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ミウの決意

「ここが宿屋です! この村を訪れる人はだいたいここで泊まっていきます。ここの料理は美味しいからラオさんも一度、食べてみてくださいね」


「うむ。ミウがそこまで絶賛するなら一度、食べてみようではないか」


「そしてここが村長さんの家です! 村長さーん、村長さーん! あれ? 村長さんは留守のようです。忙しい人ですからなかなか会えないんですよね……」


「村長殿は留守か……それは仕方のないことだな。村の長なる者、忙しいのは当然のことだ。会うのは次の機会でよかろう」



「そしてここが……」

「ちょ、ちょっと待ってくれミウ」

「……はい? どうしました?」



 いや、どうしましたか? じゃねーよ……。


「ちょっと私に付いてきてください!」と言われて無理やり外に連れて来させらたが、まさか村の案内を頼んでもいないのにするとは思わなかったぞ。

 

 俺はお前の家でのんびり過ごして早く身体を回復させたいのだ。それに思ったとおり、小さな村を案内するが、俺にとってはどうでもいいことだ。

 

 こんな所、今日までには消えてなくなっているのだからな。


 だから宿屋の料理なんてものは食べないし、村長にも顔を会わすことはない。

 


 以上、俺は帰るぞ。



「俺は少々疲れた。もう充分この村のことを知れたからそろそろ帰らぬか?」

 

 気だるい雰囲気を出して言う俺だが、


「待って下さい! 最後に……寄りたい所があるんですが、少しよろしいですか?」


 ミウのさっきまでの笑顔が一変し、真面目な表情で言ってきた。


 まあ、これが最後なら少しぐらいなら付き合ってもいいか。


「うむ。ではさっそく行くとしよう」


 俺は首を縦に振って了承した。




 ──村を出て少し歩くと、そこは土の上に十字架が建てられた所だった。

 

 ……なんだこれは? 何かが埋まっているのか?


 見た目ではよく分からないそれに対し、俺は首を傾げた。

 

 見れば一つや二つではなく、数が多い。二十……いやもっとあるな。



「……今日は、お母さんの命日なのです」

 


 首を傾げている俺の隣で、ミウは小さな声で呟くように言った。


 命日……つまりミウの母親が亡くなった日。

 なるほど、だいたい分かった。これらは全て墓標だな。


「母親はどうして亡くなったのだ?」


 知る必要はないが、とりあえず訊いてみることにした。


「お母さんは私が小さい頃、魔族に殺されました……。魔族はたまに村にやって来て、金貨とか色々奪って帰って行っちゃうんです。お母さんは家を守ろうとして必死に抵抗して、私の目の前で殺されたのです」


「そうか……」


 どう声を掛けたらいいか分からず、言葉を失う俺だが、俺があーだこーだと言う立場ではない。

 

 なぜなら俺は魔族だから。

 

 人間の敵であり、そしてミウの母親の命を奪った魔族だからこそ、俺は何も言えなかった。


「ミウよ。お前は魔族が憎いのか?」


 しかしこれだけは何故か訊きたかった。


 それはまだ人間のことを理解していない俺の好奇心だと思ったが、どうやらそれだけではないみたいだ。

 

 自分でもよく分からない感情が心のどこかで芽生えてしまったのかもしれない。


 俺の問いにミウは首を横に振った。


「いえ。確かに最初は魔族を憎みました。それは当然のことだと思います。でも、憎いから戦うではダメだと気付いたのです」


「どうしてだ?」


 俺には全く理解できない。


「憎しみは憎しみだけしか生みません。憎しみが戦を呼び、憎しみが戦火を広げるのです。それでは意味がありません」



「ではミウはなぜ旅に出る? 母親の仇討ちのためではないのか?」


 

 俺の問いにミウは真っ直ぐ俺を見詰める。今にも吸い込まれそうな黒い瞳が、俺をがっちり捉えていた。



「私と同じ思いをする人が増えないように、そしてお母さんが望んでいた平和のために、私は旅に出て魔族と戦います」



 はっきりとした口調でミウは言った。その黒い瞳には一切の曇りはなかった。

 

 つい先程まで、はしゃいで村を案内するミウとは別人のようだったのだ。


 ……これが人間か。


 憎いから戦うのではなく、自分と同じ思いをする人が増えないために戦う。


 つまり、まだ見ぬ誰かのために戦うようなものだ。

 俺にはそんなこと絶対にできない。

 

 人間は弱い生き物だが、憎しみに支配されず、誰かのために戦うということが人間の強さの源なのかもしれぬ。

 

 だから力と魔力が圧倒的に上回る魔族とほぼ互角に戦っていられるのだな。


 誰かのために戦う人間と、我が身我が種族のために戦う魔族とでは、まだ人間の方がマシだ。


魔族の俺が思うのもなんだがな。


「なぁ、ミウよ」


 ここで俺はふともう一つの疑問が生まれる。

 

「俺がその魔族だとしたら、ミウはどうする?」


「では訊きますが、ラオさんが本当に魔族なら、私を殺しますか?」


 俺が訊いているのに逆に訊き返された。

 まあいいだろう。


「俺が本当に魔族なら、何のためらいもなくミウを殺す。そしてこの村も全て消す」


「そうですか……。なら私は全力で抗います。お母さんがそうしていたように。ラオさんに勝てる気がしないけど、そんなの関係ないです」


 ふむ。どうやら人間であるミウ自身も相当強いようだ。


 華奢で弱々しい容姿をしているが、よくもブレずにここまで言えるな。少し見直したぞ。


「そうか……でも安心しろ。俺は魔族ではなく、ラ族だ。ラ族は人間を襲ったりなんかせんよ」


「フフッ。そんなことは分かっていますよ」


 さっきまでの真面目な表情が砕け、ニッコリ微笑むミウ。

 俺は魔族だと少しも疑われていないようだ。

 

 それはそれで少し問題だと思うのだが、俺にとっては都合が良い。


「さて、そろそろ帰りましょうか。もう薄暗くなって来ましたからね」


 ミウに言われて気が付くと、空は少し薄暗くなっていた。

 ペコリと墓標に向かってお辞儀をすると、ミウは踵を返して歩き出し、俺も後から続く。


「あ、あと副村長の家に行くのを忘れていました! あとあの人も、あの人の家にも!!」

「まだ案内を続けるのか!? 俺はもうクタクタだぞ!」

「せめて副村長の家だけでも!!」

「……う、うむ。仕方がない。行くとしよう」


 それから結局、副村長以外の家も案内したミウ。


 俺は自分の目的すっかり忘れ、ただただミウのどうでもいい村の家の紹介を聴くしかなかったのだっだ。

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