料理。
あの後、ずっと何か考え事をしているような光と別れて一馬宅へと向かった。
「やっほー」
「……ルナか」
あれ、一馬がちょっと変。何というか……やつれてる?
「どしたの?」
「お前、朝、血吸い過ぎ。貧血だ」
「あっ、ごめん……大丈夫?」
「鉄分のサプリ飲んだから今は平気だ。……服、似合ってるな」
「本当っ!?」
やった♪
ここに来た目的が達成されちゃったね。
「ああ、お前の銀髪によく合ってる。光のコーデか?」
「うん、そうだよ。ま、僕に女物を選ぶセンスなんてないしね」
「まあそうだろうな」
うんうんと頷く一馬。
「で、そのあと光のお勧めっていうカフェにいってパフェ食べたんだけどさ、これがまた美味しくて」
「へえ、お前がそこまで言うとは珍しいな」
僕が甘党っていうのは、一馬はよく知ってる。なにせ、惣菜、冷凍食品、保存食以外の僕の食事を作ってくれるのは一馬だからね。僕の好みは把握しているはずだ。
……一馬のご飯、食べたいな。
「ねえ一馬……」
「なんだ」
「また料理してよ」
ちょっと、上目づかいでのおねだりというものをやってみる。男子はこれで堕ちる! なんてネットには書いてあったけど、実際はどうなんだろう。
「っ……。はあ、仕方ないな」
「やった。あれ食べたいな、豚の生姜焼き」
落ちました。
生姜焼きは一馬の得意料理だ。
「分かった、ちょっと待ってろ」
そう言って一階へと降りていく一馬。
料理ができるって、かっこいいな……。僕もできるようになった方が良いのかな。
そして、一馬に手作りの料理を……。
って、何を考えているんだ僕は!?
それはまだ早い……っていやいやそうじゃない。
なんで僕が、一馬に、料理を作らなきゃならないんだよ。
たしかに一馬は友達だし、僕の事情を知ってるし、そう言った意味では特別な存在と言える。
でも! 断じて!
僕はホモではないっ!
だから、僕が一馬を恋愛対象として見ることはないのだ。
ないったらないのだ、だからこの胸の動悸はまったく、これっぽちも一馬には関係のないことなのだ!
「……お前、何してんの?」
「……放っておいて」
気付いたら一馬が、湯気の立つ皿を片手に戻って来ていた。あぅ、顔が熱い……。
……最悪のタイミングだよ……。
「……まあいいや。ほれ、出来たぞ」
「ありがとっ」
キャベツの千切りを添えた出来立ての生姜焼きに、小振りのオニギリが二つ。痒いところに手が届いてるね。
「ん〜、美味しいっ! やっぱ料理は一馬だねっ」
満面の笑みでそう告げると、
「……おう」
鼻の頭を赤くして視線を逸らした。
……ふふ、照れてる照れてる。
でも、美味しい。一馬の血に匹敵するくらい美味しい。こんな料理を毎日食べられたらなあ〜。
……あ、もしかして、僕が一馬のところに嫁入りすれば!?
って何を考えているんだ僕は。これじゃさっきと同じだよ〜!
「……ルナ、大丈夫か? さっきから……」
「ほっといてよ……」
ただ妄想してるだけですから。
突っ込まれると余計に恥ずかしい……。
「……まあ大丈夫ならいいか」
そうです。それでいいのです。
「……ねえ一馬」
「なんだ」
「料理教えて」
「は?」
え、そこまで驚くこと?
確かに僕が料理、なんてイメージはないだろうけどさ……。
「突然どうした?」
「いや、ちょっとくらいはできた方が良いかなって」
やっぱり似合わないかな……。
「……別に、お前がやらなくても、言ってくれれば俺が作るぞ」
「それはプロポーズ?」
「なんでそうなる」
素気無くあしらわれてしまった。
でも、嬉しいね……えへへ。
「ありがと」
「……おう」
僕が満面の笑みでそう言うと、一馬は照れ臭そうに顔を背けた。