祖父の死
人間の勇者一行に魔界四天王の祖父を殺された水の精霊の主人公が魔界四天王の地位を目指す。
誇り高き水の精霊にして魔界の頂点、魔界四天王の一人。
そんな祖父はユリウスの誇りだった。いつも帰ってくるとユリウスをかわいがってくれる。
祖父がユリウスを肩車して魔界を歩くと、通りすがりの魔物たちが羨望のまなざしでユリウスたちを見る。それが気持ちよかった。
将学講の頃、ユリウスは無敵だった。小さい頃よくままごとをした幼なじみのフロラはユリウスがモンスターとの決闘でかすり傷を負うと、かならず、かいがいしく治療してくれた。
魔物一般講で一年の時から六年の時まですべて成績トップだったユリウスは特別推薦で、本来は入ることのできない魔道駐学講に入ることができた。それが許されたのは、全魔界でたった二名だけだった。それがユリウスとフロラだった。フロラはユリウスと同じ駐学講に入るために死にものぐるいで努力して二位の成績を取ったようだった。
世間に敵なし。名門一族の御曹司。将来魔界四天王の地位を約束されたエリート。そんな誇らしい運命に暗い影が落とされたのは駐学講の入学式当日だった。入学証書を渡された直後に担任の先生が内密にユリウスだけを呼び出した。特待生の指名でもあるのかと期待に胸をはじませて担任についていったユリウスに知らされた内容は、祖父の死だった。祖父が人間の勇者一団の不意打ちに遭い、殺されたというのだ。あの勇敢で最強の祖父が人間などに負けるはずがなかった。きっと、よほど卑怯な手を使われたに違いない。
ユリウスは怒りに肩をふるわせて泣いた。
勇者一行はその後、フロラの父である四天王第二の使徒に襲いかかったが、フロラの父はなんとか、すんでの所で勇者一行を皆殺しにしたとのことだった。しかし、受けた傷は深く、その後フロラの父は亡くなった。
魔界四天王第一の使徒の任にはユリウスの父が就任し、第二の使徒にはまだ駐学講一年生のフロラが就任した。
しかし、ユリウスの父は何度も来襲する人間の勇者一行の恐怖が耐え切れなくなり、辞表届けを出した。
すると使徒の第一席は空位となり、フロラがもろに勇者一行の防壁となる。フロラが耐えられるわけがないと思ったユリウスはすぐに魔界四天王第一席に立候補しようとしたが、それは両親が許さなかった。
未成年が魔界防衛軍に入隊するためには両親の承諾が必要なのだ。フロラの母親はそれを承諾した。
ユリウスの父も母も、まだ幼い我が子をそのような任に就かせることを許さなかった。
ユリウスは怒りと屈辱に身震いした。
「よお、ユリウス、おめえ魔界四天王に立候補したんだってな、お前みたいなクズがよ」
学講帰りに声をかけてきたのは一年上の魔人モローだった。真っ黒な筋骨隆々な体に牛の蹄の足。山羊の顔と角を持っている。
「やめてくださいよ、先輩。ボクは自分の使命をはたそうとしただけです」
「お前みたいなゴミが出しゃばっても勇者に瞬殺されるだけじゃねーか」
「それはどうですかね」
「じゃあ、やってみっか?」
「やめてください」
「怖えーのかよ」
「先輩を傷つけたくない」
「何!」
モローの目が血走ったかと思うとユリウスの前まで瞬間移動する。モローの腕の一振りでユリウスの頭が吹き飛んだ。
勇者を倒す前にまさかの魔人襲来。