珍しい四人で
戦火、静葉、晶哉、英霊といわれてぱっとかいたSS
おいおい、こいつらなんなんだよーーーーー
ある日の夕食の席でのこと。
たまたま日を跨ぐ依頼をこなすものが多く、夕食の席にはたった四人しかいなかった。
夕食を作る戦火。仕事を終わらせた静葉。今日一日は休日だった晶哉。そもそも依頼を受ける権利がない英霊。
キセトもギルドにいるが、食事の席には出てこない。
「本日はギルドにいらっしゃる方も少ないですから軽めのものを用意いたしましたわ」
「お腹減ったー」
ガタガタと椅子を揺らして静葉が叫ぶ。運ぶだけでも手伝おうなどという思いはないらしい。よほど空腹なのかグーグーと口で唸っていた。
「名前は人を表すらしいが嘘だと証明されてるな」
「なによ」
「お前には言ってない。英霊に言ったんだ」
晶哉は「なー」と英霊に同意を求め、英霊は首をかしげ、
「わかんないけど、ときつさんはおもしろいよ」
と少しズレた返答を返した。
「何よ、仕事してきたのよ疲れてるの! あんたの相手なんかしてる体力残ってないのよ」
「なら話しかけなきゃいいのになー? えいれーい」
「え? あ、つかれてるならおやすみすればいいんだよ?」
「英霊のほうがぐーんと賢い。そこらの馬鹿より」
「ちょっと晶哉! 表でなさい!!」
「疲れてるんだろ。大人しくしとけよ」
「言い争いしないでください。早く召し上がってくださいませんか? 冷めると台無しですわ」
全ての料理を運び終えた戦火が子供な大人二人を嗜める。静葉がいじけて黙り、晶哉は楽しそうに黙った。静葉だってからかわれていることぐらいわかっているのだ。
「いただきまーす」
沈黙を破るのは何も分かっていない子供の声だった。英霊の声にならって静葉と晶哉もいただきます、と呟く。戦火も二人が黙って食べだしたことに満足して食べ始めた。
「ごちそうさまです!」
「はいご馳走様」
「ごちそーさまぁ。いやぁ戦火ちゃんは料理上手ね!」
「お粗末様でしたわ」
英霊に礼儀作法を覚えさせるため、全員で手を合わせて食後のご馳走様をすませた。早々と立ち去ろうとした晶哉は英霊につかまって食堂の隅にある畳スペースに引っ張り込まれ、静葉は戦火に捕まって食器の後片付けを手伝わされた。
「それでね、パパがくれたほんがね」
「へー」
「おもしろ……、僕のおはなしつまらない?」
「ふーん」
「……おにいちゃん?」
「それはすげー」
一切会話は成立していなかった。晶哉は頬杖をついて携帯を弄っているだけだ。英霊のほうを見ようともしていない。流石に英霊も話を聞いてもらっていないと分かったが、黙って自分の遊びに集中することにした。
英霊が無言になって暫くたってから晶哉が携帯を閉じた。なんだかんだと言って英霊は晶哉を見ていたので、今度こそ期待をこめて晶哉を見つめる。
「じゃ、おれは自室に行くからな。早めに風呂入って寝ろよ」
「えっ」
「じゃ、おやすみ」
「あのっ」
「ん? どうした」
「あ、ご、ごめんなさい。早く寝ます」
「そうしろ」
それだけ言って晶哉は食堂から出て行ってしまった。英霊はしょんぼりしておもちゃを片付け始める。食堂にいた女二人はやきもきしながらそんな二人を見ていた。
「あーあー、冷たいの。英霊君ももっと我がまま言えばいいのにねー」
「気を遣っているのでしょう。ギルドは近い年齢の子がいませんから、どうすればいいのか分からないのかもしれませんわね」
「晶哉もあしらうにしてももっと器用にしなさいよ。あれじゃ相手にされてないって丸分かりよ! 英霊君がいくら子供だからって気づくわよ」
「晶哉さんも何も考えていないわけではないと思いますわ」
戦火がそう言った直後だった。食堂の扉が開いて晶哉が顔を出した。
「しょーやさん?」
「………」
暫く無言だった彼だが、
「風呂、入るぞ」
そう言うと英霊を掴んでお風呂のほうへずんずんと進んでいった。手には二人分の着替えを持っている。
「ほら。いい人ですわ」
「んー。子ども相手だからじゃないの?」
「子供が相手の時だけでもいい人であれるのはいいことですわ」
「そーだけどー」
「片づけも終わりましたし、私たちもお風呂に入りましょう。男女別だとこういうときに便利ですわね」
「今日はもう疲れたものね。あんまり考えずに寝ちゃおーっと。戦火ちゃんの着替えもとってこようか?」
「お願いしますわ」
暫くして静葉は私室から着替えを持ってきた。
お風呂に入ると楽しそうな英霊の声とつかれきった晶哉の声が聞こえ、女性二人は声を上げて笑っておいた。
風呂上りには顔を輝かせている英霊と、ばつの悪そうな顔をした晶哉。ニヤニヤしている静葉、上品に笑っている戦火が顔を合わせることになる。
ちなみにキセトは自室に一人ぼっちで寝ていた。晶哉はキセトに英霊と一緒に風呂に入ってくれといいに来たのだが、気持ち良さそうに寝ている彼を発見して仕方がなく自分が英霊とお風呂に入ったのである。