが問う。
「ああ」
残月が言い終わらない前にモローが突進する。
「死ねやあああああー!」
ぼこっ!
鈍い音がした。
「ぐへっ、息が……息ができねえ……」
クマ公のパンチを腹に食らってモローはその場に倒れ込んだ。
「はい、後衛」
冷静な声で残月が言った。
「じゃあ、今日から弓を使えるようにしろ」
残月はモローにそう言ったが、モローは片腕が鉄球になっているので、弓が持てない。
「くそっ!腕さえちゃんとあれば、俺は負けなかったのに!負けなかったのに!」
ぶつぶつ言いながら、それでもモローは片手で必死に弓を持とうした。しかし、当然弓は持てない。
それを見かねたクマ公がある日、自分がはいていた脱ぎたてホカホカパンツを持ってきた。
「はい!」
クマ公はパンツをモローの手についている鉄球にかぶせる。
「なにしとんじゃああー!」
モローは激怒する。
「じゃじゃざじゃじゃじゃーん!マジックパンツ―!」
クマ公は叫んで、そのパンツに弓を押しつける。するとパンツは弓を引きつけて手で弓を持てるようになった。
「おおっ!弓が持てるじゃねえか、ってじゃねえよ!」
モローは乗り突っ込みをしながらパンツを手から剥がし、地面になげつけた。
「うわっ!せっかっくのクマタンの好意を!モローのうんこたれ―!」
クマ公は叫んで、どこかへ走っていった。
「ふ、ふん!」
モローはそっぽをむいたが、ちろりとパンツを見た。そして、こっそりそれを拾い上げるのだった。
モローはケンタウルスのように体中に毛が生えた猛牛の姿をしているが、その日から銅にベルトをするようになった。そして、そのベルトに小さな白い袋をつけるようになった。そこには、クマ公のパンツが入っているのは一目瞭然だったが、みんな、あえてそこには触れなかった。
モローは、人目がある時は手で弓を投げて攻撃する技を磨いたが、一人になると手にパンツをはめて
弓の練習を一人であるようになった。
モローは人に隠れてパンツ弓道の練習をひたすら頑張るのであった。