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一話目

もう三十分は経っただろうか。

演歌歌手の優雅な歌声に魅了され、騒ぐ中年の女性たち。

四十はあるであろう屋台の前で満面の笑みを浮かべている十歳にも満たない小さな子供。

新品、着付けを自分でした、等と言い合い、誇らしげに浴衣を披露する若い女性・・・。

各自が様々な『夏祭り』を精一杯満喫している中、少女ははぐれた友人を探して彷徨いていた。

「・・・ん~っ、どこ行った~っ!」

いくら呟いたところで見つかる筈も無く、焦りと苛立ちばかりが身体を駆り立てる。

少女の名は(みなみ) 明里(あかり)と言い、小学生最後の年を送っている十二歳だ。

茶色にも見える黒髪。前髪は一直線にカットしている、いわゆる『ぱっつん』というものだ。

後ろ髪は高い位置で一つに結んでいた。肩にかかるか、かからないかのギリギリ程度の長さだ。

「・・・な~んか、やな予感すんだ」

誰に言うというわけでも無く、明里は独り呟いた。

昔から嫌な予感だけは当たる明里。

今回もそうならいけない、と思った明里は、急いではぐれた三人を捜すことにした。

だが、その“予感”は早々に当たることとなった。

<緊急特別警報 魔獣が現れました>

聞き慣れない、恐怖心を煽るような音と共に警報は流れた。

親等から誰しも一度は聞いたことのある『魔獣』という存在。

通常の、地球にある兵器では太刀打ち出来ない相手。

そう言葉では聞いていても、実際に見るのとは大違いだった。

「・・・・やっぱりっ・・・」

あたしって、呪いでもかかってんのかな・・・。

恐怖心で震える身体を誤魔化すようにそう言うと、明里は当てもなく魔獣を避けるように走った。

だが「死にたくない」という気持ちは他人も同じこと。

見つからない友達を案ずる暇もなく逃げる明里を押し退け、大勢の人たちは我先にと必死に逃げる。

まるで津波のようなその光景。

何人もの人が足を取られて、魔獣の餌食になっていく。

悲鳴や怒号、血飛沫の飛び交う混沌。

「ぁぐっ・・・・!?」

しまった、明里はそう思った。

後ろから来た誰かに押され、明里は足を滑らせてしまったのだ。

「・・・逃げ・・・なきゃっ」

明里が立ち上がろうとすると、右足に激痛が走った。

「・・・・痛っ!?」

ふと見ると、魔獣が黒い霧を浴びせかけている。

「これって・・・?」

明里が混乱している間、霧は身体じゅうを覆ってしまった。

どうしても吸い込んでしまい、酷く咳が出る。

身体中を侵食していくような感覚が明里を襲う。

そんな状態になったのを確認すると、魔獣は明里のほうへ向かってきた。

嬉しそうに、大口を開けて。

(これッて・・あたシが?モう死ヌ・・・?)

解らない。理解できない。

余りにも現実味がないその現実は、まだ幼い明里には理解しきれなかった。

「・・・・ひぃっ!?」

唯一『理解』と言うに相応しいのは、“危ない”ということだけ。

やだ。死にたくない。

これはきっと夢。怖いだけの嘘っぱちなんだ。

でも、痛みは感じる。・・・本当のこと?

思考は既に停止し、混乱ばかりが増殖していく頭。

明里が目を瞑ったとき。

「・・・みらくる☆ぼんば~っ!」

一つの高い少女の声と共に、爆発音と魔獣たちの悲鳴の二重奏が響く。

「んぐぅ・・・・っ、ふぇっ・・・?」

怯えきっていても、現状が気になる一心で目を開けた明里。

其処には、大きな銃を手にした少女が立っていた。

黒みがかった、深緑色の髪。明里よりもずっと小さい身長。

そして、露出の多い上半身と長いスカート。

格好からして、『普通の人』には到底思えなかった。

「よいしょっと・・・」

少女はまだ地面に這いつくばっている明里のほうに歩いてきた。

途中指を鳴らすと、着ていた服が光を帯びて変化した。

変化、というより元の衣服に戻った、という感じであったが。

「きみきみ、だいじょ~ぶなのっ?」

妙に馴れ馴れしい口調で話しかけてくる少女。

「あっ、あんがと・・・」

未だに夢だと疑いの晴れていない明里は、戸惑い気味に礼を言った。

「ん~、どーいたしましてっ。あっ、ボクは小鳥遊(たかなし)千冬(ちふゆ)。キミは~?」

「あたしは南 明里・・・。げほっ・・」

(・・・魔食ノ霧をくらってる・・・?)

千冬と名乗った少女は明里を見てそう思った。

(でも、それならもう死んでるハズ・・・)

「まさかっ」

千冬は頭に浮かんだ“ある事”を、知るはずもない明里に聞いた。

「魔法、使えるの?」

「・・・・魔法?」

「そっ、魔法。ボクとおんなじような。」

「魔法なんてあんの?」

「え? キミ知んないの? 良くTVでもやってるよ 」

「・・・ん? やってないよ、そんなの」

「・・・・・えっ? えええええええええっ!」

千冬は大袈裟に見える程驚いた。

「じゃあ、いきなりワープしちゃったのも?もしかしてここは・・・」

呆然としている明里をよそに、千冬は呟いた。

「過去世界?」

明里にはどうしてもそんな結論に達した千冬の思考が理解できない。

「・・・今は2072年だけど」

「やっぱりだねぇ~っ、今より1000年も昔だ。ボクって時をかけてるわけか~、ふふふ~ん」

「驚かないの?やっぱり嘘でしょ・・・」

「どうりでみんな昔みたいなダサい服着てるわけだね」

千冬はそう言うなり、明里に言った。

「ねっ、そこの・・・・あかりん?ちょっと道案内してよ」

「一応あたしは怪我人だぞ?ちょっとで済む話じゃ・・・」

「も~、ケガなら治してあげるから~。フューチャーなガールのボクがネっ♪」

千冬は指を鳴らした。

「ひゃっ! ・・・・あれ?」

光の渦に包まれた足は、いつの間にか『激痛』の姿を消していた。

「ふふん、これでボクのチカラを信じてもらえたでしょっ」

「う~ん、疑ってるとこもあるけど・・・」

「よし、まずはおいしいモノから!」

「食べ物屋? あたしの奢りで?」

「ばあちゃまがおいしいって言ってたんだっ」

強引な千冬に、明里は数時間付き合わされるのだった。


それから八ヶ月。

桜の咲き誇る校門には、多くの歓声が沸き上がっていた。

ここは小・中・高、更に幼稚舎まである名門一貫校。

国内・外ともに高い知名度を誇るその名は、『私立結城女子学院(しりつゆうきじょしがくいん)』と言った。

「うっは~、あたしったら凄い!!」

そんな学院に似合わない、頭の悪そうな声が聞こえた。

「馬鹿なのに名門に入ったし、フューチャリングなガールに会っちゃうし・・・」

「よんだ?あっかり~ん♪」

何処からか独りごとを聞いていたらしい千冬が、明里の顔を覗きこんだ。

「はわわわっ!? 何でこんなとこいるのっ」

「ふふん、フューチャーなガールは知能指数も高いんだよっ」

「・・・一応ここ、私立の結城女子だよ?」

「ボクをイタイ子扱いはやめてよっ」

「イタイじゃん。魔法とか」

「あああ~もうっ!!過去族は話がつうじないよっ。いこいこ」

まただ。明里は思った。

この前といい、千冬は強引だ。

(まるで、何かを誤魔化そうとしてるみたいに・・・)

そう直感で明里は感じたが、絡まってゆく思考に自身の限界を感じ、考えを停止させた。

何げ無い日常。

学院の入学式の感想と言えば、珍しく院長さんの話が短かった事以外残らなかった。



「あっかり~んっ!こっちこっち!」

入学から一週間ほど経ったある日。

明里は千冬の要望で、最近できたと言う公園に居た。

“あのまま”の服では怪しまれると言うので、適当に買ったワンピースを着て手を振っている千冬。

ファンシーな色がその二次元風の顔と上手くマッチして、中々に似合っている。

「う~ん、良いチョイス」

「へ? ・・・・服?」

千冬は一瞬何か分からなかったようだが、明里の視線を追い何の話かを理解した。

「ああ、似合ってんな~と思って」

だが、そう言ったと同時か少し遅いかで、警報がなった。

「・・・ッ!?」

「魔獣・・・? 倒さなきゃっ」

千冬は右足前にあるポーチを探ると、何やら小さなアクセサリのような宝石を取り出した。

「へ~んしんっ♪」

くるりと可愛らしく千冬が一回転してそう言うと、辺りに一瞬激しい光が散った。

「えいっとね」

宙を舞っていた身体を地面に着かせると、千冬は手を伸ばした。

光の塊が走る千冬の手に納められていき、最終的にそれは銃の形へ変化する。

「ボクの魔法(まほー)でっ!」

銃を放つ時だけ力の入る声。

「ぶっとんじゃえ~っ!!」

千冬は先程の応用で、大きな大砲を作りだした。

「ばぁ~んっ!」

爆発音が響き渡り、辺りの魔獣は砕け散った。

それと同時に千冬の格好も元に戻り、千冬は明里の手を引いて逃げた。

「逃げるよっ!もう力がないっ・・・」

「・・・ッ! ・・・後ろッ!」

千冬が振り返るのと、魔獣が襲いかかってくるのはほぼ同時だった。

「ぁっ・・・!」

すぱ、と聞こえた斬撃の音に、千冬は目を開けた。

「・・・!」

「・・・・南 明里。貴女を連行させてもらいます」

此方へ歩きながら変身を解除する少女。

「ねえねえ、ボクもついてって良い?」

「部外者は立ち入り禁止よ、それに私に決定権はないの。貴女に素質でも無い限りね」

「・・・アンタは?」

「私は金城(きんじょう) 詩音(しおん)。南さん、貴女と同じように」

「・・・同じように?」

「魔獣に抗える力を持った適合者。」

「魔獣に・・・・?」

冷たく、感情を捨てたかのような詩音の声。

いきなり適合者などと言われた明里には、状況が理解できていなかった。

「・・・なあ!魔獣を倒せるのは千冬のほうで・・・」

「・・・貴女もなの、小鳥遊さん。」

機械的な目を向けられても、千冬はぶれずに笑顔のままだ。

「うんうん!ほら、しょーこにね・・・」

千冬が緑に煌めく宝石を見せる。

「・・・良いわ、貴女も同行しなさい」

「え~、やだな・・・」

「これは国家機関からの命令よ、聞けないなど言っても無理矢理連れていくわ」

「んなら、行くしかねえのか・・・」

妙に見下したような態度に少しの怒りを募らせながら、二人は詩音に渋々着いていった。


「あははは~っ、古代で古代の技術が見えるなんて」

「・・・古代で?」

「うん、ここって昔じゃんっ」

「・・・・・昔? 頭でも打ったの」

「フューチャー☆ガールのボクにバカ宣言をするとは勇気があるネ~っ」

「・・・・・」

普段見ないような、とてつもなく深い地下へ繋がるエレベーター。

近所で一番大きいシェルターの奥へ入った所に、それはあった。

エレベーターの近所には大きな水族館、そして二人の通う結城学院。

そんな大きな建物三つの地下にある研究所、という事以外は、

研究所について二人は何も知らされていなかった。

「着いたわ、降りなさい」

命令調で言う詩音に千冬が腹をたてたらしく、何か文句を言っていたが詩音には全く相手にされていない。

「・・・女史、連れてきました」

「あらま、思ったより早かったのね」

「・・・へ? どういうこったよ」

「説明してないの、詩音ちゃん。」

「横の彼女に手こずってしまって・・・。すいません」

「もう、謝ることじゃないわよ」

「あのー・・・用件って何なんすか」

しびれを切らした明里が聞いた。

「そうそう、アナタ適合してるっぽいのよ。」

「・・・へ? 適合・・・」

「そゆこと。んじゃ、はいこれ。」

女史と呼ばれた人物は、明里に千冬らの物と同じような桃色の宝石を渡した。

「あのー、これは」

「えーと、取り合えずは変身方法から。まずそれを投げたりして、それで適合してたら・・・」

その時、魔獣の訪れを知らせる警報が鳴った。

「あっ・・・」

「もう説明は良いわ、とにかく三人で行ってらっしゃい!」

女史に背中を押され、半ば強引に三人は魔獣の出現場所に走った。

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