第20話 星華
ーピチチチチチチ
「ん…」
目を開けると、天井が写った。
「ゆ…め…?」
窓から光が飛び込んでくる。
ーきれい…
そう思ってから首を振る。
この世界は神様でさえ残酷で、幸せになんかならない、はずなのに。どうしても綺麗と思ってしまう。
そんな自分が悔しい。
「あやめちゃん…」
夢に出てきた少女を思う。
「んん…」
隣で寝ていた少女も目が覚めたようだ。
「あ、櫻ちゃん、おはよ」
櫻ちゃん、と呼ばれた少女は口元に弧を描いた。
可憐な少女は春の神・花舞櫻、櫻より少し年上の少女は夏の神・陽虫朝日だ。
「おはよう、あさひさん」
窓から光がこぼれ落ちてくる。
「早いね、朝」
朝日から見ると、櫻の顔は見えなくなっていた。こぼれ落ちる光が彼女を美しく魅せる。薄桃色の髪がよく映えている。
「……っ」
思わず息を呑むほどの美しさだ。
世界は信じられないほど美しい。
なのになぜ、それ以上を求めてしまうのだろうか。
* * *
「星華を呼んでこい」
「はっ」
「何の御用でしょうか、御父様」
「華月はどこにいる」
その言葉は質問するというより、命令しているようだ。
「……」
「なぜ、答えられない」
ー嗚呼、まただ、
「…お兄様の行方など、知りません」
「一緒にいなくなったではないか」
ーまた始まる
「ええ、ですが、途中で別れてしまいました故、現在の足取りは分かりません」
ー天上人はいつもこうだ
「もういい。…それよりお前の結婚相手を決めた。婚約したら代替わりだ」
「…………」
「返事は決まってるよな」
「……は、い…」
こうして、少女の恋は終わった。
ー皆が言う⬛︎⬛︎なんてないじゃないか
「式は一週間後だ。部屋に戻って準備しなさい」
ー⬛︎⬛︎なんて、存在しないのに
「…はい…」
ーなんで⬛︎⬛︎なんていう言葉があるの
幸せはこない。
ー皆、馬鹿だ
平和もこない。
ー皆、死んでしまえばいい
なら、⬛︎⬛︎もない。
ー皆、産まれなきゃよかった
それが彼女の考え方だ。
ー皆、いなきゃよかった
天から与えられた役割は、〔天上人のお人形〕。
ーこの世界が、なきゃよかった
天から与えられたものは、この世に豊穣と安寧をもたらすという、金眼と金髪。
ー私は、〔国を揺るがす大悪女〕になってやる
彼女は幸せと自由を求めた。
ーこの世界を反対方向から見つめてやる
国を揺るがす大悪女。
ーなぜ、もっと前に気づかなかったのだろう
それは彼女にこそ相応しい役割だった。
ーこの国はいつか滅びてしまう
⬛︎⬛︎なんかなくてもどうにかなる。
ーなら、私自身でこの国を壊してしまおう
生きる根気があればどうにかなる。
ーそうしたら、櫻様のところに戻れるかな
彼女は⬛︎⬛︎に侮蔑感を思い、幸せと自由を求めた。
ー櫻様、待っててください
幸せと自由が簡単に手に入る人はどれだけいるだろうか。
ー私、絶対に帰還します
産まれた時から幸せと自由を持っている人はどれだけいるだろうか。
ー私、絶対に櫻様に会いに行きます
数えるほどしかいなくて、それでも幸せと自由を掴みたいのなら。
ーだから、待っていてください
何をしてでも、掴み取ればいい。幸せと、自由を。
目の前が明るくなった気がした。
今なら、誰とでも戦える。
どんなに苦しくて悔しくても主人に会えるのならば、なにでもできる。
そう、思えた。
それを実行するのは、貴女。
貴女しか実行のボタンを押せない。
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