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羅沙鐫という男


 羅沙鐫と峰本連夜と焔火キセト

 「はーい、わざわざ代表ギルドの隊長全員・・を集めてごめんね。皆忙しいだろうに。こんな皇帝の呼び出しなんて応えてられないほど」


 五人揃うべき場に三人しかいないことに対する嫌味なのか、それとも気にしていないが挨拶代わりなのか、皇帝は笑顔のまま言う。


 「皇帝直々の呼び出しなんて、殆ど独立しているようなギルドにとっては価値はないかな?放っておいてくれって言う本音を言われているのかな?僕は操り人形だから僕に言われたってねー」


 「陛下。ここに来ていない二人は前日からの任務で外しております。なにせ急な招集ですから」


 「あはは、そういうことにしとこう!あんまり待たせると怒っちゃう人を紹介するからね。新しいギルドを立ち上げるだよ。ちょっと変わった子たちだから誰か世話してあげてね」


 「陛下自らのご紹介ですか?それに規則としてギルド創立は五人からとなっておりますが……」


 「知ってるよー、だから僕の特例。軍に入ってもらおうと思ったんだけどね、東雲隊長がどうしても許してくれなかったからギルドね。ギルドだって一応軍扱いだし!じゃ、入ってもらうよ?」


 皇帝、羅沙鐫はそういうと扉のほうに進む。皇帝が自分で扉を開いて部屋の中に案内するほどの人物がギルドを創立するとは違和感がある。だが、代表ギルドの隊長たちは黙ってスキップでもしそうな皇帝を見ていた。皇帝を決定を覆す力など持っていないことはわかっている。

 入ってきた男の髪の色を見て、いよいよ皇帝が狂ったと思ったが。


 「えっとねー、背の高い子が峰本連夜君。好きなものは砂糖だよ、子供みたいだね!細い子が焔火キセト君。鬱陶しい髪してるけど話すと面白いよ!」


 背が高いや細いなどそんなことよりも、髪の色だ。この羅沙において絶対にあってはならない色、北の森の銀と黒。銀髪の男はじっと皇帝を見つめているし、黒髪の男は目を閉じて突っ立っている。

 流石に代表ギルドの一角「サンクチュアリ」の隊長が挙手して発言権を求めた。相手が皇帝出なければ怒鳴っていただろうほど思いが迸っている。だが皇帝の対応はあくまで静かだった。


 「質問?何々?いいよ」


 「ではお言葉に甘えさせていただきます。まさか、北の森の悪魔が新しいギルドを立ち上げる創立者ではありませんよね?」


 「僕は北の森の悪魔なんて知らないね。だからその質問にはイエスだよ!やったね!君の疑問にこんな僕でも答えられたよ」


 「あ、いえ……。その、銀髪と黒髪が創立者ではありませんよね?と尋ねたいのです」


 北の森の悪魔という単語が皇帝の癪に障ったことは確かのようで、すでにサンクチュアリの隊長を怪訝な目で皇帝は見ている。


 「なーんだ、連夜君とキセト君は北の森の悪魔なんかじゃないよ。勘違いしちゃったじゃない、恥ずかしい。この二人がギルド創立者だよ、間違いない」


 「北の森の……葵と不知火の民がですか?この羅沙で?羅沙軍に属するギルドを?本気なのですか?」


 「本気本気。はい、自己紹介してね」


 「あお、ミネモト連夜でーす」


 「焔火キセトです」


 「ってわけ。一つギルドの建物空いてたよね?あそこ使わせてもらうよ」


 葵といいかけている連夜を皇帝が一発殴っていた。痛いっと叫んだ連夜がしぶしぶといった様子で皇帝に頭を下げている。


 「あ、あの。陛下。彼らはなぜ羅沙へ?」


 「えー?あぁ、そうそう。そうだったね。びっくりするよね、髪の色。忘れちゃってた、説明するの!彼らは僕のお友達兼僕の民なんだ。羅沙の民とも仲良くして欲しいんだよ。そういうとね、羅沙の民のために汗水垂らして働くギルドの仕事があっているんじゃないかって思ってさー」


 「それは羅沙へ来た理由にはなっていません」


 「ん?そう?いいんじゃない?彼らの行為は全部僕が責任取るよ。北の森の民全員がとは言えないけど、この二人はいい子。ちょっと子供だけどね」


 あんたに言われたくないだろうと代表ギルドの隊長たちが心で呟く。

 実際、この皇帝は操り人形の名に恥じないほど、個人の動き方は子供じみている。そんな皇帝に子供だといわれるなど、関わりたくは無い。その関わりたくない相手が銀髪と黒髪など、やってられない。


 「最初のお仕事はちょっとずつ流してあげて欲しいんだよね、とか言わないよ。安心しなさい。ただ、僕が個人で城の仕事、軍の仕事のお手伝いを二人が立ち上げるギルドに依頼する。代表ギルドですら触れることの許されない仕事を堂々頼む。嫉妬するな。それだけ。ね?簡単でしょ」


 「そ、それだけって、それは既成のバランスを崩します。正規手続きを……」


 「正規手続きとか、僕に言ってるの?僕が、皇帝が正規でしょ。やれよ」


 「う、う、え、あ……」


 「やれよ、操り人形の手足。紐に引っ張られて動け」


 「はい…」


 「だってー、これでおっけーだね!じゃ、連夜君、キセト君、案内するよ」


 「脅したー、皇帝が善良な民脅したー」


 「僕は善良な民でも脅すし殴るよ、もちろん連夜君でもね」


 にっこり笑う皇帝に笑い返すのは連夜だけで、キセトは相変わらず目を閉じて存在を消すかのように黙り込んだまま。代表ギルドの隊長の面々も呆気に取られている。

 羅沙皇帝自ら北の森の民を羅沙に招くなんて狂っていると、誰もがそういうだろう。そんなことわかりきっていてなぜ皇帝はあの二人を招きいれたのか。全員が疑問に思った。皇帝と北の森の二人が部屋から出て行くとその話題で持ちきりになる。


 「なぁ、そういえば。さっき出て行ったミネモト?あいつの目、金色じゃなかったか?」


 「まさか。金色って明日羅皇族?なわけないだろ」


 「そうだよなー。葵だもんな。しっかし、あの黒髪一言もしゃべんねーの。名前だけだぜ?」


 「どうせ皇帝陛下も騙されてるんだって」


 「てか、皇帝もな。どうせ第二子だし。これからの羅沙にはいいもん期待しちゃだめだって。代表ギルド程度が一番いいさ」


 「まぁなー」


 「貴様ら!」


 緩みきった二人を叱る女。後に連夜の友となる、代表ギルド代表フィーバーギルド隊長、夏樹冷夏その人。


 「発言を考えたまえ。不敬である。皇帝陛下が責任を持つと仰ったのだぞ。陛下にそこまで言わせておいておれたちがふんぞり返るのか?おれたちにはおれたちができることを彼らにすべきだ。彼ら新人の失敗はおれたちの失敗と同等。彼らがギルドを創立する以上、無関係ではない。他人事として考えるな」


 「そうはいうがな、夏樹。二人のギルドに何が出来る?あいつらが優秀だとしても仕事なんてはいらねーぞ。誰が北の森の民に任せるよ?仕事を回せばおれたちの信頼が無くなるぞ」


 「最初は合同任務を中心にすればいいだろう。そこで彼らがなにに使えるのか知るべきだろうさ。それに彼らが本当に北の森の出身ならそれぞれのギルドの特色に合う聞くべきことがあるだろう。聖域を研究しているサンクチュアリにとっても北の森の聖域のことを聞いたりな。羅沙では認められない北の森の民の特例なんだからな」


 「話しかけるのか?北の森の民に?それこそまさか本気か?北の森だぞ?片方は不知火だぞ!?」


 「だからこそ、滅多に出回らない情報が手に入るんだろう!」


 「夏樹はよくやるな…。志佳から継いでやる気一杯、て感じか?」


 からかわれて夏樹が黙り込む。廊下でその会話を盗み聞きしていた皇帝は嬉しそうに、またまた笑っていた。


 「あんた自身は馬鹿にされてんのに良く笑うな」


 「えぇ、だってね、だってね!コレでいつだってギルドの連中を不敬罪で引っ張れると思うとね!!にやけちゃうよね!!」


 「性格悪いよ、あんた」


 「うふふ、じゃ、本当に行こうか」


 「ほいほい」


 皇帝羅沙鐫、銀髪峰本連夜、黒髪焔火キセトの三人がギルド街を歩く。城から会議場へ来たときも視線を感じた。恐怖や嫌悪が混じった視線。皇帝を見る視線すら疑いのようなものが混じっている。


 「なぁ、あんた皇帝だろ?なんで自分の民にこんな目で見られたんの」


 「僕の民?馬鹿なことを言うね。羅沙の民と僕の民は違うでしょ。僕は羅沙に嫌われてるんだよ」


 「ふーん……。まぁ、オレも嫌われもんの仲間入りってか」


 「あはは、キセト君ほどではないね。彼は黒髪だから」


 あれほど綺麗な髪もないんだから堂々すればいいと皇帝は思う。美しい髪を黒いからという理由だけで虐げられることもないと。

 そう思わない?と後ろの二人に同意を求めて、おかしなことに気づいた。


 「あれ?なんで目を閉じてるの?馬鹿なの?」


 「あー、目の色があれだからだってよ。目を閉じてもこけないし」


 「しかも連夜君が答えるの?君はだんまり。僕の質問にすら答えないのね。そうなのね?別にいいけど。後でキセト君だけ騎士の制服毛糸にするけど」


 「……やめてください」


 やっと聞こえたキセトの声に皇帝は満足気だ。さて、と前置きをして足を止める。言うほど歩いたわけではないのだが、目的地に着いたようである。


 「ここが君たちの家ね。住所確認しといて。頑張れ!これからここでお仕事!お昼寝!ご飯!だらだらした休日!」


 「腹減った!」


 「目を開けたくないので見えません」


 はぁ?と皇帝とは思えない下品な声がした。連夜とキセトが恐る恐る皇帝を見ると怒っているときの笑顔だ。常に笑顔の皇帝は数種類の笑顔を持っている。明らかに怒っているときの笑顔だ。


 「君たち、僕の張り手かハリセンかどっちがいい?」


 「すいません!真面目に感想いいます、とっても素敵です!」


 「……同じく」


 「わぁなんにでも言えるような感想ありがとう!お礼に張り手とハリセンあげるね!」


 「やっぱり怒ってたぁぁぁ!!」


 連夜がまず本部の中に駆け込み、キセトもそれに従う。後ろからハリセンを構えた皇帝が追ってさえ来なければ、感動の初めての「家」になったはずだった。現実は人を叩く音が二発響くものだったが。


 さて、と皇帝が二人を前にして仕切りなおす。パンッと皇帝が鳴らすハリセンにおびえつつ、連夜とキセトが言葉の続きを待つ。


 「まず互いの約束を思い出そうか」


 「はい…」


 「僕は君たちに自由をあげよう君たちを支援してあげる。君たちの罪をもみ消してあげる。君たちへの罰を肩代わりしてあげる。なんでもしていいんだよ。ただし、僕の自由を害する場合のみ、僕は君たちの自由を害する」


 「間違いありません」


 「おっけー」


 間違いはないかもしれないが、それが口だけであると疑っている。ここしか居場所がないからここにいるだけ。

 皇帝、いや鐫にはそれが丸見えで微笑ましい。そんな表情を隠しもしないあたりが子供だと言っているのに。


 「まぁ、これからよろしくね。僕の民」


 力強く頷く二人。

 鐫は自分の子供の歳にもなる二人を見て思ったことをそのまま口にできる。なにせ、彼らは鐫の民なのだから。


 「これからなんてこの国にはないけれど、この世界にはある。人間に未来なんてないだろうけれど、君たちにはある。いざってときは人間なんて捨てて、生き残りなさい。自由である君たちに命令はできないけれどね。僕が君たちに望むことは自由でしょ。僕は君たちに生きて欲しい」


 自分は生き残れないだろうけれど、とはこのときは言わなかった。

 すでに連夜とキセトが、羅沙鐫という存在を自分を支える柱にしていることを知っていたからだ。未来消えてしまう柱だとわざわざ知らせる必要はない。



 **********



 「なんで呼び出されたかわかるかい?連夜君じゃないんだから、わかるでしょ?」


 「陛下がオレを馬鹿にしてる…」


 「だって連夜君、なにで呼び出しても用件わかってないよね?」


 「まぁ、そうだけど。で、なんでキセトの呼び出しでオレも一緒なの?」


 「それは話せばわかるよ。さて、同じこと何度も言わなくてもわかるね?答えて」


 「………依頼を、受けました」


 こんなはした金で、と鐫が持ち出した書類に書かれている金額は「はした金」などというものではない。高級ディナー一回程度だ。依頼の内容に対しては安い。安すぎる。

 ただ、その価値観がキセトと鐫で重ならない。


 「自分の体を自分が納得した金額で売るだけです。それも、依頼に応える形で。何が悪いのですか?」


 「売春行為は禁止だよ、法律で」


 「俺の自由は、陛下の自由以外では縛られない、ですよね?」


 「もちろん。だからこれはね、僕の自由だ。やめて欲しい。君を大事にしてほしい」


 「……依頼を断るのは苦手です」


 連夜の優れた視力が資料の文字を読み取る。明らかに鐫とキセトが話している内容ではない。表だけの依頼が書かれているのか。わざわざ書類を偽ってまでキセトを買おうとした奴がいるのか。

 連夜は初耳だったが、どうも鐫は何度も注意していたらしい。鐫の注意でキセトがやめないとは、相当だ。これは鐫から連夜に疑わしい書類を止めるように言われるかもしれない。


 「キセト君。君が無性に誰かに抱かれたいってわけじゃないんだね?依頼があるから断れない、と」


 「はい」


 「別に抱かれるのだって自由だと僕は思うよ。僕が怖いのは、それをクセにしちゃうこと。誰かに抱かれて、誰かに支配されて、誰かに自分を託す快感に浸ってしまうこと。君は君の自由を存分に振るうべきだと僕は思う。でもそれを自己犠牲に使うのは僕は許さない。僕が与えた自由をそんなことに使うのは許さない。いいね?」


 「…はい」


 「もし依頼じゃなくてただ抱かれたいなら連夜君に頼みなさい。では、今日は解散」


 「はぁ!?ちょ、オレ!?なんで!」


 「僕が抱いてあげてもいいけど、体力がね、持たないの」


 「抱くのはいいんだ…」


 うげぇという連夜の遠慮の無い声が皇帝の私室で鳴る。本来ならここにいるはずも無い二人は鐫に招待されてきた。招待とはいうが、二人は呼び出しと言っていたし、呼び出されたときはほとんどが説教である。

 化物とされてきた連夜とキセトにはその説教すら物珍しい。自分たちを相手に叱ろうなどとするなんて、それだけで面白い相手だ。


 「明後日は騎士、どっちかついてね。ほかは仕事に励んで頂戴」


 「はーい」


 「それと連夜君」


 「ん?オレ帰りたいし帰るんだけど」


 「君も抜くんだったら生の女はやめときなよ。僕らの種は未来への争いの種だからさ」


 「オレあんたらと違ってノンケなんですけどー」


 「本と映像にしとけって言ってるの。あ、どうしても生がよかったらキセト君でもいいんじゃない?」


 「俺が嫌です」


 「だからノンケだっつてんだろ!!」


 鐫と連夜とキセト、笑う三人で過ごした時間だった。

 一時は連夜とキセトですら勘違いするほどの時間。もしかして羅沙鐫は自分たちのことを娘や息子以上に愛してくれているのではないか、と。

 だが、最後の最後はやはり勝てないのだ。



 ***********


 

 羅沙鐫は悟った。たった二年の楽しい時間は、自分が死ぬ前に特別に用意された「幸せ」だったことを。そしてその二年、自分が幸せに浸っていたせいで家族のことを見て見ぬフリをしていたことにも。

 自分の手が濡れている。自分を抱くキセトが泣いている。自分を見る連夜の顔が青ざめている。


 「ごめんね、僕の自由を君たちに守ってもらってるんだね。治療しないでって言ってごめん。ここで死ぬという運命に従ってみたいんだ」


 言葉ははっきり言える。言葉を発するたびに腹部からも何かが流れ出る感覚がするが、この短い時間にそんなこと、気にしていられるものか。


 「運命を壊す力が賢者の一族の力。使っちゃ駄目。駄目なの。僕は君たちに化物になんかなってほしくない。力は持っているだけでいい。使わなくていい。君たちの未来を、僕に願わせて。人なんて殺せ。僕が許そう。世界なんて壊せ。僕が許そう。ただ、君たちの力は使ってはいけない。それを使ったとき、君たちは化物以外の何者にもなれなくなる。僕は、僕は、君たちのその子供じみた笑顔が好きだ。力は君たちからそんな表情すら奪う」


 そんなふうに泣いちゃって。言葉も出ないほど泣いてるの?僕なんかの命のために?


 「ほら、泣かないで。君の涙ほどの価値、僕にはないよ。泣くだけなら君の自由だけど」


 温かいね、君たちの手は。

 キセト君の手も連夜君の手も。僕の意志は、ここにある。


 「一つだけ。僕の命を奪うことは何の罪にもならない。だからその子、いじめちゃ駄目だよ?その子は僕の願いを叶えてくれたんだ。むしろ大切にしてあげなさい」


 すでに血だらけだけれど、死んではいないはず。僕が彼らの自由を縛らなければ、彼らは僕のいない世界で殺人者になってしまう。


 「殺しては駄目。生かしなさい。いじめちゃ駄目。守りなさい。僕を殺したことは罪ではない。裁くことも許さないよ。皇帝は望んで死んだ。誰の罪でもない」


 誰の罪でもないんだ、だからお願いだよ、連夜君まで泣かないでよ。


 「ありがとう、僕に幸せをくれて。僕だけの民になってくれて。ありがとう。明日と驟雨をお願い。あの子達を守って。僕のいない世界に生きる、僕の子供たちを守って」


 さようならは言わないから。

 また会おう?君たちが満足気に笑って僕に再会する日を待ってるから。


 **********


 「あの…」


 「しゃべるな」


 「………」


 痩せこけた少女は座ることすらせず男二人を見つめる。

 少女が手にかけた皇帝は先ほど息絶えた。男二人はゆっくりと遺体を床に置く。先ほどまで響いていた泣き声も嘘のように止まっていた。


 「…鐫様。ゆっくり休んでください」


 空色の髪をした青年は、微笑みかける。遺体は笑っていた。


 「連夜、去ろう。他の人が来るとややこしくなる。俺たちはナイトギルドの隊員以外、何者でもないし、何者にもならなくていい。俺たちは鐫様が与えてくれたあそこにしか存在できない」


 「まっ、コレを機会に羅沙出てもいいんだけど。頼まれたしなー、羅沙明日と羅沙驟雨。鐫様の頼みだもんなー。羅沙にいるなら、やっぱギルドがいい」


 「………」


 「くるか?ガキ。鐫様の言葉に従って、お前を保護してやるけど。守ってやるけど。生かしてやるけど」


 「…いく」


 「じゃ、こい。言っとくが、オレはお前を許さない。殺してやりたいと思う。虐めてやりたい。だが、それでも、鐫様の言葉を守る」


 連夜が差し伸べた手を、痩せこけた少女、松本瑠莉花は取った。


 


  


 

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