キセトと連夜の下ネタで盛り上がった話
タイトル通り、ちょっとシモいです。
「ぶっちゃけキセトって亜里沙さんのどこが好きなの?」
そんな馬鹿な質問にキセトは口をつぐんだ。ちなみに時間は朝。馬鹿げた話題も連夜の馬鹿げた気分も適していない。
「顔、性格、それとも体?」
「ぐ……」
最後の選択肢に妙な声が漏れる。連夜は今のお前滅茶苦茶面白い、と笑う。
「体? え? 体なの?」
「やめろ」
キセトが連夜の口を塞ぎ、階段を下りてくる気配を待った。
ここは共同スペースである食堂だ。いい歳の男女が共に生活している。階段を下りてきた音が食堂の出入り口で止まり、中を覗き込んだ。キセトがにやにや笑う連夜の口を覆っている奇妙な光景を見て、足音の主は何も言わずに外へ向かっていった。
「静葉がクズを見る目してただろうが」
「そういう話の気分だったら、お前の部屋か俺の部屋にしろ」
「なんだ、お前こういう話嫌いだろ? えっ、それとも続けたいのか? 場所を移動しても続けたいのか?」
「殴るぞ」
暴力反対と軽口を叩いて連夜が立ち上がった。キセトを手招きし、自分の部屋に逃げ込む。連夜だって女性陣の前で大声で話したいことではない。キセトと連夜でそういった話をしていた場合、すべての罪が連夜に擦り付けられるからだ。キセト自身が乗る気だったとしても。普段からの印象とは手ごわい物である。
「ま、適当に座れよ」
「では」
「おいまて、ベッドはやめろ。埃が付く」
「なら最初から椅子を進めろ」
意外とこういうの、お前の方が気にしないよな。と連夜が零す。キセトは最終的に進められたソファーに身を投げ出して、就寝5秒前といったポーズだ。目を閉じてしまえば寝ていると思われるだろう。
「話するつもりあるのかよ」
「ここは隊長の部屋だ。誰がいつ来てもおかしくない。品のある話じゃないだろう。お前の独り言だと白を切るためだ」
「一人で下ネタブツブツ呟いてるとかキモすぎだろ。そこは一緒にばれようぜ」
「相手による。女性陣であっても一定の年齢以上なら冗談ですむが、戦火や瑠莉花の年齢だと冗談ではすまないだろう。そして同性でも英霊は駄目だ」
「そこで戦火と同い年の茂の名前を挙げないあたり、お前もなんだかんだとわかってるよな」
「男は責任を取る側だ。自らの好みも自らが見つめる女性が他の男からどう見られているかも、早々に知っておいて損はない」
さっさと話せ。お前は王様かよ、と連夜が答え二人でクスクスと笑う。キセトの表情が動かないことはいつもの通りだが、笑い声だけは普通だ。
「お前の好みってやっぱりデカパイの露出癖ありの人? 亜里沙ちゃんの普段の恰好、完全に痴女じゃん。おっぱいもでかめだし」
「死ね」
そしてキセト自身は自分の女についてこの度量の狭さである。
「いやいや、実際どうなんだよ。亜里沙ちゃんのブツは。あれは結構あるだろ」
「大きさも柔らかさもお前が知るところではない」
「ふーん、柔らかいんだー」
「……何未経験ですみたいな顔をしている。お前だって種を残してこないだけで女をひっかけて随分遊んでいるだろう」
女の胸の柔らかさなど知っているだろうが、と一睨み。連夜もそこを偽るつもりはないのか、まあね、と早い同意を示した。
「いやでもな。女の胸ってこう、だた柔らかいだけじゃなくて重み? がくるんだよな。それはでかくないと分かんないもんだし」
「……」
「戦火が一番でかいよな。服で押さえつけてるけど、あの質量はごまかせねーもんだ」
「お前の知人でいうならマスターのほうがスタイルはいいだろう」
「えー、魔法で作ってるもんじゃねーか。ロマンがない。自然物のあのデカさ。茂は正直そういう目で見てるだろ」
「お前、6つも年下の女の子を勘定に入れて恥ずかしくないのか。このギルドで対象とする女性なんて静葉と瑠砺花だけだろう。蓮も瑠莉花も戦火も年齢で対象外だ」
「歳は対象外だがあの胸は対象内だな。恋とかする気は更々ねーけど、触るだけなら触りたい」
「クズ」
「お前はどうなんだよ」
「すまんが見た目も触り心地も、亜里沙以上は知らないからな」
「で、本音は?」
「……大きいとは、思う」
「クーズクーズ!」
「仕方がないだろう! あそこまで圧倒的物量が目の前にあれば、目線もそちらに向くというものだ。それに大きいというのは事実だ! そこになんの感情もない!」
「で、さ? 実際に手からあふれるほどのブツには中々巡り合えないわけだ。戦火の胸を堂々正式にもめる機会なんてこないわけだし? お前はどうなんだよ。お前の女はお前の手からあふれ出るほどなの? 亜里沙ちゃんあの痴女スタイルで着痩せなの?」
「本気で黙れ。下から触ってわざと飽和させるのがいいに決まってるだろ。相手の大きさに頼るな。男側のテクニックだ」
「うわ……、引いた」
キセトが手を掲げ(指の広げ方が胸を触る時のものなのだとは見てわかったが、友人として連夜は黙っておいてやった)、視線を連夜に向ける。
(ゲスい話をしていても目はきれいなんだからずりぃよな。この見た目に騙されてる女がどれだけいるか)
「それで、お前の好みは戦火なわけか?」
「お前自分で対象外だって言ったんだろ。胸がでかいのは戦火ってだけ。好みは別。俺ストレートの髪長い女がいい。やってるときにさー、こう、波紋みたいにベッドに髪が散らばるのがいい」
「わからないでもない」
「亜里沙ちゃんも髪は長いよな。大きく癖がついてるけど」
「この話の流れで亜里沙の話をするな」
「へいへい。それに戦火だと尻がな。物足りないな」
「そうか?」
いやだってね、いってもね、と連夜が両手で宙に陶芸品を浮かび上がらせる。連夜の手の動きを追って見えない空気の作品のラインをキセトも追った。
(あー、戦火は細いからな。未発達なだけだと思うが)
「流石にあの腰からのラインの細さ見るとそっちはな。いくら胸がでかくてもバランス悪いじゃん。好みではない。尻の話になると静葉もスレンダーなんだよな。歳でいうなら十分なはずなんだが」
「静葉は胸もスレンダーだろう」
「言ってやるなよ、オレは言わなかったのに」
「これからの成長も視野に入れるのなら、スタイルは蓮のほうがよくなるだろうな。だが戦火も素材はいいと思うぞ」
「戦火は驟雨陛下が予約済みじゃん。他の男の女育ててやるほど聖人君子じゃないんで」
「聖人君子は女を性的に育てたりしないだろう」
てか蓮を対象にすることのほうがキモいわ、と連夜が両腕で自分の肩を抱いて大袈裟にキセトから離れた。適当に低い棚に腰掛けてソファーで寝返りを打つ友の返事を待つ。
「先ほどから瑠砺花の話をしないが、お前のいうほどほどの胸の大きさと尻、髪の長さ。瑠砺花は条件的にはいいんじゃないのか?」
「よすぎてリアルに狙ってる。全部良くてもいざやったらダメでしたってパターンもあるだろうけどな」
「いい条件を揃えた女だ。お前の貧相なもの相手では満足しないかもしれないぞ」
「残念。オレの体に貧相な部分はない。オレ、一夜限りの男としては結構高評価なんだぜ」
「獣か」
「獣だろうが化物だろうが、夜は満足させられる奴が人気出るんだよ」
「くだらない」
(そりゃ妻子持ちからしたら遊び相手の女に気に入られてる自慢なんてくだらないだろうけどな……。特定の相手がいないオレからしたら死活問題なんだが)
話はキセトの言葉で断ち切られてしまったので、連夜は本棚から自分のお気に入りのものを何冊かとりだす。ちなみに、連夜は女性隊員も出入りするこの部屋の本棚に堂々置いている。瑠莉花に生ごみを見る目で見られたことはあるがそれ以外の女性陣にばれたことはない。木を隠すなら森の中ということなのだろう。
「このポーズよくないか?」
キセトの頭上でページを開く。示されたポーズを見てキセトは顔をしかめた。(こんな時に限って表情がしっかりしている)
「俺は好みじゃない。あと顔も好みではない」
「顔の好みとかお前にあるのかよ」
「亜里沙」
「うわっ、きもっ。じゃこの中だったら誰がいい?」
「……そうだな」
ソファーから起き上がって、キセトが本を手に取る。何か重大な文献を読むときのように丁寧にページを捲っていくのが連夜のツボを刺激した。
「この女性が亜里沙に一番似ている気がする」
「そういう見方するのかよ。妻子持ちは視野が狭いな」
「だが亜里沙ならこのポーズは取らない」
「その情報いらねー! オレにとってこの世で一番要らない情報じゃん!! 亜里沙ちゃんを抱くどころか妄想しただけでもお前怒るだろ!」
「妄想してると言わなければいいだろう。言ってくるから怒るだけだ。お前の貧相な脳みそをのぞき込むようなこと、俺はしない」
連夜のお宝本をローテーブルの上に置いて、キセトは立ち上がった。部屋を出ていくのかと思いきや、ベランダの方へ抜けていく。連夜もそれを追うつもりだったがノックの音が響いたので足を止めた。
「隊長。下品な話は大声でしないでください。小声でとは言いませんが、せめて壁一枚で遮れる音量でお願いします。亜里沙さんを抱くのどうの、副隊長の耳に入ればただではすみませんよ」
(そのキセトを目の前にしてエロ話してたとはアークも思ってないんだろうな)
「あと、今日は女性陣が揃って留守にするそうですから、ご自由に」
最後の言葉はやけに協調されていた。それだけを言って在駆は踵を返していく。在駆の部屋は連夜の部屋より二つも上だ。そこまで聞こえていたとは思いたくない。食堂へ降りる途中、廊下で聞こえてしまったのだろうか。
「お前な、一人で逃げるなよ」
「なんだ、アークは誘わなかったのか。あいつなら静葉の体のエロさを力説してくれただろうに」
「やめてさしあげろ」
(入り口からちょうど物陰になる一帯に隠れやがってこんちくしょう)
「アークも今日は罰ゲームとやらで出かけるはずだ。一人で楽しむのか誰か連れ込むのか、”ご自由に”」
「うるせえ。お前はさっさとお家帰ってドストライクの痴女嫁といちゃいちゃしてろ、ばーか」
「そうだな、そうさせてもらおう」
小さく頷いたキセトは今度こそ出口から出ていった。そのまま階段を下りていく音が連夜の耳に届いたので、本当に妻の下に帰ったらしい。
「あいつ……、本当にむっつりだよな……」
部屋に残ったのはやけに疲労感あふれる連夜と、ソファーにわずかに残る男の体温の残りだけだった。




