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出会い

 ……どれぐらい気を失っていたのか、まず目が覚め俺の目に飛び込んだのは、



「あのぅ……? 大丈夫ですか?」



 女の顔だった。

 栗色のふわふわとした髪、そして丸いくりくりとした目が俺のことをジッと覗き込むように見ていた。

 


「ここは……どこだ?」



 状況をあまり理解できない俺はその女に尋ねる。


「ここは私の家です。あなたが倒れている所を私のお父さんが見つけてここまで運んできてくれたのですよ」


 女はにっこりと微笑みながら言ったが、これは一体どういうことだろうか?

 

 頭が上手く機能しない俺は、一旦女の顔を忘れるために目を閉じて今までのことを思い出す。



 ……魔王のバースデーケーキ、魔王の子ではないと疑われた俺、兄さんの裏切り、火だるまにされる俺、そして兄さんに救われた俺。



 ここまでは思い出せる。

 

 しかしここから先のことは全然思い出せない。なのでここがどこなのか、この女は何者なのか全く理解できない。

 

 あ、そういえば女がここは自分の家だと言っていたな。

 

 お父さんがここまで運んできてくれたのです? そのお父さんとやらは魔族か? いや魔族なら俺は殺されているはずだ……じゃあ魔族でなければ一体なんだ?


「おい。お前とお前のお父さんとやらは何者だ?」


 ここは直接本人に聞いた方が早いだろう。

 俺は目を開けて、不安そうにこちらを見ている女に尋ねた。


「何者と訊かれると返答に困るのですが……」

「じゃあ種族を答えろ」


 女はそれを聞いて、ああ〜そういうことね! といった感じに両手をポンっと合わせた。

 

 そしてニッコリ笑顔で俺に、



「私もお父さんも人間ですよ♪」



 と、告げた。


「……」


 そして再び頭が停止する俺。


「あのぅ? こんな事を訊くのは失礼だと思うので最初に謝っておきますね」


 ペコり。


「あなたも人間ですよね? だって角もないし羽もないし……」


「だ、誰が人間だゴラァ! 俺を貴様らのような下等な人間共と同じ扱いをするなぁぁぁぁぁ!!」 


 女の問いに俺の思考が回復し、俺はその場で立ち上がって叫ぶ。

 

 ……む? 今さらだが妙にフワフワした所だな。いや、それはどうでもいい。誇り貴き魔族である俺が、人間共と同じにされたことが腹正しくてたまらないのだ。


「ひぇ!? 何もそこまで怒らなくても良いじゃないですかぁ……」


 急に怒鳴った俺に対してビビったのか、女は目に涙を浮かべながら言った。


「う、うるさい! 俺はお前らのような下等な人間などではない!」

「じゃあ訊きますけどあなたは一体何者なんですか!? それにさっきから口が悪すぎます!!」


 こいつ、急に逆ギレか!? 泣くか怒るかどっちかにしてくれ。

 あとどさぐさに紛れて説教するな。


「俺か!? いいだろう! その小さな耳でしっかり聞け! 俺はま……」

「ま……?」


 女がきょとんと首を傾げる。俺は慌てて口を塞ぎ、喉まで出かかっていた言葉を飲み込む。


 ……あ、危ねぇ。もし俺がここで魔族だと口走ってみろ。



『魔族ですか! だからそんなに口が悪いのですね……え? 魔族? きゃぁぁ! お父さん、お父さん! この人魔族ですよ!! 私達の敵ですよ!!』



 なんてことになるのは当然だ。

 

 魔族と人間は互いに敵同士であり、今まで幾度も争ってきたのだ。

 

 ここで俺の正体が魔族だとバレると、人間共はすぐさま俺を捕らえて処刑するであろう。全快状態の俺なら逃げることは容易いが、どうにもまだ傷が癒えていない。


 だからここは適当に誤魔化して、回復したら速攻でこいつらを片付けてやろうではないか。


「……ま、ではない! ら……ラ族!だ」

「ラ族ですか! まるで裸の人がいっぱい居るような種族みたいですね……フフッ」


 クッ……この女、絶対バカにしているな? 下等な人間に笑われるとは一生の恥だ!

 

 だがなんとか上手く誤魔化せたようだ。さすがは俺の完璧な頭脳。人間を騙すなど造作もないことだ。

 

 後は適当に設定を作ってよりリアルにすれば完璧だな。


「そうだ。我が一族は代々伝わる作法により裸で生活をしてきたのだ。そしてこの俺はラ族の王である」


 適当すぎて自分でもアホらしいと思うが、これで素直に信じる奴も相当バカだと思うな。


「ラ族の王なんですね! ラ族の頂点に立つ者と会えるなんて光栄ですぅ!」


 ……どうやらこの女は本当にバカみたいだ。いやまあ、信じてもらわないと困るのだが、こうも人間を騙すのは容易いことなのか、それともこの女がバカなだけなのか、いまいち人間を理解できてない俺。


 ちなみに魔族に向かってこんなふざけた設定を出すと信じる者なんて絶対にいないだろう……多分。いや、少なくとも俺は信じない。

 

「あれ? でもラ族の王さんはなんで鎧なんかを着ているのですか?」


 ふと女は首を傾げながら俺に向かってそう尋ねた。

 

 確かに俺は儀式の時の鎧姿であり、さっき俺が言った設定とは矛盾していたのだ。

 

 くそう、こういう所はしっかり見てやがるな。バカなのかそうでないのかどっちなんだよ!



「こ、これはだな……。儀式の時には何か着ないとさすがに失礼だろ? 俺も本当は嫌なんだが、渋々これを着ているのだ!」



 と、バレバレな後付け設定を出す俺。

 だが女は、


「そうですか……ラ族さんは礼儀ただしいのですねぇ……」


 ぱぁとまるで喉に刺さった骨が抜けたかのようにスッキリした女の表情を見て、俺は思う。



 この女はただのバカだな、と。



 いや、天然なのか? それにしても初対面の奴をここまで信用しちゃまずいだろ。


 人間の敵である俺がこんなことを思うのもなんだが。


「ラ族の王さん。遅れましたが、私の名前はミウといいます。よろしくお願いしますね」


 ペコリと頭を下げて女は自己紹介をする。

 天然だが礼儀は正しいようだな。これから消す相手に名前を教るのはめんどくさいが、とりあえず礼儀は尽くすか。


「うむ。よろしくな、ミウよ。俺の名前はだな……」


 言い掛けた所で俺は少し考える。


 ここで俺の名前を言うと、もしかしたら魔族だとバレるかもしれない。

 

 一応、俺は魔王の王子だ。それなりに名前が広がっているはず。知っている人間にバレたらなかなか厄介だ。

 

 めんどくさいが名前も適当に偽名を使うとしよう。

 どうせこいつらを消すまでの間だけ使う偽名だしな。


「俺の名前はラオだ。俺のことを救ってくれたミウのお父さんに感謝する」

「そんな……お礼なんていいですよぅ。私はただここでラオさんの看病をしていただけですから」


 いや、君にお礼を言った訳じゃないよ?

 それに頬を赤らめてもじもじするな。なんか腹が立つ。

 

 よし、俺が回復した暁にはこの天然野郎の顔を真っ赤な血で染めてやる……。


「ラオさん。せっかくですからご飯でも召し上がってください。お父さんが下でご飯を用意しているはずですから」


「うむ。いただくとしよう」


「じゃあ、私は先に行って待ってますね。ラオさんも着替えができたら来てくださいね」


 ミウはそう言って部屋から出て行った。

 それにしても……着替えとはどういうことだ? 周りをみるが特に着替えが用意されている訳ではない。


「まさか!」


 俺は気付く、ミウの中では俺はラ族だということになっている。

 ということはだな、つまり着替えとは……裸になれというのか!?



「……ぐぐぐ、あの女め。絶対後で消し去ってやる」



 こんな設定にした自分を責めず、あくまで人間を責める俺はちょっと魔族として情けないかもしれない……。

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