良心の呵責
良心の呵責に苦しむユリウス
「ちょっと!私を後ろ手に縛って何しよっていうのよ!」
「うるさい!お前はボクのお祖父さんを殺した報いをうけるんだ!」
「ちょっとやめてよ!いや、いや、いやああああー!」
ユリウスはベットの上で飛び上がった。
周囲を見渡す。体中、汗をびっしょりかいている。
「うわー、なんて夢だ……ボクは最低だ……」
ユリウスは両手で顔を覆った。
そうだ、あの騒動があったあと、魔女にとりつかれた死体たちは倒れ、元の普通の死体に戻ったんだった。魔女と戦って殺された人達の死体の回収と葬儀の準備をするために審査会は日延べになったのだった。
そこら中に散らばったエミリー先生の焼いたクッキーをサエちゃんが拾い集めていた。
「地面に落ちたものを食べちゃだめなんだよ」とマサキが注意していた。
それから……ユリウスたちは宿屋に泊まって眠りについたのだった。
「ボクの体には呪われた汚い血がまじっているのだろうか……」
ユリウスは嫌悪感に心を乱され、髪の毛をかきむしった。
「もっと自分に正直なりなよ」
だれか女の声がした。
「え?」
ユリウスは周囲を見回す。
「マサキを自分のものにしたいんだろ?やっちゃいなよ」
「誰だ!」
部屋の壁からヌーッと少女の首が半分だけ突き出す。ピンク髪の毛に浅黒い肌。
壁から顔を半分だけ出してうすら笑いを浮かべている。
「何だお前は、魔物か!」
ユリウスは壁に向かって手を向け、そこから水流を発射した。
バシン!
水流は壁に打ち付けられ、激しい音がする。
ピンク色の髪の少女は素早く壁の中に消えていった。
「なんだ!なんだ!」
あわててマサキが部屋の中に飛び込んでくる。
「魔物が部屋に入ってきたんだ」
「え?魔物?うわっ、なんだこの甘酸っぱいようなすえた匂いは。こりゃ淫魔だな。ユリウス、お前、何はエッチな事考えたりした?……ん?」
マサキは首をかしげる。
マサキは下着姿のまま部屋に走り込んできたのだった。真っ白なブラジャーとパンティー。パンティーの真ん中に小さな赤いリボンがついていた。
ユリウスはそれを凝視して顔が真っ赤になる。
「う、うわっ!ドスケベ!」
ユリウスは顔を真っ赤にして部屋を走り出していった。
「ボクは最低だ……」
ユリウスは頭をかかえた。
次の日。
「マサキ、ボクの顔を殴ってくれ。ボクは君の下着姿を見てしまった。本当に失礼な事をしてしまった。だから気が済むまで殴ってくれ!」
ユリウスはそう言って頭をさげた。
「べ、別にいいよ、そんなの」
マサキはそっぽをむく。
「でもボクは君にとんでもなく失礼なことをしてしまったんだ」
「あのさ……」
「え?」
「君らの世界ではさ、女が逆上して男の人に水をぶっかけたり、平手で叩いたりするのを見たことは何度でもあるよ。でもさ、私達東洋出身の獣人の世界では、そういうのって卑怯なことだっていわれてるんだ」
「卑怯?」
「だってさ、女は弱いから男に守ってもらったりするじゃん。それに女は弱いから男を殴っても許されるけど、男が女を殴ったら弱い者イジメになる。それを見越して女が男を殴るって卑怯じゃん。だから、私はそういう自分が弱い立場を利用して人を戦うような甘えをしたくないんだ。自分を磨いて、鍛錬して、そして真剣勝負で相手が男でも女でも、戦う時は殺すか殺されるか。対等じゃなきゃだめだっておもってる。だからそういう事は言わないでくれよな」
マサキはそう言うと少し鼻の頭を赤らめてユリウスから視線をそらした。
「そういう考え方もあるんだね、自分の考えを押しつけてごめんなさい!」
ユリウスは深々と頭をさげた。
「はいはい、もうこの話はやめ、やめ、今日は午後から審査会があるらしいから、王城へ行こう」
「そうだね」
ユリウスは満面の笑みを浮かべた。マサキも微笑み返した。
ユリウスはマサキとカルビン、サエを連れて王城に向かった。
王城の審査会場の門の前では右目に眼帯をして左手が無い鎧を着た老人が門番を怒鳴りつけていた。
「だから、このガント様がもう一度四天王をやっつけてやろうと言っておるのだ!」
「なに言ってんだ、ここは特別な勲章を持った勇者しか入れないんだよ。審査に通りたかったら一般列に並びな!」
「だから、翻弄はこのガント様が四天王を倒した勲章を貰うべき男なんじゃ」
「じゃあ、何で勲章を持ってないんだよ!」
「ん?」
ガントはユリウスに気づく。ユリウスの胸には二つの勲章がついている。
「あれじゃ!あれはこのガント様が貰うべき勲章じゃ!返せ!この勲章泥棒!」
ガントは足を引きずりながらユリウスの突進してくる。
ユリウスは驚いてマサキを見る。
「おい、もしかして、あの人から勲章盗んだの?」
マサキはものすごい勢いで首を横に振る。
「返せ!それはこのガント様の勲章じゃああああー!」
ガントは剣を引き抜いてユリウスに迫ってきた。
このガントという老人は一体!?