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奴は魔界四天王の中でも最弱  作者: 公心健詞
11/20

因果応報

シード部屋に行くと、底には黒髪の女集団がいた。

ユリウスたちはロダム公の城の中に案内された。城の中に入るに当たって門番から1000ダラ請求された。聞けば、シードに参加するための参加費だということだった。

「そんなの高すぎるよ、何で1000ダラもかかるんだよ!」

 ユリウスは苛立ち気味に叫んだ。

「ロダム公は別にこの件で金儲けをされる事はない。このシード権で支払われたお金はすべて、魔物たちに両親を殺された孤児たちの養護施設に寄付される。一般の貧しい者たちからは請求はされない。お前たちは四天王討伐勲章とリベンジ勲章を持っているじゃないか、お前達の親が殺された時に支払われた慰撫金もここから支払われたのだぞ」

 城の職員が少し語気を強めて言った。

「え?」

 ユリウスはマサキを見る。マサキは目をそらした。

四天王討伐勲章とリベンジ勲章、容易に想像がつく。リベンジ勲章とは親の仇討ちを果たした事を称えられて与えられた勲章。そして四天王討伐勲章。

 マサキが大好きだと言っていた父はユリウスの祖父に殺され、マサキはその報復のために祖父を殺したにちがいないとユリウスは推察した。

 ユリウスは唇を噛む。

 肉親を殺されたのはユリウスだけではなかった。ユリウスの頭の中で怒りと後ろめたさ、マサキへの共感と拒絶がグルグルと渦を巻いて流れた。

「お金」

 門番が手を出す。

「あ、はい」

 幸い、先の討伐で森にコケむした魔物が出なくなったことで、ユリウスは多額の報奨金を得ていた。だからシード権は買える。

 ユリウスは門番にお金を渡した。

 城の職員がシード選手の控え室にユリウスたちを案内する。

 途中、城壁の中を通るが、壁一面に何人もの騎士の肖像画がかけられている。ユリウスはそれをキョロキョロと見回した。

「魔物と戦って勇敢に散っていった英霊たちです。ロダム公は彼ら英霊への感謝の心を忘れないために全員の肖像画を描かせておられるのです」

 職員が説明した。

 シード権選手の部屋の前には五人の門番が居た。ランサーにソルジャーの前衛。その後ろにアーチャーとウイザードとビショップが居た。

「待て!」

 ランサーがユリウスの前に立ちはだかる。

「そのような戦闘に参加する気もない者たちをここから先に通すわけにはいかない!」

「え?どういう事です」

「最低限の制約結界も貼っていない者がどうやって戦うのか!」

「え?え?」

 ユリウスはマサキを見る。

 マサキがユリウスの前に進み出る。

「お待ちください、制約結界は貼ってございます」

「何を言うか、マトモなのはそこの帰属の子息のみ。その他は寄せ集めのメイドと従者と使用人の幼女ではないか。数も五人そろっていない。それでは制約結界を張れぬであろう」

「ではここでお見せしましょう」

 マサキは懐から紙を取り出して何か文字を書いて呪文を唱える。すると紙から光を発し、ボッと青い炎をあげて消え去った。

「ば、バカな五人居ないのに制約結界を張れただと」

 ランサーが驚愕する。

「お待ちなさい」

 白い装束を着たビショップが前に進み出てサエに近づく。サエは不安そうな表情でクマのヌイグルミをぎゅっと抱きしめる。

 ユリウスは当然、サエを試合に出すつもりはなかった。ただ、黒髪の彼女を白人の街に置き去りにすると、危害を加えられる恐れが会ったので、連れてくるしかなかったのだ。

 ビショップはサエの持っているクマのヌイグルミに手をかざす。

「……やはり。このクマのヌイグルミには生命反応がありますね」

「どういうことだ!?」

ランサーは驚いてビショップを見る。

「考えられるのは二つ。このクマのヌイグルミが本当に生きているか、そうでなければ、このヌイグルミに天使の羽が織り込まれているかです」

「ま、まさか!?」

 その場に居た王城警護の五人がざわめく。

「そこの従者、お前処女か」

「な、なにを!」

 ユリウスはランサーの問いにドギマギした。完全なセクハラじゃないか。

「はい」

 マサキは胸を張ってこたえた。

「つまり、あなたは処女神アテナの守護を受ける制約結界を張っているということですね」

「はい、それだけではありません。そこのメイドもアテナの守護を受けています」

「まさか、二人もアテナの守護を受けるセイントが居るなど、到底信じることはできません。偽りを言うとためになりませんよ」

 ビショップは眉をひそめた。

「え?え?」

 マサキの事はわからないが、メイドのカルビンはそんな守護など受けてはいない。完全なデマだ。こんなはったり、ばれたら大変なことになる。ユリウスは焦った。

「ウソだとお思いなら、そのメイドを剣で切り裂いてみてください」

「なに!?」

 ランサーがたじろぐ。

「おまえ、何を言っているか分かっているのか。何か生半可な魔法結界を張っていたとしても、我らはアーククルセイダーだ。アテナの守護がウソならそのメイドの女は粉々に砕け散って肉片になるのだぞ!」

 カルビンは無言のまま前に進み出た。

 平然としている。

「……」

 ランサーが戦士に目配せをする。

「うむむむ……」

 戦士が躊躇する。

「いいのだな?」

 ランサーがユリウスを見る。

「は、はい」

 カルビンはユリウスの祖父が作った最高傑作だ。祖父ならアテナの守護を付けるような事も考えたであろう。しかし、祖父がカルビンに手を出していない保証はない。もし、そうなら、魔法攻撃でカルビンが死ぬことになるかもしれない。しかし、もう後には引けない。

 ユリウスは生唾を飲み込んだ。

「いけ」

「分かった!」

 戦士は剣を引き抜き天にかざす。

「サンダーボルトスラッシュ!」

 戦士が叫ぶと戦士の剣は稲妻につつまれる。

「てやああああー!」

 戦士はカルビンの肩口に切りつける。

「ガチン」

 鈍い音がした。

「な、何だこれは!」

 戦士は後ずさりする。カルビンは平然とそこに立っていた。

「おわかりいただけましたか」

「う、うむ、通るがよい」

 マサキの言葉にランサーが応え、道をあけた。クマのヌイグルミに生体反応があったのは意味がわからないが、いずれマサキの妖術か何かなのだろう。天使の羽などそう易々と手にはいるものではない。というか、天使が存在するかどうかもユリウスには分からなかったし見たこともなかった。

 部屋に入ると、早速部屋の中でもめ事が起こっていた。

「おい、お前ら土下座して謝罪しろ。それと服を全部脱いでそこで裸踊りをしろ」

 筋肉隆々の男が巨大な鉄のハンマーを担ぎながら部屋の隅にうずくまっている黒髪の少女たちを威嚇している。少女達は目を細め、全員無表情であった。

「お前ら糞の黒髪どもがどれだけ俺たち白人たちを虐げ、侵略し、踏みにじったと思ってんだ!歴史を勉強しろ、このゴミどもが!」

 そう言って、男は一番前に座っている女の顔を足で蹴った。

 女は無表情にしていたが、鼻からツーッと鼻血がたれた。

「ははは、ちょっと蹴られただけで鼻血か。お前ら、その勲章はどうせどこかから盗んできたものだろう。このペテン師の侵略者どもが!お前らは加害者なんだよ!反省しろ、ゴミども!」

 女たちは反論せず、無言のままだった。

「おうおう、反論しねえのか、反論しねえってことは罪を認めたってことだ。おーい、みんな、ここに汚らしい侵略者の犯罪集団がいるよー!」

 男は周囲を見回しながら大声で叫んだ。

 あまりの事にユリウスはそれを止めに入ろうとした。しかし、そのユリウスの肩をマサキががっしりと掴む。

 マサキを見ると、首をゆっくりと横に振っていた。

「なんでだよ!」

 ユリウスは小声で言った。しかし、マサキは無言のまま、また首を左右に振った。

「くそっ!」

 ユリウスは拳を握りしめた。

「どうしたら許してもらえるのか」

 鼻血をとめようともせず、最前列の女が言った。

「お前ら、これから毎日、俺の女として仕えろ。そしたら俺は許してやる。他の連中はお前らクズ虫をゆるしてくれるかどうかわからねえがな」

「それは無理だ、私達は全員、アテナの守護を受けることを目指している。だから処女は失えない」

「お前ら黒髪のクズどもなんてアテナは守護しねえよ、バーカ!」

「どうか許してほしい」

 女は土下座した。

「許すわけねえだろうが、歴史上悪いことばかりしてきたクズの末裔どもが!」

 叫びながら巨漢は何度も女の後頭部を足で蹴った。

 サエが体をワナワナと震わせて涙を流した。

 マサキがサエをぎゅっと抱きしめる。

 その時である。

ドウン!

 城の外で大きな爆発音がした。

「魔女だ-!」

「魔女が現れたぞー!」

 城兵たちの叫び声が聞こえる。

「魔女だと?ちょうどいい、また俺たちの勲章が増えちまうな」

 巨漢はうすら笑いをうかべた。

「いくぜ!魔女狩りだ!」

「おう!」

 巨漢とその仲間は部屋を出て行った。

 ユリウスもその後を追い、その後から先ほどの黒髪の女たちがついてきた。

 城の外に出ると、町娘風の服を着た魔女が目を光らせ、口から綠色の切りを吐いて周囲を取り囲んだ城兵を殺していた。

 魔女の周囲には大量の城兵の死体が転がっている。

「出たな化け物め!正義の鉄槌を食らうがいいわ!」

 巨漢が巨大な鉄槌を振り上げて魔女に迫る。

 魔女は口から綠色の霧を吐き出す。

「セイントミスト!」

 巨漢の男の後ろのヒーラーが呪文を唱えると綠色の霧は浄化して白い吐息となった。

「くたばれい!」

 巨漢はまさに今、魔女の脳天に鉄槌を振り下ろさんとした。

「きゃああああああああー!」

 魔女が悲鳴をあげる。

「むっ!」

 巨漢の足下から真っ黒な泥がうかびあがってくる。それは人間の形になって巨漢にまとわりついた。

「な、なんだ!」

「痛いよ~苦しいよ~」

「何だこれは!悪魔め!正義の鉄槌を食らえ!」

 巨漢は鉄槌を泥の上に振り下ろす。すると、泥は飛び散って数を増やす。飛び散った泥はまた人間の形になってはいずって巨漢の体に追いすがる。

「なんだ、なんだお前らは!」

「痛いよ~何で殺したの~苦しいよ~何も悪いことしてないのに~」

「だまれ!お前らは悪魔だ!反省しろ!お前らが先祖からずっとやってきた悪事を反省しろ!」

「くるしいよ~痛いよ~」

「うがああああああー」

 巨漢は鉄槌を振り回す。

ブチッ

 鈍い音がした。

「なんだと!」

 ヒーラーの首が飛び、そこから大量の血がふきだしている。その首をうしなった体は前のめりに倒れ、巨漢に這い寄ってくる

「痛いよ~、何で殺したの~」

「うわ~やめろー!」

 巨漢はひっくりかえる。

「かえろ~お家へかえろ~」

 泥の人型は巨漢をゆっくりと泥の中にひきずりこんでゆく。

「ぎゃあああああーやめろー!やめろー!」

 巨漢は鉄槌を振り回すが、振り回せば振り回すほど、泥型の数が増えてゆく。

「ぎゃああああーうがあああー俺は正義だぞ!正義なんだぞ!正義が負けるわけがあああ~!」

 巨漢は泥の中に飲み込まれていった。

「おのれ!ファイアーストーム!」

 後から駆けつけて来たウイザードが杖をかざし叫ぶ。

 魔女はそのウイザードを見る。、目が金色に光った。

「うがっ!」

 一瞬にしてウイザードは石化した。

「くそったれが!」

 仲間のアーチャーが魔女に矢を放つ。それが魔女の肩口に当たる。すると、その矢は赤と黒のまだらの蛇になった。それと同時にアーチャーのもっている弓から無数の紫色の蛭がわきだしてくきてアーチャーの手にむらがった。

「うがあああああー!」

 大量の蛭がアーチャーの体に群がる。アーチャーは見る間にミイラになった。

「おのれ!」

 クルセイダーが剣を抜いて魔女に斬りかかる。魔女は毒霧を吐く。クルセイダーはそれを素早く避ける。

「もらったあ!」

 クルセイダーは魔女の脳天に向けて剣をふりあげる。

ドスッッと鈍い音がした。

「な……なんで……」

 クルセイダーが倒れた。

 ミイラ化したアーチャーがクルセイダーの後頭部の首筋に矢を放ったのだ。

 魔女がユリウスたちの方にゆっくりと歩いてくる。

「おおい、ヤバイよ、マサキ、なんとかしろよ、石化とか防げるだろアテナの守護うけてんなら」

「ごめん、あれウソ」

「なんだってー!」

 ユリウスとサエが同時に叫んだ。ついでにクマの口パクもした。

「ふんがー!」

 ワンテンポ遅れてカルビンも叫んだ。

 その時、サエがその魔女を凝視してオロオロと前に進み出た。

「サエちゃん危ないよ、下がって!」

 ユリウスが叫ぶ。

「エ……エミリー先生!」

 サエが叫んだ。

「え!?」

 ユリウスは愕然とする。

 一瞬、魔女の動きが止まった。

「スキあり!」

 ユリウスの横をすり抜け、さっき鼻血をながしていた女が突進する。そして、クルセイダーが持っていた剣を拾い上げ魔女の首をなぎ払った。

 魔女の首が宙に舞う。

「エミリーせんせー!」

 サエは悲痛な叫び声をあげて魔女に駆け寄る。転がった首は穏やかなエミリー先生の顔だった。

 少し微笑しているようでもあった。周囲に綿のハンカチにくるんでいたクッキーがちらばっていた。

「せんせー!」

 サエは死体にすがって泣いた。

「なんてことだ。これが悪魔の技か、もしかしておじいちゃんも……」

 ユリウスは頭をかかえてその場に崩れ落ちた。



魔女は黒髪の女によって討伐された。

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