きん☆むき02
司会:鹿島千陽
羅沙出身
哀歌茂分家の一員 兼 羅沙の石家の一員
羅沙側:前川前陽・前川後陽
共に羅沙出身(しかし帝都出身ではない)
兄弟で賞金稼ぎをして食っている
軍人になりたかったがなれず、ギルド入隊を目指すがそちらも挫折
不知火側:不知火鈴一・不知火弦石
共に不知火出身の双子
鈴一:不知火側シャドウ隊戦闘特化部隊部隊長 兼 シャドウ隊全部隊総指揮者
弦石:不知火側シャドウ隊後衛支援部隊部隊長
この五人がわちゃわちゃしてるだけのお話。
「はい、始まりました。きん☆むき、第一回裏放送でーす」
「裏というか……、いやなんでもない」
東雲、東とは違い、狭い空間に五人の男が密集して座っている図というのは、どうしてもむさくるしい。見ている側だけではなく座っている当人たちもかなりきついのだ。早く終わらせたいと全員が思っているはずだ。
……たぶん。
「メンバーが多いな。おれ、前川前陽と弟の後陽。あと鹿島千陽が羅沙側かな?」
「不知火側からはおれと、弟の弦石な」
そういって唯一この場を楽しんでいる鈴一が自分のほうにマイクを引き寄せた。それを無言で弦石が元に戻す。
現在、計五人の男が二本のマイクの前で群がっている。進行の為の書類は千陽が持っているため、一番細身の千陽が筋肉質な男に挟まれて狭苦しさをアピールする図になってしまっていた。
「表は東雲高貴隊長と不知火東という人らしい」
羅沙人の前陽にとって「東」という名は聞き覚えのないものでそのような紹介になってしまった。それを不知火側の二人が敢えて言及しなかったのもこれが国際交流の場だからということだけだ。不知火の軍人ならば知らぬものはいない、いや、不知火人ならば知らない者なら誰もがその名前に好意的な感情を抱くだろう人を「不知火東という人らしい」扱いしているのである。内心は穏やかではない。
「まず他己紹介だな。人数が多いから早く済ませるぞ」
不穏な空気を感じ取った千陽が書類を捲る。その音がしっかりとマイクに拾われてしまい、がさごそと雑音が混じった。
「千陽、気をつけろよ。マイクうるせーぜ。で、他己紹介って他人紹介ってことか?」
「ああ。でもこの面子だと羅沙側は不知火側の、不知火側は羅沙側のことよく知らないな。東雲隊長たちはどうしたんだろう……? とりあえず分かる奴同士で紹介するか。というわけで、そちらの二人、こっちの三人でお願いします」
振られた不知火側の二人が、そうだな、と互いを見る。横に長い机に向かって五人が座っているため、端二人に自然に視線が寄せられた。
「おれの弟の弦石。えっと、カタブツというかクールに見せかけたギンギラ系?」
「双子の兄の鈴一。女を漁っては浅い付き合いをしてその尻拭いをおれにさせている」
「「………」」
羅沙側の三人だけではなく、互いに紹介し合った二人すら怪訝な顔をしていた。
「お、おい。全員で黙るなよ……。進行できなくなるだろ。とりあえず前陽たちも、ほら。黙ってないで」
「弟の後陽。正直名前はどっちもどっちだけど、『ぜんよう』より『こうよう』のほうが音がいいと思うから羨ましい」
「兄の前陽。なにそれ初耳なんですけど。頭切れるし腕っ節も強いから憧れてはいる」
互いを無言で睨む中年の双子と、恥ずかしそうに視線を逸らす三十代の兄弟に挟まれて千陽がうなる。どうしてこんなことになったのか。なぜここに居なければならないのか。
「おれだけ自己紹介しまーす。鹿島千陽でーす。哀歌茂分家の下っ端且羅沙の石家の一員でーす」
兄弟独特の空間を作る余人を無視して千陽は話を進めるために自分の紹介を棒読みで終わらせた。すぐに資料をめくって話を進めていく。
「はーい、お便りの時間ですよーと。今日は一個だけなんでさっさとしようぜ」
これ読んで、と千陽が前陽にお便りを渡す。音読するより先に目を通し、前陽は少し嫌そうな声で『ラガジに住む二十歳です。二十歳を超えてから軍の道に進もうと思っています。まだ間に合うでしょうか』と、お便りの内容を読み上げる。
「えっと、表の、東雲隊長と東さんのペアの回答は、『無理せずギルド入隊を目指すのが羅沙では最善策だろう。軍にこだわるのなら軍学校へ入学し、基礎の基礎から学ぶべし』だそうだ」
「その便りさ、それ以上の回答なくね? そもそも羅沙軍人がいないこの面子で答えようもない気がするぜ」
五人が再び沈黙し、そうだな、と全員が納得する。
なら、とばかりに鈴一が質問とは直接関係ない不知火の場合を語りだした。
「不知火じゃ基本的なルートは軍人で、軍人以外になりたいって強い思いがあって違うものを目指す形だからなぁ。軍人になるにはどうすればいいかって質問がまずされないんだよ。何もしないってのが一番の回答になる。軍人になって成功したい、なら話は別だけどな」
軍人へなるために様々な難所が待ち構えている羅沙と、軍人になってから振り落とされていく不知火の違いが明らかになり、互いは互いをいいなぁと心の中で評価する。
羅沙からすれば軍人という聖職にとりあえずなれるのだ。給料はいいし生きていくことに困ることはない。その保証が簡単に手に入れられる。特に成功できずとも、軍所属というだけで羅沙では特別な称号をもらったようなものなのだから、それをいいと思わないわけがない。
だが不知火からすれば、軍になるまでに絞るということはそのあとの死亡率がぐっとさがる。戦いになれば一撃で死ぬだろうとわかっていても出陣しろとしか命令できない上司の立ち位置にいるこの双子には、羅沙の制度は民の命を守る余裕のあるやり方で、命が守られるよりいいことなどない。
「前川たちも軍に入りたくて入れなかったんだよなー。そのあとのギルドにも入れなかったおちこぼれ扱いされる立場だし。でも賞金稼ぎも悪くないから、結果的に良かったって話なだけで」
「あれ? 体は鍛えてるのに軍人じゃないの?」
「も体を鍛えているようだが、羅沙では軍やギルド以外に戦闘職につく者たちがいるのだろか?」
「賞金稼ぎとかまさにそうだろ? おれらは兄弟で賞金稼ぎなんだ。ほかにも模擬戦を見世物にしてるやつらもいるし、帝都以外なら旅人を襲う賊、守る護衛とかか」
「賊はどこにでもいるものだが、護衛と軍は別なのか?」
「軍がただの旅人の護衛をしてくれる訳ないだろ! 哀歌茂の荷物でも傭兵雇ったりしてるのによぉ」
へーと双子の声が重なった。
羅沙では軍人はあくまで戦争や街の治安維持のための職でしかない。使える相手は皇帝であり、皇帝の命令で初めて動く。
しかし軍人の人数が多い不知火ではそれだけの仕事量では人が余ってしまうのだ。よって主な部隊以外にも、「民間人の護衛」や「国境近くの街の守備要員」であったり、戦いに関することならなんでもこなす。敵を殺す力も、味方を守る力も、民に尽くす心も求められている。それは統領がそう命令するからではなく、彼らが民の一員であるという自覚からきている。民は民同士で助けあうことが大切なのである。もちろん組織の規律は守るべきものだが、民に尽くすことを制限する規則は少ない。
「仕事を分けてるからそんな人数が必要ないのか。まぁ確かに専門職は極めたほうが中身もよくなるってわけか」
「そうだとすればこの質問者が今から軍学校に入ったとしても厳しいのではないのか? 今二十歳なんだろう?」
「そうなるか……?」
弦石が首をかしげる。不知火人の感覚では二十歳で軍人になりたいということがそれほど遅いことでもない。軍以外の道へ進んでいたものがそれほどの歳で軍の道に戻ってくることも、不知火では珍しくとも何ともない。むしろよくあることといえた。
だからこそ質問の形式をとって羅沙側の兄弟たちに話を振ったのだ。「やはり、羅沙では遅いのか?」と。
「軍学校は三年、普通なら十八歳の時に卒業してそこから四年、軍の中で訓練を受ける。基本的にはその四年間は戦場には出ない。で、一人前になるのがその四年が終わってから。つまり、軍学校に入ってから七年は見習い扱いだしな」
「二十七でやっと一人前か……、本人の実力次第だろうが、それほど問題でもなさそうな年齢に思うんだがな。まわりが若かろうと使える奴を使うのは羅沙でも変わらないだろ?」
「それもそうだが、問題は上司のほうが年下になることがあるってことじゃないか?」
「それがそれほど問題なのか? 不知火では実力順だから、一時期十代の若造が軍のトップだったこともある。それは極端な例だが、年下の上司も珍しいわけじゃない」
「羅沙では年齢序列が普通なんだよ。年上のいうことは聞いとけって感じ」
「自分より弱くても年上だと上司になりえるのか……不知火では考えられない」
直々の上司であろうと軍のトップ、つまり黒獅子であろうと公式の決闘を行い勝利すればその役職を奪うことができる。たとえそれば軍になったばかりの新米でも。それが不知火の常識なのである。指揮力も実力のうち。弱いものが上に君臨すれば必ず上回るものが現れ引きずり落とす。敬意をもって、実力を示す。それは不知火の軍人同士の礼儀だ。
「まぁ、うん。賞金稼ぎであるおれのアドバイスとしては、そこまで無理して軍じゃなくてもいいんじゃないのか、ってあたりかな? 傭兵でも賞金稼ぎでも食っていくぐらいは稼げるし、それで稼げないんじゃ軍人は無理だ」
「不知火側からいえばそれほど遅いととりたてていうほどでもないと思う。やりたいならやれ。やりたいことをやればいいだろう。その相談者に実力があるなら、必ず道は開けるだろうさ」
「……というわけで、今回はここまで」
「お便りまってまーす」