決戦の火ぶた
大会が開始された。
「待て!」
怒鳴り声が聞こえた。
ガントは手を止めて後ろを振りかえる。
「見苦しいマネはやめろガント」
その声を聞いてガントの体はワナワナと震え出す。
「何だお前、ただの荷物持ちのくせに何言ってやがる、ベスよ!」
ユリウスが見ると相手は黄金に輝く鎧を着た恰幅の良い老人だった。白いヒゲを口にたくわえ、堂々としている。腰につけた剣には高価な宝石がちりばめられている。
「英雄ベス様に向かって何を!」
「無礼者め!」
城の衛兵たちが駆けつけてくる。
「この偽物めえー!」
ガントはベスと呼ばれた老人に突進するが衛兵たちに取り押さえられる。
「離せ!ワシが本当の英雄なんじゃ!」
「この無礼者め!四天王の一人、水の精霊を倒した大英雄、ベス様を侮辱するとは許せん、死をもってつぐなえ!」
衛兵の一人が剣を振り上げる。
「まて!」
ベスがそれを制止する。
「しかし!」
「その男、元々私の荷物持ちだった使用人だ。しかし、魔王四天王との戦いに行く途中、怖じ気づいて逃げてしまった卑怯者なのだ。その良心の呵責にたえかねて、このような妄想にとらわれてしまったのだろう。武器を奪って放逐してやれ。一時は正義の心に目覚めて共に魔王を倒そうと誓った仲間だ。どうかゆるしてやってほしい」
ベスは深々と頭をさげる。
「さすが、大英雄様!おい、この妄想野郎、大英雄様に感謝するんだな!」
衛兵たちはガントから武器を取り上げ、鎧をはぎとり、そのままどこかへと引きずっていった。
「これは英雄ベス様お久しぶりでございます」
マサキがベスの前に進み出る。
「おお、これは英雄マサキか久しぶりだな。して今日は何の用だ」
「再び、魔王討伐軍に加わろうと思いまして」
そう言うとベスの表情が険しくなる。
「やめておけ、お前では無理だ」
「やって見なければわかりません」
「ふん、勝手にしろ。私は今日の武闘大会の主席審査員だ。無様な戦いをして我ら英雄団の名を汚すなよ」
「ははっ!」
マサキは深々と頭をさげた。
あの男がお祖父ちゃんを殺した男。あんは貧相な男に……。そうユリウスは心の中でつぶやきながら唇を噛んだ。あんな奴に誇り高き四天王の水の精霊が負けるなど、どうしても信じられない。
ユリウスたちは城の衛兵に案内され、城内のコロシアムに入る。
前衛はユリウスとマサキとカルビン。後衛はサエとクマのヌイグルミだが、サエとクマのヌイグルミは形だけのものなので、遙か後方に配置した。
相手方にもサエとクマのヌイグルミは数あわせなので、くれぐれもサエに攻撃はしかけないようお願いした。もし、ユリウスたち前衛が負けたら素直に降伏すると相手方に伝えた。
相手方もここで下手に抗議して強力な後衛を王宮側が用意するのを警戒し、素直にユリウスたちの申し出を受け入れた。
第一試合は重厚な鎧を着込んだ重装歩兵軍団だった。
「いえああああああー!」
ユリウスが叫んで鼓舞しをふるうとその衝撃派で相手の重い鉄の鎧を着込んだ重装歩兵たちが全員ふっとんだ。
「うわっ、ボクこんなに強いの!?」
ユリウスはあまりの自分の強さに唖然とした。
マサキなどえげつない敵と最初に当たったために、自分がものすごく弱いと思い込んでいた。しかし、魔界四天王の血筋はすさまじいものであった。普通の人間を相手にして、はじめて己のすごさを自覚し、ユリウスは愕然とした。
その後の戦いもすべてユリウスの拳の一撃でふっとばし、サクサクと勝ち上がっていった。
「なんだ、楽勝じゃないか」
ユリウスは自分達と人間たちの圧倒的差を自覚した。そして決勝戦。
決勝戦に勝ち上がってきたのは、先の魔女の暴走の時、魔女を一撃で倒した黒髪の少女たちだった。
少女たちは鎧を着ていない。その変わりに奇妙な服装をしていた。
「なんだよ、あれ?」
ユリウスは首をかしげた。
「古代の魔法衣装だ。滅亡した古代文明の古文書、ドウジンシーという書物で見たことがある。そこに書かれている文字は判読不能だが、そこには絵が書いてあり、あの服装を着た少女たちが凄まじい魔力て敵を殲滅する様が描かれていた。あの中央に立っているポニーテールの女が持っている武器は日本刀というものだ。そして着ている服はセーラーフック」
「セーラーフック?」
「古代の魔法戦士の中でも最強の力を持つ者が着る装束だ。気をつけろ」
「その両隣は?」
「右のちびっ子が着ている紺色の体にぴっちりと張り付いた衣装はスクール・ミズーギーと呼ばれる衣装で、古文書の記述によればギョラーイという爆裂魔法を使うようだ」
「左の無表情の子は?」
「あのぴっちりした紺色のパンツのようなものはブルーマーと呼ばれるものだろう。上に着ているのはダイソウギーと呼ばれるものだ」
「後衛右が着ている下がスパッツ、上がタイソウギ―でその上に羽織っている紺色のがジャージーだ。後衛左はブレザーという服装だな」
マサキが解説している処に城の管理官が走り込んでくる。
「待て待て!今までは模擬刀を使って試合をしてきたがユリウス殿の魔法攻撃があまりに激しすぎてけが人が続出しているので、今後魔法攻撃は禁止とする。また、刀は模擬刀ではなく紙を丸めた筒を使用することとして、当たったらその時点で死亡判定とする!」
「な!」
ユリウスは絶句した。ユリウスは何も魔法など使っていない。少し手加減して拳をふるっても、その速度があまりにも速いので相手を衝撃派で吹っ飛ばしてしまうのだ。こうなれば相手を紙の筒で叩くしかない。
係員が慌てて紙の筒で作った剣や弓や手投げナイフなどを作る。その間、手持ちぶさたになったのか、相手の黒髪の軍団のリーダーの刀をもった女の子が前に進み出てくる。
「我らの国では袖すり合うも多少の縁という言葉がある、自己紹介をしたい」
「わかりました」
ユリウスは頷いた。
「まず、私は打刀の残月。右の水着のが鉄拳の朝比奈、左が忍者の藤林、後衛の陸上着のが槍のキチ子、ブレザーが弓使いの天弓だ」
「ボクはリーダーのユリウス、メイド服を着ているのが武闘家のカルビン、刀を使っているのがマサキです。後ろの子はサエという子は人数合わせなので攻撃しないでください。こちらは前衛が負ければその場で降参します」
「心得た」
残月は頭をさげた。
ユリウスも頭をさげる。
審判員が両者の真ん中に進み出る。
「それでは、レディーゴウ!」
試合開始!