魔術師。
さて。
僕は今、写真部とPC部の部長さんたちと向かい合って座っている。
「じゃ、話を始めよっか」
「ああ、分かった」
「うん」
よしよし。中々厳粛な雰囲気が演出できたんじゃないかな。
「今日来てもらった理由だけど」
「分かってるさ」
「そう、なら問題ないね。つまりーー」
「「次に着てもらう衣装の話だろうっ!?」」
「違うよっ!」
なんでそうなるのさっ!?
「「ち、違うのか……?」」
「この世の終わりみたいな顔しないっ!」
せっかくシリアスに入れたと思ったのにぃ!
「こほん。話っていうのは、君たちが使ってた……
隠蔽魔術のことだよ。
心当たり……あるよね?」
僕の言葉に、部長さん二人は息を呑む。
……これはアタリだね。
「何故それを?」
「ルナちゃん、きみは……」
「ちゃん付けするなっ」
「「あ、はい」」
……やってしまった。
僕自ら、シリアスを壊してしまうとは……っ!?
一生の不覚っ!
「あのルナさん?」
「大丈夫か?」
「……気にしないで……。なんで、って話だっけ。それは僕も魔術師だからだよ」
この二人は魔族じゃない。彼らの臭いは人間だ。吸血姫たる僕の鼻を誤魔化せる相手なんていないんだよ。
部長さんたちの目的が分かるまでは、僕は人間ってことで通した方がいいって判断だ。
「……そうなのか。確か、ルナさんは海外に住んでいたんだよな」
「うん、そうだよ」
「魔術の流派は?」
「……それは、関係のあることかな?」
言えるわけないでしょうが。僕の魔術は吸血姫としてのものなんだから。
と思ったんだけど、二人は満足したように頷いて口を開いた。
「悪いな、試すようなことして。魔術師は己の術を明かさない。ルナさんは確かに、俺たちと同じ魔術師のようだ」
「気に障ったならごめんなさい。でも、すぐには信用できないって分かるよね?」
ま、そうだよね。僕もきみたちを警戒して、魔術師って嘘を吐いたわけだから。
だから、試したことは不問にしてあげる。
「まあ今回は、お仲間がこの学校にいるってことを確かめたかっただけだから、特に詮索もしない。……盗撮って立て前で、実際には何を警戒しているのか……とか、ね」
「「ッ!!」」
あーあー。
そんなに反応したら、僕の言うことが正しいって認めてるようなものだよ?
実際には鎌かけただけなのにねー。
「それじゃ、またねー」
これ以上いたら面倒なことになりそうだから、そろそろ退散~。
一馬の血が飲みたいな~♪
◇◆◇◆◇
「……なあ、どう思う?」
「そうだね……。とりあえず、敵意は感じなかったけど」
けど、何となくわかる。
水無月ルナ……あれは、手を出してはいけない相手だ。
魔力はほとんど感じなかった。
敵意も殺意も、感じなかった。
バスケをやっているところを見れば身体能力は確かに高いけど、それは一般人の……いや、人間の範疇にとどまる。ダンク決めれる女子を一般人とは言わん。
なのに。
なんだよ、あの悪寒は。
◇◆◇◆◇
「一馬、疲れたよ~」
「今回はなんだ?」
「なんかね、無駄にシリアスな会話をしてしまったんだよ」
簡単に、部長さんたちと話した内容を一馬に伝えた。
「へえ、魔術師ね。盗撮が見つかんないのはそのせいか」
納得顔の一馬。
「能力の無駄遣いだよねー」
「……いや、実際には何かを監視してるんだろ? なら普通じゃないか?」
「ううん、それは違うよ一馬」
僕はゆっくりと首を振って一馬の言葉を否定する。
「あれは逆だね。上……からの命令か自主的か知らないけど、『何かの監視』を言い訳に盗撮してるんだよ」
「お、おう。そうなのか?」
「そうだよっ! じゃなかったら、あんなに本気になったりしない! あれは、本気の目だったよ……オタクって怖い……」
ひしっ! と一馬に抱きついて泣き真似してみた。
「何やってんだ」
「酷い! か弱い女の子が怯えて涙してるのに、一馬はそれを突き放すんだ!」
「いや、か弱いって……ってかお前、自分のこと女って……」
しまったっ!?
「いや一馬、今のは違うんだよ!? 僕は女じゃないし、いや確かに体は女だけど心は男っていうか、あれそれってお鍋ってやつ!? ああでも心まで女になってなんかないし、でもお鍋なんて不本意な称号欲しくない……うわーん!」
「お、落ち着けルナっ」
「ってことで血をちょーだい」
……あれ一馬さん、なんで僕の頭を掴んでるのかな。
ってちょっと待って、イタイイタイっ!?
「さすがに調子に乗り過ぎじゃね? ルナぁ……」
「ごめんなさいやりすぎました」
ドサクサに紛れて胸を押し付けてたのがバレたかな。感謝の気持ちのつもりだったけど……、
なんか一馬が怖いよ……。
即座に土下座。
「罪には罰を、だよな?」
「ちょ、一馬待って……本気、じゃないよね?」
…………。
あ、この感じ、久しぶり。
「無言で近づいてくるのは怖いよ……っ!?」
一馬の中指が……目の前でゆっくりと折り畳まれる……っ!
これは、伝説の……デコピンって奴か!?
……はい、ショボいとか言っちゃダメ。食らってみれば分かるけど、一馬のデコピンは本当に痛いんだよっ。
「んーっ」
思わず目を閉じ、プルプルと震えながら衝撃を待つ。
……のに、何時になっても痛みは襲ってこなかった。
ゆっくりと目を開ける。
そこで見たのは……
「あ、そこはダメーーっ!?」
……。
…………。
………………。
……………………。
びくんびくん。
酷い目にあった……。
本気で、笑い死ぬかと思ったよ。