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魔法使いとコーヒーを  作者: 宇部松清
第5章 いだいなる魔法使い 海の結婚式
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『いだいなる魔法使いシリーズ③ いだいなる魔法使い 海の結婚式』


 いだいなる魔法使(まほうつか)いは お(よめ)さんを もらいました


 お(よめ)さんの(ひとみ)は いだいなる魔法使(まほうつか)いからの プレゼント


 いつも キラキラと (かがや)いて います


『あなたの()()ると 世界(せかい)って とても きれいね』

 お(よめ)さんは ()いました


(きみ)がうれしいと ぼくも うれしいよ (おな)景色(けしき)を ()ているからかな』

 いだいなる魔法使(まほうつか)いは ()いました


 そよそよと (かぜ)()って (うみ)(かお)りが (とど)きました

(うみ)が ()たいわ』

 お(よめ)さんは ()いました


『いいよ 本物(ほんもの)(うみ)と 偽物(にせもの)(うみ)と ()(もの)(うみ) どれがいいかな』

 (うみ)(かお)りを そぅっと つかまえて いだいなる魔法使(まほうつか)いは ()いました


『それなら 本物(ほんもの)(うみ) ここから (とお)いのかしら』

 お(よめ)さんは()いました


(とお)くても 大丈夫(だいじょうぶ) ぼくが ()れて()くよ』

 いだいなる魔法使(まほうつか)いは 空気(くうき)をたくさんたくさん(あつ)めて 透明(とうめい)(ふね)(つく)りました


 お(よめ)さんの手を (やさ)しく()いて (ふね)(うえ)に ()せました


『ぼくが (かぜ)になって (はこ)ぶからね ()()()して ()ちないように ()をつけて』


 ひゅうう ひゅうううん 

 ぴゅうう ぴゅうううん


 草原(そうげん)を こえて (やま)を こえて


 いだいなる魔法使(まほうつか)いは 木々(きぎ)に 草花(くさばな)に (くも)に あいさつをしながら お(よめ)さんを (はこ)びました


 ざざ ざざーん ざざ ざざーん


 (なみ)(おと)が ()こえてきました (うみ)に ()いたのです


 お(よめ)さんを()せた 空気(くうき)(ふね)は ゆっくりと 砂浜(すなはま)に おりました


 いだいなる魔法使(まほうつか)いは また 人間(にんげん)のかたちになって お(よめ)さんの手を (やさ)しく ()きました


(うみ)だよ (きみ)()る はじめての (うみ)だ』

 いだいなる魔法使(まほうつか)いは ()いました


(うみ)ね あなたと()る はじめての (うみ)だわ』

 お(よめ)さんは ()いました


『ここで 結婚式(けっこんしき)を あげようか』

 いだいなる魔法使(まほうつか)いは しゃがんで 砂浜(すなはま)を さらさらと なでました


 すると どうでしょう


 またたく()に りっぱな お(しろ)が できました


『すてきなドレスがなくて ごめんね』

 いだいなる魔法使(まほうつか)いは ()いました

 (おんな)()の お洋服(ようふく)は ちょっぴり 苦手(にがて)なのです


『いいのよ これだけで もう じゅうぶん すてきだわ』

 お(よめ)さんは (わら)いました


 わかる。わかるよ父さん。女の服ってわっかんねぇよな。こっちが良いと思う服と、向こうがいいと思う服ってなーんか違うんだよな。俺なんか、ピンクで、ちょっと花柄だったりして、ひらひらーっとしてれば全部可愛く見えちゃうんだけどさー。って、そうじゃねぇか。ていうか相変わらず、今回も気障だぜ、父さん。空気の舟かぁ、乗ってみてぇな、俺も。あ、でも底もスケスケなんだよな。やっぱ怖いかも。そう考えると母さんって結構度胸あるよな。これも舞台はやっぱり東北なのかな。海って太平洋?それとも日本海?この城も、シンデレラ城みたいなの描いてあるけど、実際は熊本城みたいなやつだったりして。

 などと考えて、祥太朗は少し笑った。

 あれから、何度かコップの水を試してみたが、やはり量は増えることなく、ただ塩味がつくのみだった。もちろん、使った分の塩分は小まめに補給するように心がけた。

 しかし、この塩分が自分の体内にあるものだとすると、水の量が増えるというのも、もしかして体内の水分を使うのではないだろうか。人の身体の60%は水分だっていうけど、町中が水浸しになるくらいまで、って、父さんたぷたぷし過ぎじゃね?それとも、魔法使いって身体の構造がやっぱり違うのかな。

 でも、たしか海とか川の水も借りてこれるんだよな。わざわざそこから引っ張ってきたとか?でも、コップの水をかき混ぜただけだったよな。どっかから持ってきたなんて描写はなかったぞ。

 考えても考えてもわかりそうでわからない。

 もう何度目かはわからないが、もう一度コップの中に指先を入れる。頼むよ。お願いします。すぐに水分補給するから、ちょっとだけならいいから、俺の水分使っていいからさ、増えてくれよ、いや、増えてください、お願いしますって。

 目を瞑り、祈るような思いで水をかき混ぜる。かき混ぜる。かき混ぜ……。あれ?

「ちょちょちょ、マジかよ!」

 いつも通り、やや控えめに入れたコップの水が、あと少しで溢れてしまいそうなくらいになっている。思わず指先を引き抜く。慌てて抜いたため、布団に少し飛沫が飛んだ。

「俺の布団も受難だな。いやいやそんなことより!」

 増えた……よな。俺こんなに汲んで来てねぇし。でもなんで成功したんだ?ていうか、水分補給しないと!

 祥太朗は増えたばかりのコップの水を一息に飲んだ。

「やべっ、せっかくの証拠を!ま、まぁ、また増やせばいいか……。まず落ち着いて考えるんだ」

 いままでと何が違ったんだろう。左手でコップを持って右手でかき混ぜる。これはいつもと変わらない。目は……瞑ったけど、これまでもちょいちょい瞑ってたよな。あー、ちょっと指示が具体的だったかな。これか?

「よ、よし……。これでいってみよう」

 もう一度試してみようとコップに目を落とし、つい先ほど飲み干してしまっていたことに気付いた。

 はやる気持ちを抑えきれず、階段を駆け下りた。玄関の前を通った瞬間、インターホンが鳴った。


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