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奴は魔界四天王の中でも最弱  作者: 公心健詞
14/20

ドニー大公

残月との戦いに決着!

 スパーン!

 会場に音が鳴り響いた。

 マサキが飛び上がり、紙の筒で後方の弓者である天弓を頭から打ち抜いたのである。

 天弓は弓でその紙の筒をさえぎったが、紙の筒が折れて、弓をすり抜け、天弓の胸に当たった。 

 それと同時に前に突進した藤林がカルビンの胴を紙の筒で打ち抜いていた。カルビンは素早く藤林の背中を掴み振り上げて地面に叩き落とした。

 藤林は床に両手両足をついて反動をつけ、バウンドしながら後方へ飛び退いた。

 「待て!」

 審判員が制止する。

 天弓とカルビンを指さす。

 「退場!」

 「なっ!弓で剣を止めたではないか!」

 「いや、真剣なら弓を真っ二つに切っていた」

 「この弓は魔法弓ぞ、剣などでは切れぬ!」

 「実践ならこちらも魔法刀をつかっている!」

 天弓とマサキが口論する。

「ふんがー!ふんが!ふんがー!」

 カルビンも怒っている。

 藤林は無言で薄ぼんやり目を半開きにしてユリウスの方を見ている。

 あ、右手の小指をなめはじめた。その指をおもむろに鼻につっこんで鼻くそをほじる。

 出てきた鼻くそを無表情に眺めると、またユリウスの方を向き、まっすぐ歩いてくる。

 指についた鼻くそをさしだす。

 「食べりゅ?」

 藤林が首をかしげた。

「食べません」

 ユリウスは即答する。

「遠慮しなくてもいいよ」

「遠慮してません」

「ふん」

 藤林は少し不愉快そうな顔をして鼻くそをピンと指ではじき、それがユリウスのほっぺたにくっつく。

「うわつ!ばっちい!」

 ユリウスはあわてて払いのける。

「ふんがあああああー!」

 カルビンが激怒して藤林に殴りかかる。藤林は軽々とそれを避けて後ろに跳び下がる。

「やめ!やめ!命令に従わないと失格にするぞ!」

 審判員が叫んだ。

「カルビン、下がれ」

 ユリウスが厳しく命令するとカルビンはシュンとしておとなしくなり、肩を落としながら後ろに下がった。

 「チッ」

 天弓も舌打ちをして後ろに下がった。

 そんなさなか、打刀使いの残月が後ろにさがって審査員のベスと何か話しているのをユリウスは目撃した。何かを貰って手の中に隠した。

 残月が戻ってくる。

 「それでは、再開!」

 審判が叫ぶ。と、同時に残月がユリウスに突進してくる。身構えるユリウス。しかし残月は両手を広げてユリウスの胸の中に飛び込んでくる。

「な、何をっ!」 

 動揺するユリウス。残月はそのまま自分の豊満な胸をユリウスの顔に押しつけて抱きつ、そのまま反動で押し倒す。

「う、うわっ!」

 残月の柔らかい旨の感触でユリウスの顔が包まれる。

 その時である。

 押し倒されて背中が地表についたとき、パリンと音がした。

 何か液体がユリウスの背中にしみ出す。そして、みるみるうちに背中が凍り付き地面に張り付いた。

 ユリウスは身動きがとれない。

 残月はゆっくりと立ち上がり見下すようにユリウスに一瞥したあと、マサキに斬りかかる。

「ちょっ、ユリウス、助けて!」

 マサキも必死に逃げるものの、残月とともに素早い藤林も襲いかかってくる。

「おい、朝比奈、お前も加われ!」

 残月が叫ぶ。朝比奈は頭の上に黄色いアヒルのオモチャをくくりつけ、腕組みをしている。

「へっ、イヤだね、三対一とか卑怯だし」

 二対一ならマサキもなんとか攻撃をさけることができていた。しかし、反撃ができない。

「おい!ユリウス起きろよ!この色ボケ!」

 背中が凍り付いてうごけないと言おうとした。しかし、それを言うと、自分が水の精霊であることがバレるかもしれない。だから言えない。

 ユリウスはそのまま凍り付いた背中が溶けるのを待つしかなかった。

 そこに朝比奈がトコトコと歩いてきて紙の筒でユリウスの頭をポテッと叩く。

「はい、退場!」

 審判がユリウスに命令する。しかし、ユリウスは動かない。動けないのだ。

「早く退場しろ!失格にするぞ」

 ユリウスは黙るしかなかった。

「10カウントするうちに退場しろ、1、2……10、失格!」

ユリウスは決勝戦で負けてしまった。明らかにマサキと知り合いのベスという老人がユリウスの正体を知っていて、氷結魔法のポーションを残月に渡したとしか思えない。

 そこにロダム公が登場する。

 係官がロダム公に優勝者が残月たちだと説明する。

「冗談じゃない!あんな目のつり上がった黄色いチビ女どもが我が討伐対のトップだと!他の王侯の街にも入るのだぞ、我を世間の笑いものにするつもりか!」

 ロダム公の怒鳴り声が聞こえる。

 残月の眉間に深いシワが寄った。

 係官は慌てて何度もロダム公に頭をさげる。

「残月組に不正行為があった事が発覚し、失格!優勝はユリウス組とする!」

 係官が発表をした。

「ばかな!我らに何の不正があったというのだ、説明しろ!」

 残月が怒鳴る。

「うるさい!さわぎたてると先王から授与された勲章も剥奪するぞ!」

「チッ!」

 残月が舌打ちをする。

 ユリウスは必死に立ち上がろうとする。鎧を固定した留め金をはずして起き上がる。バリバリと音がして、すこし背中の皮がはがれた。それでもかまわず、残月に走り寄る。

「すまない、こんな事になって」

「気にするな、いつものことだ。しかし、実力なら誰にもまけない」

 憮然とした表情で残月はそういうと、ユリウスに深々と一礼してその場を去った。

「優勝者、ユリウス!」

 係員が叫ぶ。

「待ってください!私達は優勝者ではありません。失格者です。私達には優勝の資格はありません。試合、辞退します」

「ちょ、何言ってんだ!せっかく優勝だってんだからそれでいいんだよ!王立軍だぞ、公務員だぞ、三色昼寝と汚職つきだぞ!」

 マサキがユリウスに詰め寄る。

「それでも、こんな優勝はボクの誇りが許さない、もし、死んだおじいちゃんが同じ状況にあったとしても、きっと断っただろう」

「何きれい事言ってんだ!」

「もう決めた!」

 ユリウスは宣言した。

「ふん、増長しおって、ロダム公の討伐軍に入りたい者はいくらでもいるのだ、イヤならとっとと帰れ!」

 係員はユリウスに罵声をあびせかけた。

「わかりました。さようなら」

 ユリウスはその場を後にした。

「まってよ、ゆりうす~」

 マサキがその後を追う。

「ふんがー!」

 カルビンも後を追う。

「ねえサエちゃん、ボクたちも行こうよ」

「そうだね、クマちゃん」

 サエはクマのヌイグルミと一人芝居をしたあとユリウスの後を追った。

 先のクエストの報酬で資金には余裕があった。仕事ならいくらでもある。そうユリウスは思った。

 しかし、状況はそんなに甘く無かった。

 ロダム公の義勇軍への参加を断ったユリウスたちはギルドへの出入りを禁止された。

 しかたなく別の街に行ったがロダム公の支配域ではどのギルドもユリウスたちの立ち入りを拒否した。

 しだいに資金も底をついてくる。そして、いよいよ切羽詰まった頃、薄汚い街に到着した。大きな街で、石畳を敷き詰められた整頓した町並みだがどうも通りにたむろする人達の人相が良くない。

「ひ、人殺しーっ!」

 コボルドらしき獣人が向こうから走ってくる。

「ひゃっほー!ひゃっほっほー!獣人ひゃっほー!」

 馬の蹄の音とともに女の歌い声が聞こえる。

 遠くから真っ赤なドレスを着た女が馬に乗り、片手にランスを持って走ってくる。

「ひゃっはー!汚物は消毒だー!」

 叫びながらランスを投げる。そのランスはコボルとの胸を貫く。

「ゲホッ!」

 コボルドが倒れる。

 女は馬から下りる。

「うぐぐぐぐ……痛い……死にたくない……死にたくないよお」

 コボルドがうめく。 

 女はランスを引き抜くとコボルドが手に握っている革袋をむしり取る。

「この盗人犬畜生が!このクソが!犬のくせに人間様から金とってんじゃねえぞ!このクソ犬!」

 あざけりながら何度も傷口を蹴り上げる。

「ぐはっ、痛いよお……苦しいよお……いっそ殺してくれっ……」

「うっせえ、ボケ!誰か殺すか、このままジワジワ野垂れ死ね、クソ犬が!ぎゃはははは!」

 真っ赤なドレスの女は豪快に笑う。

 そこに粗末な身なりの鍛冶屋が走ってくる。

「はあ、はあ、はあ、よかった、今月の仕入れのお金、コレが無かったら俺もう鍛冶屋続けられなかったんだ……」

 「うむ、無事取り返したえやったぞ、これに懲りたら、クソ犬など信じるなよ、こいつらは泥棒犬だ!犬公などに武器は売ってやるな、どうせ人殺しくらいにしか使わんのだからな、がはははは!」

「へへー、ドニー大公殿下、なんとお礼をもうしあげてよいやら、もうクソ犬なんかに剣は売りません!」

「お前も蹴ってやれ、ほれ」

「はい、このクソ犬め!」

 鍛冶屋はこの真っ赤なドレスの女と一緒になって死にかけのコボルドを蹴りまくる。

「や、やめろよ、相手は苦しんでいるじゃ無いか!それに犬だからってイジメるとかよくないぞ!」

 ユリウスは思わず怒鳴ってしまった。

「あ?なんだてめえ、どっから着た」

「ロダム公の街からだ!」

「ああ、あの偽善者ロダムに洗脳されてきたのか」

「洗脳されたんじゃない!ボクの本音だ!」

 ユリウスは怒鳴った。

「あ?」

 女は眉間に深くシワをよせた。

ユリウスはしまったと思った。このこの辺りはロデム公かこおのドニー公の領土しかない。ドニーに嫌われたら、ドニー領のギルドにも入れなくなる。もうどこへも行くだけの資金もない。

「てめえ、よくも大公殿下に!」

 鍛冶屋が喰ってかかる。

「まあ待て、こいつはただの世間知らずのガキだ許してやれ。ガキよ、お前は世界を知らぬ。世界を知って大人になれ。我が支配域のギルドに行き、冒険先を探すがよい。ほれ」

 女は盛り上がった胸の間に手を入れて、そこからドックタグのようなものを取り出してきた。

「我が支配域のギルドの通行書だ。面白い奴には与えることにしている。励むが良いぞ」

 女はニヤリと笑い、そのまま馬にのって立ち去っていった。

 ユリウスはそれをただ、唖然として後ろから見送った。

新しい街で何があるのだろうか?

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