きん☆むき 01
東雲高貴
羅沙出身
羅沙大栄帝国軍第一番隊隊長 兼 羅沙明津の騎士
不知火東
不知火出身
元黒獅子 兼 現黒獅子代理
不知火側シャドウ隊隊長
この二人がわちゃわちゃしてるだけのお話。
「会話で国際こーりゅー、きん☆むきの時間です!」
東雲の目の前で、一切抵抗せずむしろノリノリで話し出す年上とは間逆に、東雲の心のうちはかなり暗いと言えよう。
彼の名前は不知火東。なぜか突如始まったこの取り組みでは東雲のパートナーに位置する男である。そして東雲の心のうちを暗くする原因でもあった。
「えっと、いろんな称号貰ってたからとりあえず不知火の強い奴ってことで。不知火東だ」
「………」
「隣に居る無愛想が羅沙の強い奴、東雲高貴君な!」
異様な上機嫌さが東雲には腹立たしいのだが、東にそれを気にするそぶりは無い。むしろ東雲の不機嫌さを見てさらに上機嫌になっているようにも思える。
「まー、あれだ。国際交流ってことで仲良くしようぜ、高貴」
「………」
差し出された手に答えるべきか悩んだ東雲だったが、東の視線に怒りが混じったのを感じ取って慌ててその手をとった。これもまた東雲には不愉快な事実だが、実力で言えば東のほうが上であることに違いない。怒らせると、この上機嫌さとは別の意味で面倒になることは明らかだ。
「一つ質問していいだろうか」
「一つといわず何個でも」
「なぜ東とおれなんだ」
「知らん!」
「……お前に聞いたおれが馬鹿だった」
「さっそく一個目のみっしょんだ!」
題名が書かれた看板を眺め、この題名の意味も分からないと呟く東雲。そんな東雲を無視して東は先に進めようとしている。
「えっと、他己紹介をしてくださいだってさ」
「この場合でいうとおれが東を、東がおれを紹介しろということか」
「だろうな。さっ、おれを紹介しろ!」
「テンションの高いじじい」
カメラ越しでも東の瞳に今までと違う光が宿ったのが分かっただろう。東雲が小さく訂正を入れるとその光は嘘のように消えたのだが。
「不知火の……強い奴。剣術を押し付けてきた過去がある」
「お前は中身がガキのままだよなー」
「それで、コレは何のための集まりなんだ」
「そうそう、それがまだだったな。一応質問を受け付けておれか高貴で答えていくっていうスタイルらしいぜ。基本なんでもあり。でもおれたちだと軍の思想に偏った返答になるからもう一つペアが居て、そっちはそっちで同じ質問を答えてるらしい」
「そのペアってとお前を変えてくれないか……」
「高貴はシャイだなー」
そういいながら東雲の背中をバシバシ叩く東に、周りの人間が「それシャイじゃない……」と心の中で訂正したが、残念ながら東には届かなかったようだ。東雲は一層不機嫌さを増して黙り込んでしまっている。
「今日は自己紹介もしたからな。一つだけ答えるぞ。『ラガジに住む二十歳です。二十歳を超えてから軍の道に進もうと思っています。まだ間に合うでしょうか』だってよ。羅沙の質問はお前が答えてやれば?」
「羅沙では二十歳から軍に入ろうというのは難しいな。主に高校進学か軍学校進学かの選択を迫られる十五歳の時が大きな分かれ目になる。無理とは言わないが……正規ギルド入隊を目指すのが無難なところだろう」
「結構早い段階から決まるんだな、羅沙は。不知火じゃ全員軍学校に進んで、やめたいときにやめるって感じ。軍に入隊する平均年齢なんて二十五・六ってところだし。ギルドは軍の一環じゃねーの?」
「ギルドはこの質問者のような、高校を出てから軍に入りたいと考えるようなものたちが多い。よって平均年齢が三十・四十と跳ね上がっていくんだ。引退した軍人などもギルドに流れることもあるらしいからな。羅沙のギルドは、軍に入れなかったものたちの受け皿という扱いになる。書類上は軍の小規模部隊という扱いだから、軍の名前も名乗れるしな」
「せっかくお便りくれたんだからギルドじゃなくて軍に入れるアドバイスしてやれよー」
「……十五・十六といった若者にまぎれて軍学校に入ることをお勧めする。軍学校を出ているとなれば歳にとらわれずに軍に入れるだろう」
「ちなみに高貴君は軍学校での一番の思いでは?」
「同室になった相手が熱血で三年間疲れたこと」
「……それ相手に失礼だろ」
何さりげなく聞いているんだ、と東雲が軽く東に睨みを効かせてみたが、東はその視線を軽く流すだけだった。おまえも答えてるじゃん、と事実つきだ。
東雲は一つ溜息を吐き、三年間同室だった友人のためにも蛇足の話を続ける。
「実技は意地でも勝ち続けたが、学科は負けっぱなしだった。主席の座を争う相手だったんだ。まぁ、面倒だという点で東に勝つ奴はいないが」
「やだー、褒めないでください東雲さーん」
コレまでに無いほど上機嫌に笑う東だが、東雲にとってはただひたすら気持ち悪い。
「歳を考えろ。吐き気がするだろうが」
「外見は高貴より若いけどな」
「若くない。いくつ離れてると思ってるんだじじい」
「不知火人は外見老けないって言われるし。東雲も若いってー……五十代にしては」
「六十代のじじいがぁ」
「五十代もじじいだろ」
まだ娘が結婚もしていない東雲にとって、この最後の言葉が引き金だったのだろう。罵られた五十代という言葉を否定するかのような素早い動きで東の襟を取った――と確信していたのだが。
それでも相手のほうが動きが早かった。襟は取ったのではなく掴まされただけなのだろう。逆に東に腕を取られ同時に固められる。完全にマウンドポジションを取られた形となった。
「まだまだおれたちも若いってことでいいじゃねーか。なー、短気なお子様の高貴クン」
それじゃねー、と東が手を振り、その回は終了となってしまった。
これが後に伝説の回とまで呼ばれたきん☆むき第一回の放送である。