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魔法使いとコーヒーを  作者: 宇部松清
第2章 いだいなる魔法使いの お嫁さんさがし
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1

 いだいなるまほうつかいは めのみえないむすめと であいました 


 むすめは めがみえなかったので いだいなるまほうつかいのことが ちっとも こわくありませんでした


『あなた まほうつかいと いったわよね それなら あたしのこのめも なおせるかしら』

 むすめは うみのちかくで そだったので もういちど うみがみたかったのです


『ぼくは めをなおすことは できないけれど あたらしくつくるのなら かんたんさ』

 ざいりょうさえあれば ものをつくることは だいとくいなのです


『あたし いまはおかねがないけれど およめさんになったら たくさん はたらくわ あたらしい めのおかねは それでいいかしら』

 むすめは、いいました


『おかね? そんなものは いらないよ きみが ぼくのそばに いてくれるのなら』

 いだいなるまほうつかいは いつもひとりぼっちでした 


 だから かぞくが ほしかったのです


『でも どうやってつくるの? ヘビや ネズミのめを つかうんじゃ ないでしょうね』


『だいじょうぶ ぼくのめを つかうから』


 そういうと いだいなるまほうつかいは 

 むすめのまぶたに みぎてを

 じぶんのまぶたに ひだりてを そっと そえました


『はい もう いいかな めを あけてごらん』


 むすめは おそるおそる めをあけました


 すると どうでしょう


 とおくのやまの そのてまえ ひっそりとさいている コスモスの はなびら いちまいいちまいまで よーくみえるのでした


『とても よくみえるわ ありがとう でも あなたは だいじょうぶなの?』

むすめのために じぶんのめを ざいりょうにしたのです


 いだいなるまほうつかいのめは みえなくなってしまったのでしょうか


 いいえ そんなことは ありません


『だいじょうぶ ぼくのめも ちゃんとみえているよ いままでが みえすぎたのさ

 これからは きみと おなじけしきを みることにするよ』


 むすめは はじめて いだいなるまほうつかいのすがたを みました


 そこには とても おおきな おおきな ヒノキのきが ありました


 よくみると それは いだいなるまほうつかいでした


 いだいなるまほうつかいは きまった かたちが ありません


 たまに ヒノキのたいぼくに なり


 たまに タンポポのわたげに なり


 たまに たきをながれるみずに なりました


 でも これからは むすめとけっこんし かていを もつのです


 だから むすめが こわがらないように にんげんのすがたで いることにしました


『ぼくのこと こわくないかな』


『こわくないわ あなたが どんなすがたでも おなじけしきを みているんでしょう?』



 祥太朗は、ぱたんと絵本を閉じた。

 なんだよ、父さん、かっこよすぎじゃね? 出会ってすぐの女のために、ぽんと自分の目を犠牲にしちゃうのかよ。しかもなんか台詞がいちいち気障だな。あ、でも、これは母さんの補整が入ってるのか。ていうか、父さんの姿……決まった形がないってマジかよ。てことはいまも、何かの一部になってるってことか? 魔法の練習をすれば、それを見破れるってことなのかな。

 おい、父さん、いまも近くにいんのかよ。おい、ちょっとでいいから顔出してくれよ。あっでもできれば人間の姿で! 認めたくないけど、俺ちょっとビビりっぽいからさ。なぁ、おい、父さん! 頼むよ!

 祥太朗は近くにいるかもしれない父親に向かって念を飛ばした。漫画とかなら、こういうので『息子よ……』何つって出てきてくれるんだろ? それを期待して、自室の中を行ったり来たりしながら父親に念を飛ばし続ける。

 しかし、三十分ほど頑張ってみたが、何も反応がないので、だんだんばかばかしく感じてきた。

「俺、なーにやってんだろ」

 ベッドの上に大の字に転がった。天井に備え付けられたシーリングライトの光が眩しい。

 右手で光を遮ろうと顔の前に移動させると、第一関節のみだったが、指先が少し透けているのに気付いた。指って光が通るんだったかな。そう思って、左手で右手の指先を握ってみた。

「あれ?」

 今度は右手で左手の指先を握ってみる。おいおいマジかよ。こういう感じなのか。

 右手の指先、第一関節だけ、妙にスカスカと柔らかくなっている。

――そう、まるで、水の中で乾いたスポンジを握ったような。

「俺、指先だけ魔法使いになったのか?」

 この指は握るとスポンジだが、機能面や強度等は変わらないらしい。でも、手を繋いだりしたらやっぱりばれちゃうのかな。そう思って、未だ繋いだことのない千鶴の白い手を想像した。


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