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魔王のバースデーケーキ

「ギルト様、儀式の準備が整いました。我ら一同、玉座の間にてお待ちしております」


「分かった。すぐに向かう」


 俺に儀式の準備ができた事を伝えた使い魔は、静かに俺の部屋から去って行った。 

 

 ふぅ。と溜め息を吐く俺。

 

 ……いよいよ今日か。 

 あれからこの日をどれだけ待ちわびていたことだろう。

 魔王(父上)から魔王の後継者として認められたあの日から、俺はこの日をずっと楽しみにしていた。

 

 魔王とは魔族の頂点として君臨する者。

 下等な人間どもを皆殺しにするために、魔族を率いて戦い、その強大な力を思う存分に使うことができる。

 

 父上の……いや、魔王の後ろ姿を見て育った俺は、まさにその魔王になろうとしている。

 


 俺が憧れ続けてきた魔王に……。


 

 すぐさま身なりを整え、部屋を後にして儀式の場所となる玉座の間に向かう。

 

 ちなみに儀式とは、魔王の強大な魔力を受け継ぐのに必要であるらしく、魔王の魔力を全て詰め込んだ通称【魔王のバースデーケーキ】を食すのが儀式らしいのだ。


 この魔王のバースデーケーキを食すことができる条件は決められており、魔王の血を継ぐ者であり、尚且つ産まれてから二百年経った者でないと食すことができない。

 

 俺、ギルトは魔王の息子……王子であり正当な後継者。

 そしてなにより、今日は俺の二百歳の誕生日なのだ。


 

 玉座の間に続く長い廊下を急ぎ足で歩く。

 普段なら部下や使い魔とすれ違ったりするのだが、既に玉座の間に集まっているのか、姿はどこにも見当たらない。


 だが、


「よっ。ギルト」


 突然声を掛けられた俺は立ち止まる。

 ふと横を見ると、壁に寄りかかった兄のジリトが俺に向かって手をヒラヒラと振っていた。


「ジリト兄さん!」


 俺はすぐさま兄さんの元へと駆け寄り、兄さんはクスりと笑う。


「いよいよ今日だな……。緊張しているか?」

「いえ、全然まったく!」

「ははっ。汗でびっしょりな奴がそんなこと言えるのか?」


 兄さんの指摘を受け、俺は慌てて額の汗を手で拭う。どうやら相当汗をかいていたらしく、顔は汗でびっしょりだった。

 

 そんな姿を見て兄さんはまたクスりと笑った。


「とりあえず汗は拭いておけ、大事な儀式が汗で流れたら困るだろ?」

「は、はい! 申し訳ありません!」


 俺は兄さんの前でペコペコと頭を下げる。そんな俺の姿を見て、兄さんはスッと掌を前に出し、


「やめろ。魔王になる者が頭を下げるな。俺は今日からお前の部下になる男だ。そんな姿を見たら幻滅するぞ」


 少し怒気が篭った口調で言った。

 確かに兄さんの言うとおりだが、俺にはまだ解せない部分がある。


 兄さんは俺と同じ日に産まれた双子の兄、兄さんの方が早く産まれたから俺にとっては兄さんだ。

 だから今日、魔王の力を受け継ぐのは兄さんの方の筈だ。俺より頭が良くて強いし部下の信頼も厚い。

 魔王になりたい俺だが、別に兄さんが魔王になって兄さんの下で戦うことだってできる。もちろん異論はない。


 しかし兄さんは魔王になれなかった。

 理由は単純。


 兄さんは、魔族の力の源である魔力が俺より少しだけ劣っているのだ。


 たったそれだけの理由で兄さんは魔王になれず、兄さんより少しだけ魔力が優っている俺が魔王になることになった……。

 

 俺が魔王の後継者になることが決まった日、兄さんは笑って「おめでとう」と言った。

 冷静であまり感情を表に出さない優しい兄さんなこともあり、俺はその時、素直に喜んでしまった。


 今思えば、あの時兄さんはどんな感情だったんだろうか……?


「おい、ギルト」


 ポカッと兄さんに頭を叩かれたふと俺は我に返り、兄さんはやれやれといった感じで首を振る。


「ほら、いつまでここにいるんだ。早く行って来い」

「は、はい! ではまた後ほど」


 兄さんが頷くと、俺はまた廊下を歩き出す。

 ……後ほどか。次に会うときは立場が逆転しているんだよな。

 どんな話し方でどのように振る舞えばいいか全然分からないまま、俺は玉座の間に繋がる大きな扉の前に辿り着く。


 そして、その大きな扉をゆっくりと開けた──。  

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