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短剣使い——ある緑髪の男  作者: 一陽来復


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第二章『出発』(1)

「俺はそろそろお暇するよ。何かあったらいつでも俺の家に来てくれて良いからな」

 

「本当に色々ありがとね、ザブル」


 メナの食後の食器を洗った後、俺は自宅に帰ることにした。帰る直前、彼女の顔を見ると、さっきよりほんの少し元気を取り戻していたような気がした。薬はまだ効いてないと思うのだが、きっと薬を飲んだ事による安心感があるのだろう。


「さ、俺も家に帰って昼ご飯食べようかな」


 ——俺は大きく欠伸をし、昼の明るさとは裏腹な眠気を抱えたまま、自宅へと歩き出した。

 

***


 町を出発する前日の朝、俺はいつものように朝の散歩に出掛けていた。例の喫茶店の前を通り過ぎようとすると、窓越しに、見覚えのある男が手前の席でコーヒーを飲んでいるのが目に入った。

(あれ、エイテルじゃないか。この店そんな気に入ってたのか)

 俺は無意識のうちに、店内へ足を踏み入れていた。 出発が明日ということもあり、彼に聞いておきたいことは山ほどある。むしろ、今このタイミングは都合が良すぎるくらいだった。

 

「よう、エイテル」

 

「ん?あれ、ザブル君じゃないか。奇遇だね。前の席座りなよ」

 

「奇遇ってか、アンタの姿が見えたから入っただけさ」

 

 エイテルの前の席に座ると、いつものようにマスターが「いらっしゃいませ」と言って、お冷を俺の前に置いて去って行った。

 

「あ、そうだ。ノワちゃんには本当感謝してるよ。俺の友人が例の精神病でさ。昨日、薬の効果を聞きに行ったら、だいぶ楽になったって言ってたよ」

 

「それは良かった。実はあの薬、本当は僕が持ってくる予定だったんだけど……持って行くのをすっかり忘れていて、家に置いてきてしまったんだ。それをあの子はわざわざ届けてくれたんだ」

 

「えっ、そうだったのか。ノワちゃんは良い子だな。あんな大きい荷物を遠くからねぇ……ちゃんとお礼言っとけよ」

 

「そうだね……ノワには頭が上がらないよ。僕が広場のベンチで寝てたから、薬を町の人に配るところまでやってくれたんだ。妹にそこまでさせるなんて、僕って本当ダメな兄だよ……」


 エイテルは分かりやすく落ち込んでいた。これほどイケメンで紳士的な男でも、少し抜けたところがあると知れたことが俺はなぜか嬉しかった。


「でもさ、ノワちゃんはアンタのことを“お兄様”って呼んでるだろう?だからあの子、少なくともアンタのことを慕ってる気持ちはあると思うぞ」


「そうだと良いんだけどね……」


 俺はメニュー表をさらっと見て、マスターを呼ぶ。そしてカフェラテとチョコレートマフィンを注文した。


「それで、聞きたい事なんだけどさ。モンスターのボスってのはどこにいるんだ?」


 俺がエイテルにそう聞くと、俯いていた彼はパッと顔を上げ、「ちょっと待ってね」と言い、バッグから地図を取り出した。


「ここだよ」 


「ルナリアシティ?なんでそんな所にモンスターのボスがいるんだ?」


「ルナリアシティはね、十年前までは人間が暮らす、ごく普通の都市だったけど、ある日、モンスターのボスが現れ、他の大勢のモンスターを率い、この都市を襲った。それ以来、ここはモンスターたちのアジトになってしまったんだ」


「なるほどな……」


「あ、そうだ。この間はモンスターのボスって教えたけど、モンスターのボスにもちゃんと名前があるんだ」


「なんて名前なんだ?」


「アリウムって名前だよ。精神攻撃をする事から、通称『精神蝕のアリウム』って呼ばれているんだ」


「精神蝕のアリウムか……」


「お待たせしました。カフェラテになります。マフィンの方は少々お待ちください」


 マスターはそう言い残すと、カウンターの奥へ去って行った。

 コースターからカフェラテをそっと持ち上げ、口元へ運ぶ。まだ熱そうだったので、ふうっと息を吹きかけてから、ゆっくりと一口飲んだ。

 

「しかし、何故俺にそいつの討伐の協力を頼んだんだ?俺がアンタに話しかけたからか?」


「いや、違うよ。僕は、相手の目を見れば分かるんだ。この人は強いか弱いかって事がね」


「へえ。強く見られたんなら嬉しいよ」


 その後、エイテルに聞きたい事を根掘り葉掘り聞いた。エイテルは嫌な顔せず、一つ一つの質問に真面目に答えてくれた。

 そして俺とエイテルは喫茶店を後にした。どうやらエイテルは、この店のコーヒーをよほど気に入ったらしく、しばらく通えなくなることを名残惜しそうに嘆いていた。


「それじゃあザブル君。また明日ね」


「ああ。エイテル、遅刻するなよー」


「はは、そうだね」


***

 午前七時四十八分。俺はいつもより少し厚着で、短剣と諸々をポケットに入れて正門前に立っていた。すると、向こうから人影が見えた。

 

「やあ、ザブル君。おはよう」


「おはよう、エイテル。予定時刻より早いけど、もう行こうか」


「そうだね。他に待つ人はいないし」


 二人は正門から並列してルナリアシティのある方角へ向かって歩き始めた。


「ちょっと待って!!!」


 後ろから聞き慣れた少女の声が聞こえた。二人は同時に後ろを振り向く。するとそこには、大きな荷物を持ったメナがいた。走って来たのか、かなり息切れしている。


「メナ!?どうしてここに……」


「ザブル!それにエイテルさん!ど、どうか、私もボスの討伐に連れて行って!」


 メナは深々と頭を下げた。


「ザブル君、彼女は?」


「前に話した俺の友人だ。メナ、本気で言ってるのか?だってメナは……」


「分かってる。けど、これを見て」


 メナは持っていた大きなバッグを開け、少し傾けて俺とエイテルの方に向ける。そこには、例の精神病の錠剤が沢山入っていた。


「これ、ノワさんから余ったやつを貰ってきたの。これがあれば私も戦える」


「僕は仲間が多い方が良いと思うから、彼女を連れて行った方が良いんじゃないかな」


「俺もその意見には賛成だ。だが、本当に行くのか。もう後戻りはできないぞ」


「ええ。百も承知よ。死ぬのも覚悟してるわ」


「……分かった。メナ、ついて来い」

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