表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/30

三色ホワイトトリオ――出会い編――

Black Night have Silver Hope(以下BNSH)のキャラが登場します。

哀歌茂茂 (あいかもしげる)

闘技戦火 (とうぎせんか)

羅沙驟雨 (らすなしゅうう)


 本編を読まないと三人の関係が分かりにくいかもしれません。

 読んでいても分かりにくいかもしれません。

 時間軸的には本編前のお話となります。

 ネタバレ等はございません。

 羅沙大栄帝国に置いて「貴族」とは二種類存在する。その種類訳はごくごく単純なことだ。時の政権に影響力がある家は上流、そうではない家は下流。たったそれだけ。

 上流貴族には旧家や一代で成り上がった家。下流貴族にはのし上がれない弱い家や一般の家庭から金で貴族の地位を手に入れた家。それぞれ様々ではある。それでも目印となるのは「赤色」だ。貴族の中には赤色ではない一族もあるが、それは数少ない例外でしかない。貴族と呼ばれる者たちは髪と瞳に赤を宿す。


 闘技家当主、闘技柳鬼は上流貴族である。柳鬼が「羅沙明津の友」であることなども考慮された結果ではあるが、一代でのし上がった家なのだ。もちろん柳鬼の実力も含めた評価である。

 だが、いくら上流貴族であろうとも羅沙皇帝の呼び出しには緊張する。既に羅沙に明津は居ない。柳鬼には明津という皇族との橋がない状態での、この国の頂上からの呼び出し。緊張して当然であって、慌てる必要はない。適度な緊張は敬意を示すのに必要なのだ。


 「闘技柳鬼様のご到着です」


 城の僕が凹凸のない声でこの城の主に伝えた。柳鬼は主がこちらを向く前に頭を下げる。


 「私の孫が生まれたのは知ってもらっているだろう。男の子だ」


 もちろん知っている。男の子が生まれたとのことで、貴族たちはいち早く祝いの言葉を皇帝に送ったはずだ。「ぜひ未来の妻は我が家の娘を」とそんなあたりのことを。

 だが柳鬼に娘はおらず、ゆったりと余裕を持って祝いの手紙を送った。不備はなかったはずなのだが。


 「娘が生まれるらしいな」


 「は?」


 許可されても居ないのに顔を上げてしまったが、皇帝も皇帝の騎士もそれを咎めなかった。

 柳鬼に娘はいない。正妻が妊娠しているがそれは判明したばかりでお腹の中の子供性別など分からない。皇帝が誰を示して「娘」と言っているのかわからなかった。


 「わ、わたしの妻は確かに妊娠していますが、まだ子供の性別は判明しない段階です」


 「……私は血など拘らぬよ」


 「つまり、正妻ではない妻の子を、陛下の御孫様に……?」


 柳鬼の第二夫人は確かに妊娠していて、その子に関しては性別も女の子と分かっている。だからといって皇族の妻にやるとすれば選択肢にすらならない子どものはずだった。

 柳鬼の第二夫人、闘技美波は元奴隷身分の女性である。真剣な恋愛の結果、どうしても籍を入れたいと互いに願った。互いに少し穢れることでそれを可能にした。貴族の当主の「遊び相手」が妊娠してしまい、貴族の血を無視するわけにも行かないので、「第二夫人」として迎え入れ、闘技の外には出さない。それが世間的な柳鬼と美波の関係だった。

 そういった経緯を含めて、皇族の妻の候補に第二夫人との子が含まれるなどと思っていなかったのだ。その子には申し訳ないが闘技の中で、身内にしか明かせない愛情の中で、外を知らないまま育ってもらう予定だった子だ。


 「わたしの第二の妻の出身をご存知でしょうか」


 「もちろん。『血などに拘らない』私はお前の子を我が孫の妻にしたい」


 「……光栄です、陛下」


 「子が生まれたならまめに城に来るといい」


 不適に笑った皇帝の心の底は、柳鬼には到底読み解けないどよんだものなのだろう。


 * * *


 柳鬼の友人は羅沙明津の他にももう一人居る。

 哀歌茂組合組長、哀歌茂葉脈。表向きには柳鬼が組合のお得意さんで商売の話をするために闘技の家に来ている、ことになっている。


 「えー、つまり生まれても居ない子供嫁によこせってこと?」


 「悪い話じゃないさ」


 「えーえー、複雑ぅ~」


 「そうだ、葉脈も子供生まれたんだろう。おめでとう」


 「どうも。こちらは男の子だよ。数ヶ月の差で皇族の坊ちゃまより一切年下さ。同い年ってのはどこかやりにくいだろうからいいことだねいいこと」


 生粋の商人である葉脈と下流貴族生まれの柳鬼には認識の差が生まれることもあるが、大体のことは気が合う相手と言えた。よき相談相手でもある。


 「それでさ、嫁にあげちゃうの?」


 「陛下に直々のお願いを言い渡されてはな……。城に行く口実ができるのは闘技家当主としても都合がいい話でもある。時々でいいならお前も城に連れて行ってやれるだろう。お前の息子も連れてこいよ、許婚同士二人っきりよりかは仲良くなりやすいはずだ」


 「こちらの息子をクッションにしないで欲しいところだけど……、まぁ貴族と皇族が友人に居るってのも悪い環境じゃないだろうね。いいよ」


 「陛下は御孫様の友人としてお前の息子も迎えてくださるだろうが、殿下がな……」


 羅沙将敬の孫ということは、羅沙将敬の息子の息子なのだ。その羅沙将敬の息子、羅沙鐫は気難しいと有名である。自分の息子の結婚相手を父親が勝手に決めたことや、友人をそのつてで勝手に作られたとあっては気分を害するかもしれない。


 「そのあたりは任せるさ」


 友人の信頼の言葉が重い。

 だがそれでも、青と赤と緑が並ぶ光景がまた見れるのなら。


 「少しは頑張ってみよう」


 その信頼に応えようじゃないか。


 * * *


 「………」


 「………」


 互いに向き合って何分過ぎたのだろうか。自己紹介を終えた後の言葉が何も出てこない。相手は貴族様、下手なことを言えば父に迷惑がかかる。


 「……わたくしのこと、忘れてしまいましたの?」


 「えっ!? あ、小さい頃は一緒に遊んでいましたよね」


 「そうですわね……」


 相手の顔色は変わらない。どうして、と言いたげな顔だが、それはこちらの台詞だ。

 そもそも生まれてから五歳程度までは一緒に遊んでいたらしいが、ぼくが小学校に入るのをきっかけに会わなくなった相手だ。しかも貴族様。ほとんど記憶にない。


 「えっと、お茶、冷めちゃいましたね。おいしいんですよ。淹れなおします」


 ぼくは今年で十二歳になる。小学校を卒業し、中学校に自分の意志で貴族も混じる進学校を選ぶと、父が何も言わずに貴族のあるお屋敷にぼくを連れてきたのだ。父は父でこのお屋敷の主様と商売のお話をしに行ってしまったし、幼い頃遊んだという貴族のお嬢様を相手にお茶する羽目になっている。


 「わたしくも、驟雨様も忘れてませんのよ」


 驟雨様って誰だ。貴族様が敬称をつけて呼ぶ相手なんてヤバイとしか言えない。そんなお坊ちゃまとぼく、一緒に遊んでいたのか怖い。


 「えっと、ごめんなさい。本当に覚えていなくて」


 こんな時は父の回る口が羨ましい。正直言って経験不足が隠せない。


 「わたくしも驟雨様も、お友達といえば茂ぐらいしか居ませんのよ」


 なんだそれ、重い。


 「たくさん、たくさん遊びましたのに!」


 ちょっと涙目になってるじゃない、泣かしたみたいじゃない。お願いだよ、泣かないでよ、困る。


 「覚えていないだなんて……」


 ああ……、そんな高い服で涙ぬぐったらもったいないですよ、お嬢さん。


 「そしたら、これからまた友達になりましょうよ」


 「本当!? 本当にお友達になってくださいますか!?」


 「う、うん。もちろんだよ」


 身を乗り出してきてまで握手を求めてきた小さな手に、ぼくは応える。燃えるような髪に燃えるような瞳、そして涙で泣きはらした顔。それがぼくの友達、「闘技戦火」についての一番古い記憶だった。

 そして、ぼくにとっては更に心臓に悪いことに、皇族様との再会も同じ日だった。


 「忘れた」


 「う、うん。ごめんね」


 「忘れたんだ」


 「ご、ごめんなさい」


 「忘れてたんだ」


 「………」


 目の前の青い男の子は怒っていた。男の子の後ろで赤い女の子がまた泣いている。その位置はずるい。

 皇族様は羅沙驟雨と名乗った。それも嫌そうに。なんで名乗る必要があるのかといいたげだった。ぼくは知っていて当然だったらしい。覚えていないのだと説明すると、悲しそうな顔をした後すぐに怒り出した。

 驟雨様の父親を見れば流石のぼくでも理解する。彼は皇族で、羅沙皇帝陛下の孫にあたる人だと。


 「ごめんなさい。で、でもこれから、また友達になろうよ」


 赤い女の子にしたように手を伸ばす。青い男の子は少し戸惑って居たが、少し痛いぐらい力強く手を取ってくれた。


 「次忘れたら、許さないからな!」


 「分かった。もう絶対に忘れない」


 五歳までの記憶ってそんなに曖昧なものだっけ、とこの二人を見て思う。いい子たちそうだし、いくら身分が高いとはいえ忘れてしまうものだろうか、とも。六年会わなければ忘れてしまうのだろうか、とも。


 「ぼくら何して遊んでたの?」


 「しりとり」


 「お茶会」


 訂正、忘れちゃうかも。幼い子ども三人でひたすらしりとりをしていたことを覚えているだろうか。それに身分が身分だ。青い男の子と赤い女の子が出会う頻度よりぼくが参加する頻度は低かったのだろう。確実に忘れる。しりとりもまったりとしたお茶会も、絶対に小学校という過激な空間に居た間に忘れてしまう。


 「ねえ、第二層に行こうよ。市場とか面白いよ」


 皇族の青も、貴族の赤も知らない世界だろう。退屈しかないここではなくて、あのきらめく世界を見せてあげようと思った。今度こそこの友達と一緒に過ごすために、彼らの世界にぼくが入るのではなくて、ぼくの世界に彼らを連れ込もう、と。

 未来でやけに一般人の暮らしに詳しい皇族と貴族が生まれることになるのは、一人の商人の何気ない提案が最初だった。


 

三色ホワイトトリオと題名にありますが、この三人組を示しています。

三色とは言わずとも青・赤・緑です。ではなぜホワイトなのか。この三色、光の三原色なんですね(私も人に言われて気づきました)。光の三原色は混ぜると白になります。最初は三色白組にしようかと思っていたのですが、私は「○○トリオとか名前つけた~~い」などと言っていたため、トリオという表現に合わせ、後半部分だけ英語になりました。

ちなみに、驟雨・戦火・茂は二代目です。一代目は明津・柳鬼・葉脈の三人組が友人でした。一代目を三色白組、二代目を三色ホワイトトリオと呼ぼうと思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ