表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いとコーヒーを  作者: 宇部松清
第5章 いだいなる魔法使い 海の結婚式
15/34

2

 いつもならリビングに入り、モニターで応対してから戸を開けるのだが、どうせすぐそこは玄関だ。念のため、ドアスコープを覗く。そこには、制服姿の千鶴がいた。

「え?千鶴?」意外な来客に思わず声が出た。

「あれー?祥太朗、そこにいるのー?ちょっと開けてよー」

「ま、待って、いま開けるから」

「祥ちゃん、お客さん誰ー?」リビングの方からは佳菜子の声がする。

「俺の友達!お茶とか俺やるから、母さんは出てくんなよ」そう言いながら戸を開ける。

 面倒なことになるから、あいさつとかいらないからな。そう言う前に「お邪魔しまーす」と明朗快活な声が玄関に響いた。こんな『いかにも女子』な声を聞いて、佳菜子が黙っていられるはずがない。

「ちょっとー祥ちゃん、お友達って女の子じゃなーい!ダメダメ、お部屋に通す前にリビングリビング!一緒にお茶しましょうよーう!」

 ……やっぱりこうなるよな。

「えーっ?いいんですかぁ?やったぁ。おばさんとお話してみたかったんだ、あたし」

 千鶴はやけにノリノリだし。祥太朗は腹をくくった。

 リビングに入ると客用のコーヒーカップがすでに用意されていた。何とも周到なことで。こういう時は本当にテキパキしてるんだよな。

 上座に通され、千鶴はやや恐縮していた。しかしその態度もまた佳菜子の琴線に触れたらしい。「今どきの子なのに!」としきりに感心していた。

 リビングではもっぱら女子トークに花が咲いていた。

 祥太朗の仕事といえば、コーヒーのおかわりを注いだり、お菓子の補充をすることくらいで、あれ?千鶴って母さんの客だったかなと錯覚を起こすほどだった。

 でも、千鶴も母さんも楽しそうだ。特に母さんは女の子と会話をする機会なんてほとんどないしな。俺がもし女だったら、こうやってお茶したりしてたんだろうか。……いや、最近はよくお茶してるよな、俺達。んー、じゃあ結果オーライなのかな?

 チョコレート菓子の個包装を破ろうとしたポーズのまま固まっている祥太朗を、佳菜子と千鶴が不思議そうに見つめている。祥太朗はその視線に気付いた「なんだよ、2人して」

「なんだよじゃないわよう。最近ぼーっとし過ぎなのよ、この子」

「そうなんですよ!学校でもいっつもこんな感じなんですよ!」

 とうとう徒党を組まれたようだ。父さん、助けてくれよ、2対1だぜ、分が悪いよな。

「いいだろ、いろいろ考えることがあんだよ」

 そう言って、チョコレート菓子を口に放り込む。

「考え事って……。寝不足なのもそのせい?こないだも倒れたばっかだし、ちゃんと休まないと駄目だよ」千鶴が心配そうな顔を向ける。

「千鶴ちゃん、優しいわねー。いい子だわー。ウチにお嫁に来ない?」

「えっ?いや、あたしたちまだそういう関係じゃ……」千鶴は顔を真っ赤にして否定する。

 まだそういう関係じゃない。『まだ』ってのは、ちょっと期待していいんだろうか。

「だーいじょうぶよ。あたしもそんな感じだったしー」……やばい。

「そ、そうだ、千鶴!お前こないだ『いだいなる魔法使い』の続き読みたいって言ってただろ?俺の部屋にあるからさ、読まね?行こう!」

 そう言って、強引に千鶴の手を取った。

 あのまま放置したら、父さんがどうとか魔法使いがどうとか絶対話し出すぞ、あれは。

 よかった、俺の部屋に段ボール運んでおいて。

「ちょっと、祥太朗!おばさん、すみません。ごちそうさまでした」

「あらら、もう行っちゃうのね。またお茶しましょーね、千鶴ちゃん」

 佳菜子は右手をひらひらと振った。

 リビングを出て、玄関を通る。階段を上る手前で手を離す。

「ごめんな、なんか。うるさい母親で」

「そんなことないよ、面白いお母さんだね。間近で見るとやっぱり若くてきれいだし。ね、祥太朗はお母さん似なんじゃない?」「顔はな」

 とんとんと階段を上る。

そういえば、さっき千鶴の手を取ったのは右手じゃなかったか。ばれてないか?大丈夫かな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ