その8:勇気あるシェラの行動
夜が明けて、レインは早々にオートエーガンを去っていった。次の配達をこなすためだ。
レインを見送ったニオとアルマは、またいつもの生活――ニオは店の準備に、アルマは飲酒に勤しむ――へと戻っていく。棚に並んだ高級調味料は、いまはすべてもとの姿へと戻っていた。
「お母さん、お酒はほどほどにしないとだめだよ?」
昨夜のレインの忠告どおり、アルマへと忠告する。だが、アルマは一日のブランクがある分いつもより飲むペースが速いようだ。
「おはよう! あれ、レインさんは?」
定時に出勤してきたシェラが、厨房を見渡す。いつもの風景に少しホッとしながらも、どこか残念な気持ちもあった。
「さっき仕事に戻ったところさ。もうこのマスカーレイドにはいないだろうよ」
「あれ、おかしいなあ?」
アルマに説明を受けて、シェラが腕を組んだ。そして首をかしげながら、
「さっき、忘れ物をしたからって、オートエーガンに向かってたんだけど」
ガタタンッ!
慌てすぎて椅子から転げ落ちたアルマは、即座に引き出しから調味料のラベルを取り出していた。そのまま棚の酒瓶に、ひとつひとつ丁寧に貼っていく。
ニオもその作業を手伝おうと、アルマのそばへと近寄っていこうとした。その途中で、視界の隅のシェラが頬を膨らませているのに気がつく。
「シェラ……もしかして?」
ニオの質問に我慢しきれなくなったシェラが、室内へと絶叫に近い笑いを響かせる。
「へへ、ばれた? うっ、そっ。嘘だよ、アルマさん」
ピタッとアルマの手が止まる。まるで油の切れそうなロボットのように、ゆっくりカクカクと首を回転させる。
「シェラ……」
「へへへ、ちょっとした茶目っ気だって。アルマさ……」
「血が、見たいのか?」
アルマの手に細長い物体が握られる。それはなんと包丁だった。
「ちょ、アルマさん、冗談だって!」
「うるさい! わたしをからかおうなんて根性、叩きなおしてやる!」
「うわあああ! お母さん、落ち着いてぇ!」
厨房内を走り回る三人の振動で、落下した食器が甲高い音をたてて割れていく。
通常営業に戻ったオートエーガンの初日は、前途多難な滑り出しだった。
こんにちは、水鏡樹です。
マスカーレイドに異常なし!?第6話 レイン帰宅
いかがだったでしょうか?
グロス一家の関係を、シェラの視点を主にして分かりやすく書いたつもりなのですが、上手に伝わっていれば幸いです。
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最近は少し更新が遅れ気味ですが、これからもよろしくお願いしますm(_ _)m
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