ミウの父親
さて、さっそく飯でもいただきに行くとするか。
人間が作った食い物をなど食したくないのだが、身体を回復させるにはまず腹ごしらえが必要である。
人間よ。貴様らが作った物を食べることで俺の身体が回復するなどこれっぽっちも考えていないだろう。
そして回復した暁には必ずやこの手で息の根を止めてやるぞ……フフフフフ。
え? 着替えはどうしたかって?
あんなバカな設定のために裸になるわけがなかろう!!
だから階段を降りてミウと目が合うと、
「あれれ? ラオさん着替えはしなかったのですか?」
わざとらしく首を傾げて訊いてきたので、
「む。確かにラ族は普段は裸で生活しているが、ミウの父とは初めて顔を合わすことになる。初対面の人には礼儀が必要であろう? だからこのままで良いのだ」
適当に理由をつけて説明すると、ミウは「本当にラオさんは礼儀正しいのですね!」とニコニコした顔で受け入れたので何も問題はなかった。
いや、少しは疑ってくれとは素直に思えず、なかなか複雑な気分だった。
「お父さん、この人がさっき言ってたラ族の王のラオさんです! ぱちぱちぱち〜」
なんかその紹介の仕方、かなり恥ずかしいぞ? あと盛り上げているのかどうか知らないが、自分で効果音を着けながら拍手するのやめろ。ったく、いちいち頭にくる奴だ……。
「ほほぅ……。この方がラ族の王のラオさんか。よろしくな!」
テーブルのすぐ隣にある調理場みたいな所から出てきたミウの父親。
ニッコリスマイルを浮かべて活気良く挨拶をした。
なかなかガタいが良い奴だ。
ここで仕留めるのはもったいないと少し思ったのだが、それよりもいちいちラ族の王とか言わなくていい、親子揃ってバカにしてるみたいですぐさま消してやりたい。
しかし、今ここで消すのはあまりにも無謀だ。
こいつらには聞きたいことがある。ここがどこなのか、もしこの家が村にある家の一つならこの村はどれぐらいの規模なのかなど、訊いておかねばならぬ。
俺がどこに飛ばされたのかを知り、ついでにここの戦力を見極め、可能ならこいつら人間をまとめて消す必要があるからな。
「うむ。いかにも、俺はラ族の王のラオだ。この度は救っていただいたことに感謝する」
だから回復するまで正体がバレないようにしないとな。
言いたくもない感謝の言葉も、いずれかは罵声でこいつらを罵っていることを祈る。
「ねぇ! 私が言った通り、ラオさんは礼儀正しいよね!」
「はははっ! ミウも少しはラオさんを見習わないとな!」
大きな口を広げて笑いながらそう言ったミウの父親を見て、ミウは頬を膨らませながら、
「お父さん! 私だってちゃんとしてるもん! そうだよね! ラオさん!」
なぜか俺に助け船を依頼するかのようにそう振ってきたミウ。
もちろん、魔族の俺がこんな人間に助け船など出すはずがないが、今はラ族として認識されている故、ここでミウを敵に回すわけにはいかない。
「うむ。ミウは礼儀正しくて良いと思うぞ」
天然でバカであるがなと心の中で言いつつ、ミウに助け船を出すことに成功した。
「ラオさんは私の味方なんですね! やっぱりラ族の王は器が違いますぅ」
だからラ族の王と言うな! それにお前の味方になった覚えはない!
心の中でしか言えないことが非常に残念でならない。
「さぁ、さぁ、飯の時間だぞ! ミウもエプロンを外して座れ! あ、ラオさんは遠慮せずどこでもいいので座ってくださいな」
「感謝する。ではここに座るとしよう」
古くて今にも壊れそうな木の椅子に座る俺、座り心地は最悪だ。
よく見ればテーブルも木で出来てやがる。
人間はこんなボロいので満足するのか? 俺はミラノドラゴンの鱗で出来たテーブルと椅子じゃないと落ち着かぬ。
「こんな所でわりぃね。もっといいテーブルとかが買えたらいいんだがなぁ」
「いや、これも悪くはない。俺好みだ」
しかしこれも設定のため、落ち着かないとか言ってられないのだ。
「ラオさん。今日はお父さん自慢の魚料理です。たくさん召し上がってくださいね」
テーブルにズラりと並べられた魚料理を見る俺。
これがミウの父親が自慢する魚料理だと? どれも身を焼いただけではないか!
魚といえば、ジャリスギョを蒸した料理しか俺は食わぬのだ。こんなどこでも獲れるような魚など反吐がでるわ!!
「確かにこれは旨い! 焼き加減もちょうど良いではないか!!」
クドいようだが、これも全ては設定のためだ。
「いやぁ、そんなに誉められたら恥ずかしいですぅ……」
クネクネしながら頬を赤らめる親子。
ちなみにいうと、俺は偽善だが父親の方を褒めたつもりだ。なぜミウも一緒になって喜んでいるのだ……。
自分が誉められたらつもりなのか、それとも親が誉められて嬉しいだけなのか。
どっちか分からない俺は、やはりまだまだ人間を理解できないようだ。
まぁ、さらさらするつもりなんてないんだがな。