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『いだいなる魔法使いシリーズ③ いだいなる魔法使い 海の結婚式』
いだいなる魔法使いは お嫁さんを もらいました
お嫁さんの瞳は いだいなる魔法使いからの プレゼント
いつも キラキラと 輝いて います
『あなたの目で見ると 世界って とても きれいね』
お嫁さんは 言いました
『君がうれしいと ぼくも うれしいよ 同じ景色を 見ているからかな』
いだいなる魔法使いは 言いました
そよそよと 風に乗って 海の香りが 届きました
『海が 見たいわ』
お嫁さんは 言いました
『いいよ 本物の海と 偽物の海と 借り物の海 どれがいいかな』
海の香りを そぅっと つかまえて いだいなる魔法使いは 言いました
『それなら 本物の海 ここから 遠いのかしら』
お嫁さんは言いました
『遠くても 大丈夫 ぼくが 連れて行くよ』
いだいなる魔法使いは 空気をたくさんたくさん集めて 透明な舟を作りました
お嫁さんの手を 優しく引いて 舟の上に 乗せました
『ぼくが 風になって 運ぶからね 身を乗り出して 落ちないように 気をつけて』
ひゅうう ひゅうううん
ぴゅうう ぴゅうううん
草原を こえて 山を こえて
いだいなる魔法使いは 木々に 草花に 雲に あいさつをしながら お嫁さんを 運びました
ざざ ざざーん ざざ ざざーん
波の音が 聞こえてきました 海に 着いたのです
お嫁さんを乗せた 空気の舟は ゆっくりと 砂浜に おりました
いだいなる魔法使いは また 人間のかたちになって お嫁さんの手を 優しく 引きました
『海だよ 君と見る はじめての 海だ』
いだいなる魔法使いは 言いました
『海ね あなたと見る はじめての 海だわ』
お嫁さんは 言いました
『ここで 結婚式を あげようか』
いだいなる魔法使いは しゃがんで 砂浜を さらさらと なでました
すると どうでしょう
またたく間に りっぱな お城が できました
『すてきなドレスがなくて ごめんね』
いだいなる魔法使いは 言いました
女の子の お洋服は ちょっぴり 苦手なのです
『いいのよ これだけで もう じゅうぶん すてきだわ』
お嫁さんは 笑いました
わかる。わかるよ父さん。女の服ってわっかんねぇよな。こっちが良いと思う服と、向こうがいいと思う服ってなーんか違うんだよな。俺なんか、ピンクで、ちょっと花柄だったりして、ひらひらーっとしてれば全部可愛く見えちゃうんだけどさー。って、そうじゃねぇか。ていうか相変わらず、今回も気障だぜ、父さん。空気の舟かぁ、乗ってみてぇな、俺も。あ、でも底もスケスケなんだよな。やっぱ怖いかも。そう考えると母さんって結構度胸あるよな。これも舞台はやっぱり東北なのかな。海って太平洋?それとも日本海?この城も、シンデレラ城みたいなの描いてあるけど、実際は熊本城みたいなやつだったりして。
などと考えて、祥太朗は少し笑った。
あれから、何度かコップの水を試してみたが、やはり量は増えることなく、ただ塩味がつくのみだった。もちろん、使った分の塩分は小まめに補給するように心がけた。
しかし、この塩分が自分の体内にあるものだとすると、水の量が増えるというのも、もしかして体内の水分を使うのではないだろうか。人の身体の60%は水分だっていうけど、町中が水浸しになるくらいまで、って、父さんたぷたぷし過ぎじゃね?それとも、魔法使いって身体の構造がやっぱり違うのかな。
でも、たしか海とか川の水も借りてこれるんだよな。わざわざそこから引っ張ってきたとか?でも、コップの水をかき混ぜただけだったよな。どっかから持ってきたなんて描写はなかったぞ。
考えても考えてもわかりそうでわからない。
もう何度目かはわからないが、もう一度コップの中に指先を入れる。頼むよ。お願いします。すぐに水分補給するから、ちょっとだけならいいから、俺の水分使っていいからさ、増えてくれよ、いや、増えてください、お願いしますって。
目を瞑り、祈るような思いで水をかき混ぜる。かき混ぜる。かき混ぜ……。あれ?
「ちょちょちょ、マジかよ!」
いつも通り、やや控えめに入れたコップの水が、あと少しで溢れてしまいそうなくらいになっている。思わず指先を引き抜く。慌てて抜いたため、布団に少し飛沫が飛んだ。
「俺の布団も受難だな。いやいやそんなことより!」
増えた……よな。俺こんなに汲んで来てねぇし。でもなんで成功したんだ?ていうか、水分補給しないと!
祥太朗は増えたばかりのコップの水を一息に飲んだ。
「やべっ、せっかくの証拠を!ま、まぁ、また増やせばいいか……。まず落ち着いて考えるんだ」
いままでと何が違ったんだろう。左手でコップを持って右手でかき混ぜる。これはいつもと変わらない。目は……瞑ったけど、これまでもちょいちょい瞑ってたよな。あー、ちょっと指示が具体的だったかな。これか?
「よ、よし……。これでいってみよう」
もう一度試してみようとコップに目を落とし、つい先ほど飲み干してしまっていたことに気付いた。
はやる気持ちを抑えきれず、階段を駆け下りた。玄関の前を通った瞬間、インターホンが鳴った。