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月光のルナ  作者: 月乃 綾
第1章 人と魔族と精霊と(改稿前)
12/15

光と。

 ガタン、と音を立てて光が立ち上がり、


「小林さんの家を見てきます!」


 そう言って教室を飛び出した。


「……お、おう?」

「どうしたんだろ?」

「さあ……」


 残された生徒は困惑顔だ。

 そんな中僕は、


「僕も行きます!」


 光を追いかけることにした。

 正直、小林さんのことはどうでもいい。仲良かったわけじゃないし、わざわざ家まで行く必要があるとも思えないし。

 でも、光の態度は気になる。

 光はおそらく、魔族か魔術師、あるいはそれらに敵対する何かだ。少なくとも、『魔族』という存在を知る人間が一般人のはずはない。

 思い出されるのは土曜日の、喫茶店での会話。柏さんと光は何かを知っている風だった。




『やり口がそっくりだ』

『メンバーも減っちゃった』




 柏さんが言っていた台詞だ。

 そしてさっき、光は『小林さんがいない』という状況に対して過剰とも言える反応を見せた。


 僕の考えすぎかもしれない。邪推が過ぎるかもしれない。

 けれど、もし光に何かあったら。防げたのに防がず、知人が傷付くような事があれば。


「少なくとも、寝覚めは良くないよね、っと! 光!」

「ルナ!?」


 見えた光の背中に声をかけると、驚いたような表情で光がこちらを見る。


「何かあったの? なんか、今日の光変だよ?」

「……そうかな」


 声かけとしては、こんなところが無難かな。

 光は焦った表情を浮かべながら、それでも立ち止まって返事をしてくれた。


「別に、休むなんて誰だってある事じゃない? なんでそんなに慌ててるの?」

「……ルナはなんでここに?」


 無視ですかそうですか。ていうか、そんなに警戒しなくても……。

 まあ、打算ありありで行動してるのは確かだけどさ。

 とりあえず、この場は無知を装おう。


「なんでって、突然飛び出して行ったら気になるでしょ」

「そうだけど……わざわざ追ってこなくても」

「別にいいでしょ。で、どうしたの?」


「……あの子が連絡もなしに休むとか、有り得ない・・・・・のよ」


 光はそう断言した。


「あの子は、こんな状況で勝手なことする子じゃ……」

「こんな状況?」


 僕が問い返すと、光は「しまった」とつぶやき口を抑えた。やっぱり、何かが起こっているみたいだ。

 光も焦っているようだし、ここはサクッと斬りこもう。


「この前、喫茶店で柏さんと話してたことと関係あるの?」

「!」

「例えば、そう。僕の正体・・・・とか」


 そう言って、僕は魔力を練った。

 何故かみんな、僕の魔力を感知できない。スキルを発動させた僕にははっきりと分かる……光の中に内包される、光属性の魔力が。

 つまり光は、こちら側の存在だということだ。


「……魔族」

「大正解だよ」


 陽炎のように立ち上る魔力に当てられ、顔色を悪くする光。その表情には、はっきりと、僕に対する恐怖が刻まれていた。

 一歩光に向けて足を踏み出し、ニコリと笑う。


「光はなんで、それを知っていたのかな?」


「ルナ、あなたは……何者なの?」


「え?」


 一瞬魔力の制御が緩み、放たれた膨大な力の波動に光はさらに顔を引きつらせる。が、視線は僕の顔に固定されたまま動かない。


「あなたは、一馬くんの幼馴染だと言っていたわよね。でも、私の記憶にある彼の幼馴染は、男だった・・・・。ルナじゃない」


 その言葉に衝撃を受ける。まさか、光は……桂のことを覚えている?


「そして……名前は覚えていないけど、彼は確かに人間だった・・・・・


「!」


「その男子生徒が消え、代わりにあなたが彼のポジションに入り込んだ。……そもそも、一馬くんの幼馴染なのに何故転校してきたの? 一体どこから? 幼馴染というからにはずっと近くにいたはずでしょう。何故誰も、あなたのように目立つ容姿の人を覚えてないの? 一馬くんの幼馴染なら、同じクラスだったはずなのに」


 今の状況の矛盾点か挙げられていく。


「何故誰も、この状況を疑問に思わないの?」


 そう、それが最大の矛盾点。ちょっと考えればすぐわかる、なのに誰も踏み込まない。

 何故?

 言いたいことを言い終えた、そんな様子で、緊張の面持ちで僕を見る光。


 でも……

 それを一番知りたいのは、僕だ。


 湧き上がる気持ちを必死で飲み下し、感情を消した声で告げる。


「質問しているのは僕だ……。答えて。光は一体何者なの・・・・・・・・?」


 そう。

 ここまでの推論を並べられる、それこそが証拠。僕の中で、推論が確信に変わる。

 光は、人間ではない。


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