表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/30

あなたに逢いたくて

このSSにはBNSH本編殺人鬼ミラージュ編を既読前提で進みます


 田畑たばた沙良さら

 ギィーリ


  が登場します


 少年は困っていた。

 少年とは言うが、十八歳と本人的には十分大人だという気分になる年頃で。思春期真っ盛りでもあって、恋に恋するお年頃でもある。

 少年・ギィーリは、恋していたはずだ。


 だがそれも、数日前までの話で。

 ギィーリの恋愛対象は死んでしまった。意味も分からないうちに、意味も分からないところで死んでしまった。ギィーリの知らないうちに死んでいた。


 突然、ギィーリが入れられていた牢屋に人が現れた。

 二人の少年だった。その少年たちにはギィーリの想い人の面影がある。少年たちは笑ってギィーリを牢屋から出した。そして二人で手を引き、外へと導いていく。


 後で話をきけば、その少年二人がギィーリの想い人だった田畑たばた沙良さらだという。

 さっぱり意味が分からないが、頷くしかなかった。頷いて、認める以外に、沙良が死んだという事実から逃げる方法はなかったからだ。


 「お前ら…、何で二人もいんの?」


 「えぇー?なんで、かぁ。何でだろう。そうだ、名前付けてよ。二人とも沙良じゃ変じゃない。それに沙良って女の名前でしょ?おれら男っぽいしー」


 「名前…、いいですね。二人いるわけですから、区別する方法はあるほうがいいです」


 「名前って、なー…」


 いつの日だったか。名前を失ったギィーリに名前をつけた沙良。今度はギィーリが沙良だった少年たちに名前をつける。これは何かの因果関係なのだろうか。


 「漢字?」


 「田畑は田畑だもんなー。田畑なんとか、って名づけてよ」


 「じゃ、二人セットっぽい名前がいいな」


 片方は、沙良の過激さを受け継いでいるようで活発だ。だがもう片方は、沙良の本質であるもの静かさを受け継いでいるようでおとなしい。

 その苛烈さと淑やかさをかね合わせた彼女のほうが矛盾していたのかもしれない。こうやって二人の形であることのほうが自然に見えた。


 「火炎かえん…とかは?んでそっちは水河すいが


 「火炎かー。田畑火炎ね」


 「早速質問だ、火炎。なんでおれを逃がしたんだ。自分たちだけ逃げたらよかっただろ」


 「んー?なんでだろ。おれが田畑沙良だった・・・からじゃないかな?」


 「…沙良姉ちゃんだから?」


 「あの人、自分なのにあの人って言うの変かもしれないけど。まぁ、あの人はあんたのこと好きだよ。まっ、今おれらがあんたのこと好きかと聞かれると微妙だけど。田畑沙良はあんたのこと好きだった。それはわかる」


 「すっ…きって…。沙良姉ちゃんはもう…」


 「うん。死んだよな」


 「…っ」


 「まっ、これからよろしく。おれら生まれたばっかりであんまり分かってないの。実はー、田畑沙良だったころの記憶も危ういしー。ただ、復讐しなきゃって。それだけははっきり覚えてるぜ」


 「復讐…か。時間がかかるさ。沙良姉ちゃんもいねぇ。相手は時津ときつ静葉しずはも含めた実力者ばっか。今すぐは無理だよ」


 「火炎…、ギィーリさんの言うとおりだよ。無茶だ。ぼくらは顔も見られてる。帝都うろついてたらすぐ捕まっちゃうよ」


 「そーだな。じゃ、ギィーリ兄ちゃん。一旦帝都から出ようぜ」


 「あぁ…」


 ギィーリ兄ちゃんと呼ばれて戸惑う。

 と言うより、最初にも言ったように困る。

 相手は沙良だったはずで。今こそ年下の外見をしているが、沙良は年上だ。それこそギィーリが姉ちゃんと呼んでいた相手。

 が、二人に分かれたせいか、少年たちはよく見ても十歳程度。沙良の年齢が二十歳で二で割ったらこうなるのかもしれない。

 兄と呼ばれることを良いこととしていいのか、悪いこととしていいのかよく分かっていなかった。


 ただわかっているのは、沙良とギィーリで進めいていた復讐は失敗したということと、その結果沙良はいなくなってしまったということだ。

 時津の街の事件のあと、当然のようにギィーリと一緒に居てくれた沙良は死んでしまった。


 「…逢いたい。沙良姉ちゃん」


 「「…」」


 この少年たちにそんなことを言っても困らせるだけだ。

 彼らは生まれたくて生まれたわけでもなく、沙良を殺したくて殺したわけでもない。ただ、生まれたから行きようとしているだけの子どもたち。


 「ごめん…。おれがお兄ちゃんだもんな。頼りないとこ見せられても困るよな」


 「なんか、こっちもすみません。田畑沙良に、その、なれなくて」


 「いいよ。お前らは沙良姉ちゃんとは違うってことなんだから。沙良姉ちゃんは死んだんだ。そう、死んでしまった。おれは置いていかれたんだ」


 「…置いていこうと思ったわけじゃないと思うけど」


 「わかってる。それにお前らがいるだろ。沙良姉ちゃんにはあえないけど、沙良姉ちゃんが置いていったお前らを無視する理由にはならないじゃねーか。おまえら、おれにまかせろ。復讐も、おまえらも、ぜーんぶおれが世話してやる」


 なぁ、沙良姉ちゃん。

 姉ちゃんは時津の街を失った時、愛しい想い人はいた?会えなくなった大切な人はいた?悲しかった?

 おれは、いなかった。おれは時津の街には何もなかったから。

 でも、今回は失ったよ。沙良姉ちゃんっていう大切な人を失った。悲しいよ。すっげぇ悲しい。

 でも、こいつらは沙良姉ちゃんのことしらない。悲しくなんてない。ただこれから先が分からないだけ。あの時のおれみたいに。


 似てるよな、今のこいつらと昔のおれ。

 沙良姉ちゃんがおれを導いてくれたみたいに、おれもこいつらを導くよ。


 一緒に居てくれたよな、こんなおれと。

 一緒に居てくれるって言ってくれたよな、こんなおれと。


 沙良姉ちゃんがくれたあの安堵感を、今度はおれがこいつらに与えるよ。


 沙良姉ちゃん。逢いたい。


 けど逢えないだろ?


 逢えないからこそ、おれはこいつらを守るよ。

 沙良姉ちゃんがおれにしてくれたように。


 逢いたいからこそ、進むよ。

 振り返らない。

 進んでいく。


 さようなら、沙良姉ちゃん。

 逢いたいよ、沙良姉ちゃん。


 形は違っても、こいつらとおれは一緒に居るよ。

 沙良姉ちゃん。沙良姉ちゃん。


 逢いたい…。


 好きだっていいたい。

 

 でも手遅れだね。ごめん、意気地なしで。

 

 たとえ先に進んでも、忘れないから。

 想いつづけるよ、思いつづけるよ、逢いたいって。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ